第11話 VS βテスター
「おい、聞いたか!地雷武器の棒使いとβテスターのジークがPvPするらしいぞ」
「マジか、あのジークとPvPかよ、そりゃ見物だ」
ギルドでの一件。
あれから俺はあの男たちに1対1のPvPを提案した。
PvPがあるのはこの2日間のログイン時間以外でのwikを使った予習で知っていたのでせっかくの機会だ、活用させて貰ったんだが……
なんかえらい大事になっていた。
対決場所は街の広場。ギルドじゃ狭いし、迷惑がかかるということでここになったのだが、おかげで街中にこの対決のうわさが広まって野次馬が集まってきている。
俺と男たちのリーダーらしい、ジークが向かい合って立つその周りを広場の半分を埋め尽くすほどの野次馬や観客が囲んでいた。
「俺に挑んだその根性だけは褒めてやるよ」
このジークと呼ばれる男。
βテスターらしく、周りの観客が時折話題にしているのでそれなりに有名だったのであろう。
ジークは俺の貧相な装備とは違い、鉄製の両手剣に、皮の鎧を身に纏っている。
これがβテスターか。
「殺られる準備はいいか?」
こちらの装備を見て初心者だと判断しているのだろう、ジークはニヤニヤとした笑みを絶やさない。
勝負の決着は、どちらかのHPが半分を切った時点で負け。
アイテムの使用や回復は禁止となっている。
まあ、俺はアイテムも回復手段もないので全然かまわないけどな。
俺は無言でジークを見つめ、試合開始の合図を待つ。
試合開始のカウントダウンが二人の中央に表示され着々と数字が減っていく。
3、2、1……0!
カウントが0となると同時に互いに前方へ突撃する。
先に攻撃してきたのはジーク。
「おらぁああああ!」
両手剣のリーチを生かして思いきりのいい上段切りを放ってくるが……
(おそい!)
βテスターなのでかなり強いのかと思えば、ネルヴィと比べると格段に遅い。
俺は受け止めるまでもなく、体を半分横に移すことであっさり回避する。
「なっ」
避けられると思ってなかったのか、ジークの顔が驚愕で歪む。
そのまま大技を出して隙だらけになった体に俺は3回、素早く突きを叩きこみジークの間合いから離脱する。
すれ違いざまの攻防で俺は無傷、ジークはHPが1割ほど削られていた。
「へっ、少しはやるみたいじゃねぇか。ちょっと油断したぜ」
最初は驚いたようだが、ダメージがほとんど与えられてないのに気づき再び余裕そうな顔を浮かべるジーク。
余裕そうな顔を浮かべるジークに俺は再び接近し、短く突きを放つ。
しかし、さすがに先ほどの攻防で警戒されたのかジークは突きを躱すとカウンターして斬撃を繰り出してくる。
ネルヴィの殺意のこもった斬撃に比べれば、遙かにぬるい一撃を俺は体をずらすことによって躱していく。
ジークは必死に斬撃を繰り出してくるが、上から下へ、右から左へと攻撃が単調のためそこまで脅威になるような攻撃ではない。
「くそっ」
ジークは悪態をつきながら、攻撃を繰り返していくが俺は作業のように躱して突きをいくつか入れて離脱を繰り返し、徐々にHPを削っていく。
ジークのHPが7割を切った辺りで俺は思いのほか手ごたえの無さを感じていた。βテスターと言うからにはレベルは高いのだろうが、ネルヴィとの訓練でネルヴィの速さに慣れてしまっているせいか遅く感じてしまう。
そう考えていると、ジークは俺への攻撃を中断し、一旦を距離を取り始めた。
ん?どういうことだ?
