昼休み
時計の針が頂点にて重なる時、正午。
昼休みを告げる機械的なチャイムが鳴り響く中、泰斗は辺りをゆっくりと見回した。
「……いない、な」
チャイムの余韻がまだ残っているにも関わらず、瑠美の姿は無かった。
酷く狭い空。この学校には第二校舎のみ、昼食を青空の元で食べられるようにと、屋上が開放されている。
「ふう、やっと見つけた」
校舎中走り回って汗だくの泰斗が瑠美を見つけたのは、普段、生徒が全く寄り付かないその屋上だった。
「何よ、こんなとこまで来て」
膝の上にちょこんと乗せたお弁当箱を頬張りつつ、瑠美は体を泰斗から背けた。
「えっと、とりあえず、隣、いい?」
「駄目」
0,02秒。これ以上ないまでの即答だった。
「もう、瑠美ちゃんのケチ」
仕方なく泰斗はその場にしゃがみ込んだ。
「名前で呼ばないで、殴るわよ」
相変わらずそっぽを向いたままで、瑠美はとんでもない殺気を放った。もし次に言ったら、果たして殴られるだけで済むのだろうか。
「で、そろそろ隣いいかな」
泰斗は懲りずに立ち向かう。
「向こうに座ればいいでしょ」
瑠美は数多いベンチの中から、一番遠いベンチを指差した。
「……ここでいいです」
足元のゴミを退かしながら、泰斗は三角座りをした。埃も多く、生徒が近寄らないだけに掃除も行き届いていないようだ。
しばらく無言が続いた後、瑠美が話を切り出した。
「ねえ、あんた、お昼は?」
「ああ、俺はあんまり食べないんだよ」
泰斗は大きいゴミをまとめて傍にあったゴミ箱に捨てだした。意外と綺麗好きなようだ。
「ふぅん、ま、どうでもいいけど」
そう言って瑠美は立ち上がり、お弁当箱片手に扉へと歩きだした。
「え、もう戻るの?」
瑠美に続いて立ち上がり、泰斗は情けない声を漏らした。
「当たり前でしょ。……あれ、開かない」
瑠美はドアノブを握ったが、その扉は固く閉ざされていた。
「え、どうしたんだよ」
様子がおかしいのを感じ、焦って瑠美に駆け寄る。
「開かない、開かないよ!」
一度、二度三度、ノブを捻るが、扉はビクともしない。
「あんた、何かしたんじゃないでしょうね!」
瑠美は泰斗に疑いの目を向けるが、それが不可能だということは解っていた。
この学校、AASは扉はおろか、窓やロッカーまでコンピュータ制御に頼っている、故に一個人、それも生徒一人でいじれるものではない。
「落ち着きなよ。そんなの、無理に決まってるだろ」
泰斗は踵を返し、先程まで瑠美が座っていたベンチに腰を下ろした。
「とりあえず、ここで待とう。きっと誰かが気付いてくれるさ」
「……うん」
瑠美の瞳には涙が浮かんでいた。無理もない、二人は閉じ込められたのだ、青空の下に。