番外編その2 “争奪戦”
神奈裸備島に到着した日。
七子と別れた後、守哉達はこれといってやる事もなかったが、とりあえずホテルを出る事にした。
「これからどうする?」
忠幸が島のガイドブックを開きながら言った。ホテルで無料配布していたものである。
横からガイドブックを覗き込みながら七美は答えた。
「そうね~……適当にその辺回ってみる?」
「適当じゃダメだろ。守哉が服を買えないじゃないか」
「だったらまだ入ってない洋服のお店に入ればいいでしょ。守哉が買うかどうかは別として」
「守哉が買わないと神奈裸備島に来た意味がないだろ」
妙に守哉にこだわる忠幸に、七美は思わずため息をもらした。
「あんた、ちょっと守哉にこだわりすぎじゃない?いくら付き添いだからって、気にしすぎよ」
「そんな事はない。俺は責任感が強い男なんだ」
「どう考えてもあんたのそれは責任感じゃないでしょ。ねぇ、守哉」
いきなり話を振られて、ぼーっと突っ立っていた守哉は我に返った。
「え?なんだよ」
「いつまでぼーっとしてんのよ。聞いてなかったなら別にいいわ。ほら、さっさと行くわよ」
「行くってどこに?」
「どこでもいいでしょ。そういえば七瀬は?」
七美が七瀬を探して辺りを見回していると、遅ればせながら七瀬がホテルから出てきた。
「……ごめんね、ちょっと遅れちゃった」
「気にしてないわよ。それじゃ、行きましょうか」
「そうだな。よし、守哉、俺についてこい!」
「へいへい」
忠幸に手を引っ張られて歩き出す守哉。あまり気乗りしないのか、その足取りは重い。
そんな守哉を、七瀬は険しい表情で見つめていた。
☆ ☆ ☆
守哉と忠幸のやや後ろで、七瀬は考え事をしていた。
「………」
前を歩く守哉は、困ったような顔で忠幸の言葉にうなずき返している。
それは別にいい。しかし問題は、忠幸が守哉の手をいまだに握っているという事である。
「………」
わかっている。二人は友達で、それ以上でもそれ以下でもない。自分だってそうじゃないか。
でも、きっと忠幸の方は違う。忠幸は守哉を、友達以上の存在として見ているに違いない。だって、忠幸の態度は、どう見ても恋する乙女のそれ―――
「……!」
不意に、忠幸の手が守哉から放れた。道を聞くために、近くにいた通行人に向かって走っていく。
最早、是非もない。七瀬は素早く守哉の傍に駆け寄った。
「ん?どうした?」
守哉の手を握る。暖かくて、柔らかい。男の子の手とは思えないくらい華奢だ。
「……えへへ」
「?変なやつ……」
上目遣いに微笑むと、守哉は不思議そうにこちらを見つめてきた。
思わず顔がにやけてしまう。守哉の手を抱くように握り締め、頬をすりすりと擦り付ける。
「お、おい……歩きにくいんだけど」
守哉が困ったようにそう言ってきたけれど、気にしない。だって、守哉は嫌がってそう言っているわけじゃないから。
頬をぽりぽりと掻く守哉を尻目に、幸せそうに七瀬は微笑んだ。
☆ ☆ ☆
親切な人から店の場所を教えてもらい、いざ戻ってきてみたらこれだ。
「………」
守哉の手を握る七瀬を見て、忠幸の笑顔は硬直した。
先ほどまで自分が握っていたその手を、七瀬は両手で握っている。守哉は困ったような顔をしていたが、嫌がっているそぶりは見せない。
(ぬぅぅぅぅぅぅぅっ!!お、俺の、俺のベストポジションがぁ……!)
心の中で嫉妬の炎を燃やし、忠幸は震えた。
守哉は大切な友達で、親友だ。その親友が、どこぞの女狐に奪われようとしている!
(このままでは、守哉の貞操が危ない……!)
