事故
ついさっき自分たちが立っていた電柱のところには、大型トラックが突っ込んでい
た。
そして、そのトラックの前を何かが飛んでいた。
細くて白い……肢体。
ついさっきまで自分たちの近くにいたはずのもの……。
ソレは、晴れ渡った真っ青な空を優雅にしなって、ゆっくりと舞った。
黒いスカートがひらひらと揺れる。
白いブラウスがひらひらとはためく。
綺麗な黒いさらさらしたものが風でなびく。
そして力尽きたかのように落ちる。
いや、堕ちてきた……。
ソレは勢いよく地面に叩きつけられた。
三度ほど跳ね上がって、そのつど鈍い音が聞こえる。
ソレは、ようやく止まった。
うつぶせのソレからは紅い何かがあふれ出していた。
その紅は見慣れた色。
でもその量は…信じられないほど多かった…。
それはだんだんと広がり、道を紅い色に染めていった。
あれはいったい……ナンダロウ
二人は何もわからないまま硬直していた。
トラックの運転手は電柱にぶつかった拍子に気絶しているようだ。
そんなどうでもいいことだけは鮮明にわかる。
人がたくさん集まっていることとか、その中の一人が救急車を呼んでいることとか、
子供がおびえたように泣き叫んでいることとか…
でも、一番大切なことは理解できなかった。
「琉…依…?」
るなが小さく名を呟く。
「あ…ううん、違う。あれは…琉依じゃないよ。
だって、琉依は先に行っちゃったんだもん。私たちにあきれて…いつもみたいに速足
で…先に行っちゃったんだ。ほら、早くいかないと…琉依に怒られちゃう…。
だからそうだよ。あれは、全然違う人だよ……」
るなは自分に言い聞かせるように呟いた。
だが、るなにもわかっているのだ。わかりきっているのだ。
ただ、契と同じように受け入れられないと言うだけで…。