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むしろツンドラ

続々・オレとツレの結婚式事情

作者: 園橋のぎ

尋は否定派ではございません。ロマンは大事ですよね。

 お姫様だっことか、馬鹿じゃねぇのと思ってるのは多分オレだけじゃないと思う。多分。

 人を持ちあげる姿勢としちゃあ、腕に負担かかり過ぎるしね。

 2本の腕で1人分の体重支えてみやがれ、とかイジメじゃね?

 なんで、あのポーズは基本運搬側が被運搬の首に腕を回して重さを分散させないと大体出来ません。無理です。

 ついでに言うと腰にも負担がかかります。

 やりたい人はまず筋トレしましょう。

 あと、股関節を使うとか、前に抱えてる分重心はやや後ろに置くとかすると多少安定します。

 でも、元々人を持ちあげるのに適した姿勢じゃありませんよね。


 てかさ、これやって欲しいって人、何か理由あんの?


 守られてる気分ー、ってアホですか。

 両手ふさがってんじゃん。

 行動阻害してるじゃん。

 1人分の体重両手で抱えてる状態でどんだけ動けると思ってるんですか?

 守って貰いたいなら、まず腕から降りろ。

 そして脳みその中身取り替えて来い。


 大事にされてるかんじー、ってバカですか。

 本当に大事ならそんな危ない真似する訳ないじゃん。

 その姿勢は万一の時、抱えられてる側も受け身取りにくい姿勢なんですよ?

 落して空中再キャッチ出来るような相手なんですか?

 普通ムリだろ。

 つまり、その姿勢のままで貴方は地面落下します。

 腰打ちますね。

 痛いですね。

 打ち所悪ければ2度と歩けないかもですね。腰の辺り骨折すると大変なんだぜ?

 そんな状態にされて、大事にされてると思うんですか。そーですか。


 まぁ、演出としちゃあ、悪くないと思いますよ?

 良く見るのが結婚式の奴だけど、パフォーマンスとしてはただ並んで歩くよりは目を引きますし。

 でも、それもきちんと出来れば、って条件付きですよ。

 あと、衣装って基本立った状態で正面から見た時が一番綺麗だって分かってるならね。

 抱きあげたら、本来見えるはずのレースとか……えーと、レースとか……レースとか、何かふわふわした奴も、きらきらした奴も、花の形した奴も見えなかったり、歪んだり、うっかりすると潰れますから。

 借り物なのに、ふんわりが命の飾りを潰しちゃったりしますから。

 あと裾の問題ね。

 ああいうドレスは裾がでりーんと長かったりするから、そうすると持ちあげたぐらいだと床から離れないんですねー。

 両手に大荷物抱えた状態で、しかも前にずるずると布がまとわりつくとか大変ですねー。

 抱えたまま花嫁ごとこけるとか大ハプニングですね。

 一生忘れられない式になりそうですね。

 ま、落すこけるしないまでも、腕ぷるぷる、足よろよろ、顔ぎりぎりで登場されたら失笑もんです。

 演出するならしっかり、きっちりやらないと台無しです。はい。


 そういう舞台ならまだしも、日常生活でお姫様だっことか、介護の世界ですよね。

 乳児の抱き方もそう言えばほぼ同じだよな。

 てか、あれ何でお姫様だっことかこっぱずかしい名前ついてるんだろう。

 横抱きですよ、正しくは。

 よ、こ、だ、き。

 OK?

 姫とかまったく関係ありませんから。

 てか、本物の姫ならなおさらそんな運び方あり得ませんから。

 大体さー、持ち上げられて守ってやってるぜー、アピールされてもぶっちゃけうざくね?