にこやかに笑顔を浮かべながら守哉に近寄る。一瞬、七瀬の顔が曇るのが見えたが、気にしない。
「守哉、今聞いてきたんだけどさ、向こうに今話題のお店があるらしいんだ!行ってみないか?」
「話題……と言われてもな。俺、服を買いにきただけだし……」
「いいから行こうぜ!な?」
守哉の空いていた手を取り引っ張る。それはもう、ぐいぐいと引っ張る。
「お、おい、急かすなよ」
自然と、守哉の手が七瀬から放れる。あまりに強引に引っ張ったためか、守哉は足をもつれさせてこちらに倒れこんできた。
胸に柔らかい感触。守哉の身体は、男とは思えないほど柔らかかった。
ふひょーっ!
「あ、悪い。足がもつれちまって」
「い、いいさ。気にしてないし」
興奮して顔が赤くなったのが自分でもわかる。思わず抱きしめそうになってしまうが、理性を総動員して我慢する。
守哉の後ろで七瀬がショックを受けたような顔をしていたが、気にしない。
「ほら、行こうぜ」
守哉の手を取り、先へ急ぐ。
微笑む守哉を引っ張って、忠幸は満足げにしていた。
☆ ☆ ☆
「……なっ、なっ、な……!」
うまく声が出ない。
忠幸は守哉を引っ張って先へ行ってしまった。先ほどまで自分が握っていた手は、今は忠幸のもの。
その手を取り戻したくて、思わず走り出そうとするが、途中で思い止まる。
忠幸は守哉の友達。同性だからこそ、あれだけ親しげに行動できる。
しかし、自分は女の子。いつもなら積極的に歩み寄る事ができるのに、ずっと前を走る二人を見ていると、何故か歩みを止めてしまう。
笑顔の忠幸に引っ張られる守哉は、困っているようで、心から楽しんでいるようで……複雑な表情をしていた。
―――これが、女の子の限界なのかな。
「……あぅ……」
しょぼん、と擬音が聞こえてきそうなほど、七瀬は落ち込んだ。
がっくりとうな垂れながら、ホテルへと引き返そうとする。
「ちょ、ちょっと。七瀬、どうしたのよ?そんな、露骨に落ち込んで……」
七美に呼び止められ、振り返る。どよん、と曇った目で七美を見た。
「……かみやが……」
「守哉?あのバカがどうしたの?まさか、何かされたの!?」
「……かみやが……ただゆきさんと、行っちゃった」
「それがどう……ああ、なるへそ。まぁ、なんとなくあんたの言いたい事はわかったわよ」
はぁ、とため息をついて七美は言った。
「それで、あんたは諦めるの?守哉の事」
「……別に、諦めるってほどじゃ……」
「諦めてるじゃん。どうせ、自分と違って忠幸は同性だから、守哉といくらでもスキンシップできていいな~、とか思ってたんでしょ」
「……あぅ」
図星である。七瀬は更にしょげた。
「まぁ、忠幸のあれは友達の範囲を越えてるような気もするけど。でも、それであんたが諦めてたら、守哉のやつ、他の誰かにとられちゃうよ?」
「……え」
「忠幸は男なんだから守哉とはくっつけないし、守哉はそっち方面の心配はなさそうだし。守哉って、その……美人だから、物好きなヤツが出てくるかもしれないじゃない。あんた、それでもいいの?」
他の誰か。その中には、恐らく七美も含まれているのだろう。本人は否定するだろうが。
でも、七美ならいいと思う。少し寂しい気もするけれど、例え七美と守哉が恋人になっても、自分は納得できる。だって、七美は自分の姉妹なのだから、自分も守哉の傍にいられる。
「……わたしは、それでもいいよ」
「言っとくけど、その物好きなヤツの中に私を含めるんじゃないわよ。別に、私はあんなヤツ……す、好きじゃないし」
「……今、どもった」
「う、うっさい!たまたまよ!とにかく、私以外で!」
七美以外。だとすると、優衣子さんだろうか。あの人も、少し守哉の事が好きみたいだし。
優衣子さんは友達だから、私が守哉の傍にいても怒らないんじゃないだろうか。
「……う~ん」
七瀬が悩んでいると、七美はじれったそうに言った。
「ああもう……!とにかく、あんたは守哉の事が好きなんでしょ!?だったらさっさと奪ってきなさいよ!それとも、守哉が変な方向に目覚めてもいいの!?」
「……!」
それはいけない。もし守哉が同性の忠幸を好きになってしまっては、異性である自分は傍にいられなくなってしまうかもしれない!
