Ⅷ パパとママ
保育園の玄関で保育士に付き添われ、紗夜は座っていた。
「おねえちゃーん。」
紗夜は目に涙をためて、私に抱きついてきた。
「ごめんね。色々用があって。」
私は、紗夜を抱きかかえて保育園の中に入った。
「あ、一花ちゃん。遅かったわね。どうしたの?。」
私が保育園生だった時、担任してた先生が残っていた。
「すみません、学校で残されてしまって…。」
「え!?。居残り?。」
「いえ。」
私は先生の手に抱きかかえられている涼香を、自分の手で抱きかかえた。
「ほんと、遅れてすみませんでした。」
私は、お辞儀をして紗夜と涼香と家のほうへ歩き出した。
もうすぐ夏になるから、七時くらいだと薄暗い。
家に着くと、部屋に明かりがついていた。玄関を開けると、奥のほうから、どなり声がした。
パパの声だ。今日は、帰ってくるの早いな。また喧嘩してるのかな。
甲高い声はママの声?。
いつものことだから気にせず子供部屋に荷物を置いて、キッチンに向かう。
ピーンポーン
こんな大変な時にだれ?。
「はい、どなたですか?。」
玄関に走って行く。
「私、月影一花さんの担任をやらせていただいております、伊東と申しますが、少しよろしいでしょうか?。」
伊東先生?。
「あの、何のようでしょうか?。」
玄関を少しだけあける。
「あ、月影さん。」
家の事情知られたくない。
紗夜も涼香もパパもママも静かにしていて。
「これ、帰りに渡しそびれていたやつなんだけど。」
そんなことだけのために来たの?。
プリントをもらって、ドアを閉めようとしたら、またパパとママのどなり声がした。
「うわーん、おねえちゃーん。」
紗夜が泣いてわたしに抱きついてくる。リビングで涼香が泣いている。
そうだ、お鍋火にかけっぱなしだ。
「先生、今はちょっと。」
「そうですか…。では、少し待っています。」
「それで、何でしょうか。」
私は、外にでて聞いた。
「家、大変なんですね。」
先生は、苦笑した。
ばれたくなかったのに。だいたいの大人は、「えらいのねえ。」とか「かわいそうに。」とかそんな目で私を見る。
学校でだって、坂井先生以外はみんなそういう先生だったもの。他人事のように。他人だけどさ。
「そんなことないです。」
「坂井先生に月影さんのこと少し聞いたんだよ。」
「えっ?。」
「家のこととか。」
坂井先生、話しちゃったんだ。
別に嫌じゃないけど。
「おい、うるさいぞ。一花、紗夜と涼香どうにかしろよ!!。」
パパのどなり声だ。
「はい、今すぐ行くから待って。」
「先生、もういいですか?。」
「あ、ごめんね。じゃあ、明日また学校で。」
「さようなら。」
私は、家へはいった。
パパが、玄関の前で待ち伏せしていた。
「おい、今の男誰だ?。」
「担任の先生だよ。」
私は、涼香を抱きあげる。
「担任は、女の先生だったろ?。」
「・・・かわったの。」
「そんなことあるわけねえだろ。 」
パンッ
と音がして私の左ほおに激痛が走った。
涙も出ない。
こんな生活がいつまで続くの?。
読んでいただいて、ありがとうございます。
すこしずつですが、伊東先生と一花が仲良くなっていく…?。