 はいはい、守らなきゃいけないほど弱いと思われてるんですね。

 簡単に持ち上げる俺って強いって言いたいんですね。

 かっこいいですねすてきですねつよいんですねさようなら。てか目の前から消えやがれ。

 こっちは視点高いし、不安定だし、すっげー嫌で怖いんですけど。

 嫌なんですけど。

 嫌なんですけど。

 ものすっごく嫌なんでーすーけーど。


「っていう主張の末、おんぶになりました」

「何か言ったか?」

「いいえー、別にー」


 ツレの背中でとーい目をしながら呟くオレ。

 何でこんな状態かと言うとですね、オレの体力が尽きたからです。

 何で尽きたかと言うとですね、オレを背負ってるこのアホのせいです。

 異論は認めない。

 ……や、うん、でもやっぱり認めない。

 チッと舌打ちすると、背中にくっつけた腹の方にツレの苦笑がじわーっと伝わってきた。

 くすぐったいんで止めてください。


「機嫌悪いな」

「そう言うお前は機嫌が良いですね」

「お前が近いからなー」


 出来れば前で抱きあげたかったけどな、とかまだ未練たらしく言ってるので、首に回してた手の片っぽを外して耳をギリギリしてやりました。


「痛っ?!」

「次、オレを「マグロ獲ったどー、どっせーい」な持ち方しやがったら、お前のアゴを砕く」

「……いや、その表現はどうかと思うんだが。それにお前の手の方が怪我するから止めてくれ」

「じゃあ、次オレを「お品物はこちらになります」な持ち方しやがったら、貴様の心を砕く」

「……」


 人の嫌がることをしちゃいけません。

 ふん、と鼻を鳴らしたオレにツレはやっぱりちょっと苦笑して「本当に嫌ならやらないさ」と相変わらずの無駄美声で答えた。


「でもお前の顔が見えないからな、これだと」

「うん、お前の顔も見えなくてすげー楽」

「……本当にお前って俺の顔嫌いだよな。分かってるんだけどさ」

「だって美形すぎてむかつく。顔が良い男って絶対性格やばいよね」

「それは言い過ぎだと思うが、お前の人生に関わってきてる連中にそう言うのが多いのは認める」

「オマエモナー」


 お前がある意味一番変です。

 オレの顔とか見てどうするんだよ……意味分からん。

 相変わらずどっか変っつーよりも、ことごとく変過ぎて何が普通だったか分からないツレの言葉を適当に流しつつ、オレは寄りかかってる背中にごん、と額を押しつけてみる。


 はー、背中落ちつくー。

 あれですね、赤身のロース系の肉質な背中ですね。多分。

 適度にあったかくて、見た目以上にがっしりしてるんで良いクッション具合です。

 酒臭かったり、タバコ臭かったりもしてないしね。

 乗っかった時に嗅いでみたから間違いない。ツレ臭しかしませんでした。

 オレ結構臭い酔いするから大事なんですよ。

 ちょっとでも嫌な臭いだと思うとすぐ気分悪くなるし。タバコとか酒か、最悪ですよ。

 でも、この状態なら許す。

 って何様ですかオレは。オレ様か。

 

 特に意味も無い会話を頭の中で繰り広げてセルフつっこみしてみたりしながら、オレはぐりぐりと頭を荷台に擦りつけてみる。

 意味はありません。それが何か。


「……あー、何だ。眠いのか?」

「んー……や、何か疲れすぎてテンションおかしいだけ……」

「猫じゃないんだからマーキングするなよ」

「……。うりゃ、ずーりずーり」

「だから止めろって……生殺しにする気か」

「んー……」


 とりあえず嫌がってるぽかったんで、仕返しにずりずりと更に頭を擦りつけてみる。

 え? さっき「人の嫌がることしちゃいけません」って自分で言ってたじゃないかって?