「……わ、わたし、がんばる……!」
焦りをあらわに、七瀬は守哉に向かって駆け出した。
☆ ☆ ☆
先ほど教えてもらった店を発見し、守哉と忠幸は中へと入った。
「へぇ……雑貨店か。色々あるな」
店内を見回しながら、守哉は呟いた。
店内には、ところ狭しとあらゆる商品が置かれていた。アクセサリー、置物、書籍、衣服、その他もろもろ……。中には18禁コーナーまであるくらいだ。
「そうだな~……まずは、あっちから見てみないか?」
忠幸に引っ張られ、守哉はいまだに忠幸と手を繋いでいる事に気づき、手を放した。
すると、忠幸はとても寂しそうな顔で振り向いた。一瞬、守哉の背筋に悪寒が奔る。
「守哉……」
「な、なんだよ」
「なんで手を放すんだよ。はぐれるだろ」
「俺は子供か!手なんか繋がなくても大丈夫だよ。店の中くらい自由行動にしようぜ」
「え~……まあ、守哉がそう言うなら仕方ないな」
忠幸は残念そうに言い、守哉から離れた。ほんの少しだが。
「さて……んじゃ、俺はあっちを見てくるよ」
書籍が並んでいるコーナーを指差す。そのまま行こうとしたら、忠幸もついて来た。
「自由行動にしようって言っただろ……」
「いや~ははは。俺もそっちが気になるかな~って……ダメか?」
「別にいいけど……」
なんというか、あまりくっつかれると気持ち悪い。守哉が半目で見つめていると、さすがにうっとうしいと思ったのか、忠幸は苦笑いしながら離れた。
ため息をつきつつ、書籍コーナーを覗く。適当な本を手に取って読んでいると、忠幸も他の本に熱中し始めた。
読み終わり、本を棚に戻す。他に何かないかと物色していると、隅の方に置いてあった本の表紙に見知った単語を見つけ、手に取った。
「神奈備島古事録……ありゃ、ずいぶん薄っぺらいな」
手に取った本……神奈備島古事録は、神代家で見たものよりも薄く、内容もかなり簡略化されたもののようだ。
何となく目を通していると、不意に誰かが横から覗き込んできた。七瀬だ。
「……これ、神奈備島古事録だよね」
「ああ。よくわかったな」
「……えへへ。……でも、これも書いてあることはうそなんだよね……」
「まぁ、そうだろうな……」
トヨバアの話が本当ならの話ではあるが、この本の内容が神代家にあった神奈備島古事録とほとんど同じである事を考えると、その可能性は高いだろう。
複雑な気分で読み進めていると、甘い香りが鼻をついた。七瀬から漂うその香りは、シャンプーの香りだろうか。
(いい香りだな)
守哉の肩に頬を預け、守哉の手に取る本を熱心に読んでいる七瀬を見ながら、守哉は微笑んだ。
「おい、守哉!これ!この本なんか面白いぜ!」
不自然なほどの大声と共に、忠幸が本を押しつけてくる。本の表紙にはすっぽんヨガの秘策と書かれている。
「な、面白そうだろ!?」
「確かに、タイトルはインパクトあるけど……」
苦笑いしながら本を受け取ると、忠幸は七瀬から引き離すように守哉の身体を引き寄せた。
「?なんだよ」
「そこ日当たり悪いだろ?こっちの方が読みやすいから。あ、七瀬ちゃんはそれ読んでるといいよ」
忠幸の言う事にも一理あるので、移動する。後ろからがーん、という擬音が聞こえてきたような気がしたが、気にしない事にした。
勧められた本を読む。内容はかなり奇抜で、すっぽんとヨガの関連性やら何やらが長々と書かれていた。面白いわけではないが。
「なぁ、これのどこが―――うっ!!」
忠幸の方を見て、守哉の顔が引きつった。なんというか、忠幸はとても幸せそうな顔で本を読む守哉の顔を見つめていた。
正直、気持ち悪い。
「忠幸……」
「ん?ああ、悪い。ちょっと近すぎたなぁ~」
笑いながら忠幸が離れる。気を取り直して本を読んでいると、不意に七瀬がちょいちょい、と袖を引っ張ってきた。
「どうしたんだ?」