ジークの行動に不自然さを感じながらジークの行動を視線で追う。
「なるほどな、口だけじゃないってわけか」
ジークはそう呟くと深呼吸をし、態勢を整える。
さすがにそんな態勢を整える暇を与える義理もないので、俺はジークに追撃を入れるため地面を蹴り上げ、一気に接近する。
思えば油断していたのだろう。
特に苦労することもなく、回避できていたせいで余裕があったせいか相手の行動を伺う前にむやみに突っ込んでしまった。
ジークの元まであと数mという距離まで迫る。
攻撃の射程範囲内にあと少し……というところでジークが構えていた薄く輝く両手剣を振りぬいた。
もちろん、両手剣のリーチでは俺には届かない。
届かないはずの攻撃。
俺はその行動を疑問に思いつつも前に進もうとして……突如脇腹辺りに鈍い痛みが走った。
「ぐっ」
思わず足を止めてしまうが、ジークは足を止めた俺に対して一気に攻め込んできた。
先ほどまでの攻撃と変わらない斬撃。
俺は痛みに呻きながらも斬撃を回避し距離をとる。
なんなんだ、さっきのは?
確かにジークと俺の間には数mの距離があったはずだ。
だが、ジークの攻撃が俺に届いた。
先ほどまでの余裕は失われ、頭には疑問が浮かぶ。
そんな状態の俺を見逃すはずもない
果敢に攻め込んでくるジークの攻撃を躱しながら、俺はさきほどの攻撃について考える。
ジークが攻撃した時、両手剣が薄く輝いていた。
ということは……
(アーツか)
おそらくなんらかのアーツで遠距離攻撃を使ったってところだろう。
そこからは膠着状態だ。
俺は先ほどの遠距離攻撃を警戒して接近戦を仕掛けるが、適度に距離を取りながらジークは攻撃を仕掛けてくる。
先ほどの遠距離攻撃で俺のHPは6割近くまで落ちている。
ここは互いの装備の性能の差が出たというべきか、ジークは未だに7割をキープしていた。
このままじゃ、いずれジークの攻撃が掠れば俺のHPは5割を切るだろう。
なら一か八かで仕掛けるか。
俺は先ほどから躱していた斬撃を武器が直角になるよう棒で受け止め、一瞬場が硬直する。
「ぐっ」
予想外の重さに俺は思わず呻いてしまった。
「さっきまでの威勢はどうしたっ!」
ネルヴィと比べても遜色のない攻撃の重さ。
攻撃スピードは遅いが一撃必殺の威力は秘めてるってわけか。
俺は受け止める振りをしながら、両手で支える棒の片方。
右手側の力をわざと弛め、左側の腕で一気に前へ押し出す。
「何っ!?」
受け流し。
ネルヴィとの訓練で身に着けた防御術だ。
右側に流れた両手剣により、体重を預けていたジークは前のめりに倒れていく。
ここだ!
俺は絶好のチャンスを逃さないべく、アーツ〈足払い〉を発動させ、ジークの足を勢いよくすくい上げ、そのまま棒を端っこを両手で持ち地面へと叩きつける。
「がはっ」
地面に叩きつけられたジークが思わず息を吐き出す。
叩きつけられた衝撃でHPが僅かに減少する。
VRとはいえ痛覚はきちんと存在している。
鈍い痛みに呻く、ジークに俺は新しく覚えたアーツを発動させる。
〈叩き割り〉
棒術が15の時に覚えたアーツだが、名前の通り上段より棒を振り下ろし叩きつける技である。
この技のメリットは棒の欠点である火力不足を補えることだ。
叩き割りによる攻撃は攻撃判定の範囲が非常に狭いという欠点はあるが、当たれば俺が持つ攻撃手段の中で最大火力となる。
たとえば今のように足払いで動きを封じられた相手になら……
ぶんっ、とバッドを振るような音を立て棒を振り降ろす。
このようにジークの腹に楽に直撃させることが出来るわけだ。
ビィイイイイ、と試合終了のブザーが鳴り響き、勝者の名前が広場の中央に高々と表示される。
『勝者 シャオ』
試合と終了と同時に、広場は歓声に包まれた。