 チチチ、甘いな。

 昔の偉い人はこう言いました。


 「人の嫌がることを進んでやれ!」と。


 ……どんだけドSだったんだろう。てか、名言として残っちゃうとは思わなかったんだろうなぁ。

 オレのツレも相当性格悪いけど……うん、悪い奴ではないんだけどね。性格悪くて変態だけど。

 えーと、何してたんだっけ。

 何かもう疲れて頭の中ぐだぐだですな。

 あ、うん、そうだ。


「指輪買ったんだよなぁ……」


 引っ張らなかった方のツレの耳に着いてる銀色の輪っかを見てオレは呟く。

 ……指輪じゃねぇだろって? 指輪なんだなーこれが。

 指じゃなくてピアスに無理矢理ぶらさげてるけど、一応指輪です。

 世間一般で言う結婚指輪ってやつです。

 さっき散々もめた末購入した、某ブライダル専門店のお品でございます。

 宝石無し、リング部分にも捻りなしの銀の艶消しの丸いやつね。

 ツレは最後までペアリングを未練たらしく見てたけど、オレが鼻で「ハッ」って嘲笑ったら諦めた。

 んなこっぱずかしい物お断りだ。


 ……てかさー。なーなー、聞いてくれよー。

 こいつさー、ホント馬鹿でさー。例の店にオレを拉致ったあげく、簀巻きにして連れ込んだんですよ。

 簀巻きですよ、簀巻き。

 あのぐるぐるーっとまるめて、ドラム缶に詰めて湾に沈めるアレです……ちょっと違うか。

 しかもその前に、「やっと仕事終わったから帰るべやー」と油断しきってたオレを背後から襲って気絶させやがりました。

 ……。

 や、もうね、突っ込み所がね。

 何でオレが法律上の配偶者に誘拐されなきゃならないのか、ってことですよ。

 何で運搬方法が簀巻きなんですか、ってことですよ。

 しかも連れてかれた先が有名老舗宝飾店ですよ。

 そういうところに、仕事帰りの姿のまま、簀巻きのまま、髪の毛ばっさばさの、仕事疲れでぼっろぼろで運び込まれたんですよ。

 ツレに。

 ま、そんなんでお陰で仕事の疲れに色んな疲れがプラスされて、疲れのテーマパーク状態ですよ。

 ひろーかんぱいの宝石箱ですよ。

 朝見たグルメリポーターのヒコ何とかさんの影響ですよ。

 そしてとりあえず、ツレはいっぺんもげると良いと思う。


「……もげろ」

「いや、だから後ろでそういうことをぼそっと呟かれるとすごい怖いからな?」

「顔もげろ。むしろその良く分からん頭の中身ごともげろ。首の付け根からもげろ。もぎょっともげやがれ」

「あのさ、さすがに俺でも首がもげたら死ぬからな?」

「アンポンタン、ぎゃらくしい顔よ」

「お前そのネタ気に入ってるな……」

「てか絞めたら取れないかな。よし、首絞めよう。絞めてやる。絞まれ。首絞まれ。もげてしまえ」

「こらこらこらこら」


 後ろからぐぎーっと子泣き爺よろしく絞めつけてみる。

 手じゃ絞めらんない太さなんで、腕を回してぐいーっと、こう必殺……必殺……なんだっけ。必殺技。

 うん、てか全然ダメージ与えられてませんね。

 体力格差ですね。


「むかつく」

「悪かったな、交換もできないし食えない顔で」

「食えない奴め」

「それ意味違わないか?」

「むかつくんですけど。指輪とか耳につけちゃって馬鹿じゃねぇの? ばーかばーか」

「……お前、本当にテンションおかしいな」

「てんちゅー」


 がぶっ。


「あぐぐぐぐぐ」

「馬鹿、こら、首を噛むな。その気になるだろうが」

「うぎぎぎぎ」

「はいはい、俺が悪かったって……頼むから勘弁してくれよ」

「ぺっ。まずい。ぺっぺっ」

「……はいはい。まずくてすみませんね」


 いや、本当にツバ吐いたりしてませんけどね。ばっちいから。

 とりあえず噛んでて更に疲れたんで、もう一度額をツレの背中にゴンとぶつけてみる。

 もっかいズリズリしておこう。

 うりうり。


「……お前何がしたいんだ」

「何だろう。良く分からんけどさ、なんか馬鹿だなーと」

「分かった。確かに今回の俺の行動は馬鹿だったよ。悪かったって。もうやらないから勘弁してくれ」

「やー、そうじゃなくて……オレがさ、馬鹿だよなー……ってさ。何でこうなんだろ」


 もう一度ごん、と頭突き。

 オレの一撃ぐらいじゃびくともしないツレの背中はあっさり衝撃吸収しちゃう安全性能トリプルAだ。

 なんだかなぁ……。


「そんなオレを背負っちゃうお前も馬鹿だよな。邪魔じゃん。下ろしちゃえ。んでもってどっか行っちゃえ」

「下ろさないし、行くならお前も連れてく」

「無理すんなって。普通に考えて邪魔だし、意地張る意味ないし、お前の好みでも無い訳ですし、面倒くさいじゃん。今からでも遅くないぞ」

「意味ならある。無理はしてるけどその価値はある」

「何かっこつけてるんですか。かっこつけは顔だけにして下さい」

「指輪な」


 ベルト固定で背中に乗っかってるオレに、何故かわざわざ片手を添えて来るツレ。

 やっぱ重いんじゃね?