「……かみや、お洋服を見よう?あっちにたくさんあるよ」
そういえば、元々自分は服を買いにこの島にやってきたのだった。
「それもそうだな。忠幸、これ戻しておいてくれよ」
「あ、ああ……」
忠幸に本を渡すと、ぐいぐいと七瀬に引っ張られて衣服のコーナーへと向かう。
雑貨屋とはいえ、品揃えはなかなかのものだった。自分好みのパーカーもたくさんある。
「へぇ、結構いいのが揃ってるじゃないか」
「……かみや、これなんかどう?どう?」
七瀬が差し出してきたパーカーを受け取り、試着してみる。悪くないデザインだが、サイズが小さいのか袖の部分が短かった。
「うーん……少しサイズが足りないな。もっと大きいのはないのか?」
「……えっと、じゃあ、じゃあ……」
七瀬がきょろきょろと探していると、忠幸が何かを持って近寄ってきた。
「なぁ、守哉。これ見てみろよ。面白いぜ」
忠幸が差し出したそれは、音に反応して動く人形だった。今は忠幸の声に反応してくねくねと動いている。
「へぇ。変わったおもちゃだな」
「だろ?他にも面白そうなものがたくさんあったぜ。だからあっちに行こう」
「え?いや、今七瀬が……」
「どうせ後から来るだろ?だから来いって!」
あまりにも忠幸が引っ張るので、仕方なくついていく事にする。
忠幸が勧めるコーナーには、変な形の人形やロボットらしきプラモデルなど、多種多様なおもちゃが置いてあった。美少女フィギュアもある。
「なんか、色々ありすぎてよくわかんねぇな」
「でもそこが面白いんだよ!ほら、これなんか格好良くねぇか?な?」
忠幸はロボットの人形を手に取って言った。顔に大きなヒゲがついており、股間にコックピットがある。どこかで見た事のあるデザインだ。
「あー、まぁ、格好良いんじゃないかな」
「だろ?いやぁ、俺と守哉は趣味が合うなぁ!」
「そ、そうかもな……」
忠幸があまりにも嬉しそうに言うので、否定し辛い。
人形を物色するのに熱中してきたのか、忠幸は守哉を放って辺りを探し始めた。ため息をつきつつ、守哉が適当な人形で遊んでいると、いつの間にやら七瀬が傍にいた。
「ん?ああ、服を見つくろってきてくれたのか。ありがとな」
「……ん。かみや、あっちで試着しよ?」
「いや、別にここでしても……」
「……いいから」
今度は七瀬に引っ張られてアクセサリーのコーナーへと向かう。
きらびやかなようで安っぽそうなアクセサリーの並ぶそのコーナーは、二人の女性客がいた。守哉達が近づいてきたのを見て、女性客の目がこちらへ向く。片方の女性客の目が守哉を捉え、好色そうに光った。
「ねぇ、あの子、可愛いよね」
「え?あ、ホントだ。連れの子もいるけど、姉妹かな?」
「何言ってんの、あの子は男の子でしょ。服が男物じゃない」
「あれ?そういえば、よく見れば……。もう、紛らわしいなぁ」
ひそひそ話をし始める女性客。普通に丸聞こえだ。何やら女性に間違えられたようだが、わりとよくある事なので気にしない。
そんな守哉を尻目に、七瀬は睨みを利かして女性客を追い払った。女性客がいなくなったのを見計らい、七瀬は手に持っていた服を守哉に差し出す。
「……はい、かみや。これなんかどう?」
「ん……いい感じだ。ただ、青くないのが残念だけど」
「……かみやは青いのがいいの?」
「できれば。ああ、最初に言っておけばよかったな」
「……じゃあ、今度は青いのを探してくるね。あ、かみやはここにいて?」
「わかった」
ぱたぱたと走っていく七瀬。ここにいなければならない理由がよくわからなかったが、どうせ他に見たいものもないのでここにいる事にする。
しばらくアクセサリーを見ていると、コーナーの隙間を忠幸がきょろきょろと辺りを見回しながら通っていった。誰かを探しているようが、アクセサリーコーナーはかなり隅の方にあるのでよくわからない。
