ⅩⅣ 距離を置く。
無人駅に着いた。
明日まで、バスがこないらしい。
だから、雨宿りとしてここにいる。
このまま、帰りたくない。
あの家に。
ずっと、先生といたい。
「はい。」
先生は私に温かいココアを買ってきてくれた。
「ありがとうございます。」
夏も、もう終わり。
この服装じゃ、少し肌寒い。
でも、先生といられるならこんなもの平気。
「これ、着な。」
先生の優しい声がすぐ横からした。
隣りに座ってるんだもん。当たり前か。
先生は、私に厚手のジャケット貸してくれた。
ジャケットは先生の匂いでいっぱい。
嬉しい。
先生がさっきまで着てたから、あったかい。
ずっと、この時間が続けばいいのにな。
目が覚めると、朝だった。
先生は、腕を組んで私に寄り添って寝ていた。
・・・先生・・・。
寝顔も素敵。
嬉しくて、涙でてきそう。
先生を起こさないようにそっと携帯の電源を入れる。
万が一、パパにGPSとかで(そんなこと絶対しないと思うけど。)さがされた場合、居場所がばれないように。
携帯を開いた。
メールの新着・・・10件?。
誰?。パパ?。
・・・坂井先生?!。
一件目から、見ていく。
「返事ないけど、どうしたん?。」
私が、バスに乗ったころだ。あのころに、電源を切ったっけ。
ずっと、読み進めていく。
8件目。思いもよらないことが書いてあった。
「聞いたんだけど、男の人の家に泊まりに行ったの?。」
なんで・・・知ってるの?。
9件目。
「誰にも言わないから、教えて。」
10件目。
「今、どこで何をしてるのか、分からないけど、あなたのお父さん来たよ。
一花ちゃん、お願いだから、返事ぐらいはして。無事なの?。」
ここで、終わっている。
坂井先生…。でも、今は、返信できない。ごめんなさい。
ずっと、返信してない。
ごめんなさい。今だけは、許して・・・。
「あ、朝か…。」
先生の声がした。
外は、とてもはれている。
来た時と同じくらいに、雲ひとつない。
「かえろう。」
!?。
分かっているけど、そう言われるとちょっとさびしい。
もっと、一緒にいたかった。
パパに外出ばれてるなら、帰れない。
バス停に向かう。
ポケットに入っていた、携帯がかすかに震えた。
…電源消すの、忘れてた!!…
携帯を開くと、学校の中では一番仲良くしている、なづなからだった。
「ねえ、今、伊東先生といるの?。
メールで写真回ってる!!。」
!!。
何も言えなかった。
まさか、そんなはずないよ・・・。
返信しようとする手が震えて、思い通りに打てない。
となりで、携帯をいじっていた先生が、一瞬手を止めた。
「なんだ、これ。」
先生は、声に出した。
先生の携帯をチラ見すると、なづなから送られてきたのと同じ写真を持っていた。
「先生、私のも。」
先生は、私の携帯を見ると黙った。
バスにのってから、私たちは一言も話さなかった。
口を先に開いたのは・・・、先生だった。
「一花。」
どきっ。初めて名前で呼ばれた。
「はい。」
「今日のことは、なかったことにしよう。良くないことになっているみたいだし。」
「それって、つまり・・・。」
「距離をおこうってことだ。」
私が言おうとして、先生が言った。
「では、今日で最後なんですね。」
「ああ。」
先生が、涙をこらえているのは声で良く分かる。
「俺たちは、ただ、バス停で偶然会って、同じバスに乗っただけだ。行った先は全然違う。会った時は少しの会話しか、かわしてない。」
「…はい。」
読んでいただいて、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。




