表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

不良狩りの男

作者: 豚猫まん

 私は今、駅周辺の大通りを歩いている。カラオケ、ゲーセン、ピンサロ、風俗案内所と、80年代の置き土産達が並ぶ下品な大通りだ。

この大通りを通るのは本日で5度目になる。遊びに来た訳ではない。忘れ物をした訳でも、探し物をしているわけでもない。


 この街を見渡してみると、もう夜の8時だというのに中学生達がフラフラ歩き回っている。だらしない内股で歩き、上着全てをズボンの中に突っ込み、更に靴下の中にズボンの裾を突っ込んでいる。ガムを口に入れ数回噛んでは吐き出し、更にまたガムを口に入れてという事を繰り返す。モラルの欠片もない。


向こうを見てみると中年のサラリーマン達が立ち小便をしている。多く見積もって5人はいるだろう。皆、汚いケツを丸出しにして一心不乱に小便を捻り出しており、中には大便をボトボトと垂れ流す奴もいる。そんな男達が日本の将来について語っても説得力など皆無だろう。


 そろそろ私がこの街を観光している理由を説明しなければならない。私は小学生・中学生を中心に悪の芽を摘むことを仕事としている。まともな大人になると私の言う事など聞きやしないし、高校生では力比べになると勝つ可能性が非常に薄いからだ。それ故に小学生、中学生を対象としているのだが、最近の子供は贅沢な良いものを食べている

せいか、中学生でも最近は大柄な者たちが増え、危うくなっている。


 仕事は簡単・単純明快。不良を取り締まるだけだ。酒、たばこ、シンナー、麻薬、売春・・・。最近の子供の非行は見るに堪えないものが多い。そんな迷える羊たちを見つけ、その者達がいかに間違っている事をしているかを諭し、納得してもらった上で無事に自宅へ帰ってもらう。

とはいえこの仕事で生計を立てているわけではない。その為に収入源となっている空き缶拾いに支障をきたすようではいけない。あくまでこれはボランティアだと、そう考えてもらえれば幸いである。包み隠さずに言うと、このパトロールが仕事になっているとは到底思えないのだが、責任感の強い私はどうしても趣味で片付ける訳にはいかないのだ。今日も3時間ほど徘徊を続けている。道中食べたソフトクリームの数は10個を超えた。


 今日は暴れ狂っている小中学生はいない。そう確信しダンボールハウスへ帰ろうとした矢先、鼓膜が破けるような奇声が聞こえた。小学校高学年ぐらいの女性が同じく小学校高学年ぐらいの男性の胸ぐらを掴んでいる。女性の顔は涙と鼻水とよだれでメイクが無残にも崩れている。男性は引きつった笑顔のまま髪の毛をしきりにいじっている。

どうやら別れ話の最中に女性の方が激昂し、男性に掴みかかったとみた。早速私の出番だ。諸君、よく見ておきたまえ。


 「あのー、何で喧嘩してるんですか。あのー。良かったらお話を伺ってもよろしいでしょうか・・・。」


 喋り終わらない内に女性が叫んだ。


 「うるじぇえんだよジジイいいいいいいいーーーーー!!!あっち行けえええええええーーーーーー!!!!!!!!」


 罵声と共に飛んでくる女性の唾。それを2人に気づかれないよう素早く舐めとったあと、私は続けた。


 「いや、あのー。私はこの街の小中学生の非行を防止する為のパトロールをしておりまして、あのー・・・。」


 次の瞬間、女性のヘッドバットが私の顔面に炸裂していた。破裂した水道管の如く吹き出す鼻血。砕ける私の鼻。

もう一発ヘッドバットが来る。それを顔面で優しく受け止めたあと、女性の背後に素早く回り込む。腰を両腕でホールドしそのまま前に倒れこむ。

暴れる女性の唇を奪ったあと、女性の右腕を左手で押さえつけ、仰向けのままの女性に跨る。右足で女性の左腕を押さえつける。


 そして空いた右腕で・・・殴打!!!。

顔面を殴打!殴打!殴打!タイミング良く!スタッカートのリズムで!


 集まるギャラリー。皆の視線は私の雄姿にくぎ付け。まるで神になった気分だ。ふと先程まで胸ぐらを掴まれていた男性の方を見る。恍惚の表情で私を見ている。下半身に視線を移すと、ズボンの上からでもわかるくらい陰部が膨張している。

これ以上続けると警察がくるかもしれないと、私は女性から離れた。血まみれの顔面は2倍以上に膨れ上がり中央に3つ並ぶ巨大なコブがアンパンマンを彷彿とさせる。私は勝ったのだ。この二人に勝ったのだ。血まみれの右手は勝利の証。虫のように群がってきたギャラリーを押しのけ、帰路へとつく。


 途中にあったコンビニのゴミ箱を漁ってみると、ペットボトルに飲みかけのカフェオレが残っている。私はその勝利の祝杯を一気に飲み干した。

本当は仕事の後にはビールが良いのだろうが、アル中ばかりのこの街でビールが缶に残ったまま捨てる阿呆など居るはずがない。


ダンボールハウスへと到着し、寝床で横になった。まだ勝利の余韻が残っている。女性の鼻を砕いた時の生々しい感触。拳を振り下ろす度に飛び散る鮮血。最後の一撃を放ったあとのベチャっという効果音。全てが私を高揚させた。どうやら今夜は寝付けそうにない。明日はどんな修羅場が待っているのだろう。

いつもうまくいくわけではない。不安は絶えない。だが、見えない何かが私を導く。見えない何かが私を動かす。


この街は、私が守ると決めたのだ。


 完



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