「おーい、忠幸。誰か探してるのか?」
「あ、守哉!そんなところにいたのか。くそ、これじゃ見つからないわけだ」
どうも、忠幸は自分を探していたらしい。忠幸は遠回りしてこちらに来た。
「なんだよここ、いい感じに死角になってるじゃないか。どうしてこんなとこに来たんだよ」
「いや、七瀬に引っ張られて……。ていうか、何か用なのか?」
「ああ、そうだった。実は……ち、気づいたか。こっちだ、守哉」
「え?お、おい……」
慌てて守哉の手を掴んだ忠幸は、店の奥へ移動した。一瞬、こちらに向かって慌てて走る七瀬の姿が見えた気がしたが、どうかしたのだろうか。
「一体どこまで……って、おい、ここは……」
「ふふん。男の園さ」
忠幸が連れて来たのは、嬉し恥ずかし18禁コーナーだった。裸の女性が表紙の本やDVDがところ狭しと並んでいる。
「ここなら邪魔も入らないだろ。さぁ、存分に堪能しようぜ」
「堪能って……お前なぁ」
なんとも複雑な気分だった。というか、邪魔ってなんだ、邪魔って。
目のやり場に困っていると、七瀬がアクセサリーコーナーからこちらを見ているのが見えた。何やら悔しそうに服を握り締めている。
「なぁ、やっぱここはやめようぜ。七瀬が見てるし……」
「だからいいんじゃないか。さすがにここには入ってこられないだろうからな」
誰かと張り合いでもしているのだろうか、こいつは。
ため息をつきつつ、守哉は鼻の下を伸ばしてエロ本を読む忠幸を置いて18禁コーナーから出た。
一瞬忠幸が持っていた本の表紙が見えたが……見なかった事にした。
(少し疲れた……休もう)
そう思いつつ、店から出ようとする守哉に七瀬が近づいた。
「……かみや、もう出ちゃうの?」
「少し疲れちまってな。また持ってきてくれたのに悪いな」
「……ううん。私も疲れたところだから、一緒に休も?」
七瀬に連れられて店を出ると、通りのベンチで七美が退屈そうに座っていた。
「ありゃ、もう買い物はいいの?」
「少し休憩。つか、七美はいいのか?入らなくて」
「私が入ったら面倒な事になりそうだからね。……っと、忠幸も来たか」
見ると、忠幸が慌てて店から出てくるところだった。
「守哉、置いていくなんて酷いぜ!」
「んな事言われても、自由行動なんだからいいだろ、別に。ていうか、俺疲れちまったよ。少し休もうぜ」
「まぁ、守哉がそう言うならしょうがないな」
残念そうに言う忠幸。守哉はほっとしつつ、七美の隣に腰掛けた。
「お疲れ様、守哉。どう?引っ張りまわされた感想は」
「正直、疲れた……って、何で知ってるんだよ。見てたのか?」
「見てないわよ。ただ、何となくそうなったんじゃないかなーって思っただけ」
そ知らぬ顔で答える七美。釈然としない面持ちで守哉は七瀬と忠幸を見た。
「………」
「なんだよ」
「……別に」
二人は何やら睨み合っている。何かあったのだろうか。
(まぁ、喧嘩するほど仲が良いっていうしな)
そう思いつつ、守哉はのんびり背伸びした。
「少し眠くなってきた……」
「何、限界?まだ時間はたっぷりあるわよ」
「わかってるよ。だけどもうちょっと休ませてくれよ……」
守哉が脱力しきって言うと、七瀬と忠幸が即座に反応した。
「……かみや、だいじょうぶ?いっしょにホテルで休む?あ、ただゆきさんは七美おねえちゃんと買い物してていいよ」
「守哉、大丈夫か!?疲れたなら俺と二人でホテルで休もうぜ!あ、七瀬ちゃんは七美さんと買い物してていいからね」
二人の台詞がものの見事にかぶる。と、同時に再び睨み合う二人。
守哉は盛大にため息をつくと、
「……勘弁してくれよ」
一人呟くのであった。
その後も色々あった神奈裸備島旅行であったが、終始七瀬と忠幸は互いにけん制しあい、その度に守哉はため息をつくはめになった。
続く……かもしれない。