 無理すんな。

 もう若くないんですから……や、まだ若いけどさ。


「確かにお前の言う通り、俺の仕事にとっては意味はないし、指に着ければ妨げになる。価値だって実際に今日払った金額ほどのものじゃないのは俺だって分かっている。でも俺には意味がある」

「……聞きましたよ、さっき」

「お前も同じように感じてくれとは言わないさ……そうなら嬉しいけどな」

「無理です」

「ま、それはしょうがないよな。でも、持っててくれるよな」

「約束したからな。オレは約束は守るおとこですよ。約束一つ守れなくてどうやって信用して貰うんですか」

「お前のそういうところが俺は好きだ」

「さいですか。オレはお前の顔が苦手です」

「……慣れてくれ」


 どうだろう……あの顔に慣れる日が来るんだろうか。いっそ、常時謎の覆面マスクとかしてたら良いんじゃないだろうか。オレのおすすめは月光○面です。

 しーろーいーすーはだーの……あれ? これ○ッチャマンだな。


「なぁ」

「何さ」

「俺が死んだらさ、こいつが残ってたら墓に入れてくれよ」

「オレが死んだら指輪はお前にお返しするので、適当に売りさばいて下さい」

「そこはお前も墓に入れるって言う場面じゃないのか」

「えー、やだよ。かぶれそうじゃん」

「死んだら関係ないだろ」

「よーく考えよー、お金は大事だよー。お金で買えない価値は無い。買い占める時はマ○ターカードで」

「そんな拝金主義のCMじゃなかっただろう、それ……」

「とにかく。墓には入れません。入れさせません。入れたら投げ返す」

「それ生きてるよな、どう考えても」

「あと身に着ける気もありませんから。絶対やらないから。指輪三原則ですから」

「何だその指輪三原則って」

「持たない、着けない、持ち込ませない」

「成程……」

「ちなみに、離婚の暁にはオレのポンデ代になります」

「今度買って帰るからそれで満足してくれ」

「抹茶味食いたい」

「ん、抹茶な」


 だんだん何話してるのか分からなくなってきたですよ。


「抹茶食おう。お前にはイチゴ味用意してやるから」

「お前……毎回俺に苺食わせようとするけどそんなに好きじゃないからな?」

「好きじゃないって言われた……」

「いや、お前のことじゃなくて苺味がだな……おい、寝るのか?」

「うん……」


 だんだん眠くなって来たっぽいや。


「無理するな、寝ておけ」

「うん……」


 じゃあ、お言葉に甘えます。

 ついでによだれでも背中に着けてやろう……なんか、むかつくし。イケメンなんかコメディになっちまえ。

 心の中で3回呪って、オレはゆらゆら揺れてる指輪を目を閉じてシャットダウンした。



 おまけの話。

 

 翌朝、隣で寝こけるツレを当然スルーしてオレが一番にやった行動は貰った指輪を携帯ストラップに針金でしっかり固定することでした。


 絶対、意地でも着けませんから。

 着けませんから。ケッ。


 

誰とは言わないけどこんな未来。

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― 新着の感想 ―
[一言] ナカバじゃないですか。やっぱりですか。でも過程が異常に想像し難い。いっしょにいるのは想像しやすいのに。なんといいますか・・・・こう・・・ねえ。
[良い点] カード会社の本音だだ漏れのキャッチコピー [気になる点] 感想の返答におまけ書くとか鬼ですか? 気づかなかったらどうするつもりだったんだー!(笑) [一言] 初めての感想書き込みがこんなん…
[一言] ・・・拝見しました。 指輪、奥底に封印したんじゃないのね。 それだけでもいい人だと思うよ。 ちなみに、首をもぐのは大変だと思いますが、 絞めるのは簡単です。 相手の喉仏の下に腕(?指でも可…
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