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かみかみ  作者: 明日駆
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第51話 “リベンジ”

 突然のブザー音に、エレベーター内の七瀬、七美、七子の三人は身を強張らせた。


 同時に、67階を目指して上昇していたエレベーターが止まる。階層を示すランプは34階を示していた。


「な、何?何なの、一体?」


 突然の事態に、七美はきょろきょろと目をさ迷わせて呟いた。七子は顔を蒼白にしてエレベーターの扉を見つめている。


(まさか……いえ、そんなはずない。いくら私達全員が神代家の人間だといっても、磐座機関が確保を急ぐなんて事はないはず。いや、でも、もしかしたら……)


 最悪の事態を想定し、七子の身体が恐怖で小刻みに震え始めた。七美はエレベーターの開閉ボタンを何度も押しているが、扉が開く気配はない。

 そんな中、七瀬は一人冷静だった。紙袋を抱えなおし、ハンドバックから小さな鳥居を一つ取り出す。そっと手を離すと、鳥居は垂直に落下して、床の上に一度立ったかと思うとすぐに倒れた。

 エレベーターの扉を睨みつけ、呪詛を呟く。いつでも呪法を発動できるように。何があっても対応できるように。

 しばらくして、エレベーターの扉がゆっくりと開き始めた。それを見た七美が歓喜の声を漏らす。


「お、やっと開いた!よかった~、閉じ込められるかと―――」


 エレベーターの扉が開ききった瞬間、大量の銃弾が七瀬達に向かって襲い掛かってきた。


「……螺旋護法!」


 同時に、七瀬の声が響く。七瀬達を守るように突如地面から生え出た巨大な壁は、七瀬達に襲い掛かった銃弾の嵐を完全に防ぎきった。


「な、何!?今度は何なわけ!?」


 七美が慌てふためいて騒ぎ出す。七瀬は螺旋護法によって出現した壁の隙間からエレベーターホールへと身を躍らせると、銃弾を放った敵を確認した。

 見たとところ、敵は全部で8人。全員、怪しげな紋様が描かれた防弾チョッキとガスマスクを身につけ、大きなアサルトライフルで武装している。廊下の奥から、最前列の三人がこちらに向けて銃を構えていた。

 七瀬が出てきたのを見て、先頭の一人が言った。


「大人しくついて来るのなら、殺しはしない」


 七瀬は答えない。代わりに、紙袋をエレベーターの中に放ってハンドバックから鳥居を三つ取り出す。それを見た敵は、一斉に銃を構えて乱射した。大量の銃弾が七瀬に向かって降り注ぐ。

 しかし、七瀬の反応は異常なほどに速い。銃弾が到達する前に、全ての鳥居を並べて倒している。呪詛は一度唱えれば一定時間効果を保つ事ができる。七瀬の前に出現した小さな壁が、目前まで迫っていた銃弾を全て防いだ。

 目の前の壁を一瞬で駆け上り、七瀬が宙に身を翻す。その両指には6本の鉛筆。敵がこちらを向く前に、七瀬は両手を振るった。


「……剣山牙法!」


 鉛筆が巨大化し、前列にいた敵のうち三人の持つアサルトライフルを破壊した。敵が一瞬怯んだ隙に着地、一足飛びで接近する。先頭の一人の胸倉を掴んで引き寄せた瞬間に銃弾が襲い掛かってきたが、全て掴んでいる敵の背中で防ぐ。味方を撃った事で敵は動揺し、一瞬の隙が生まれる。その隙を見逃さず、七瀬は掴んでいた敵を放り投げて一番近くにいた敵に接近し、手刀でみぞおちを突いた。七瀬の手が防弾チョッキを貫通し、敵の一人がうめき声を上げて倒れる。

 これで二人。敵が銃を構えて一旦後退するが、それよりも速く七瀬は動いた。その場で跳躍し天井に両手をつき、一気に身体を押し出す。強烈な蹴りが敵の一人に炸裂し、昏倒させる。これで三人。

 敵の一人が後退しながら手榴弾を投げた。七瀬は足元に落ちていた壊れたアサルトライフルを拾い、手榴弾に向かってフルスイングした。同時にアサルトライフルを手放してその場で伏せる。手榴弾を投げた敵の足元まで飛んでいった手榴弾が爆発し、爆音が廊下に轟いた。

 身を伏せたまま小さな鳥居を取り出し、並べて倒す。七瀬の前に壁が出現し、突如降り注いだ銃弾を防いだ。七瀬はハンドバックから安全ピンと爪楊枝を三本を取り出すと、呪詛を呟いて身を起こした。


「……弓針飛翔(きゅうしんひしょう)


 呪法が発動し、手に持った安全ピンと爪楊枝が巨大化する。七瀬は弓のように安全ピンを構えると、爪楊枝を三本つがえて壁から飛び出し、放った。放たれた三本の爪楊枝が、三人の敵の股間に突き刺さる。これで六人。

 反撃がくる前に七瀬は壁の後ろに隠れた。瞬間、大量の銃声が廊下に響く。七瀬はハンドバックから爪楊枝を二本取り出すと、安全ピンにつがえて壁を駆け上り、上から残りの敵に向かって放った。

 

「ぬおぉぉっ!?」

「ば、バカなっ……」


 当然、命中。放った爪楊枝は正確に敵の股間を貫いている。放った爪楊枝は七瀬の手を放れた時点でただの幻覚と化しているため、実際に突き刺さっているわけではないが、その痛みは本物である。七瀬は凄まじい痛みに悶え苦しむ敵に近寄ると、全員手刀で気絶させた。


「……もういいよ、おねえちゃん」


 その声に、恐る恐る七美と七子がエレベーターから出てくると、そこには死屍累々と横たわる敵の姿があった。


「これは、素直に褒めてもいいのかしら……」


 呆然と七子が呟くと、七瀬は不思議そうに首をかしげた。



  ☆ ☆ ☆



 銃声が廊下に響く。


 守哉に向かって放たれたその銃弾は、守哉の目の前で大きく曲がり、壁に当たった。


「忠幸、下がってろ!」


 叫ぶと同時に身体強化の言魂を重ね掛けし、栄一郎に接近する。栄一郎がその場を飛び退くが、守哉の方が速い。凄まじい速度で放たれた正拳突きが栄一郎のみぞおちに突き刺さった―――が、栄一郎はピクリともしない。

 にやり、と栄一郎が不敵に笑う。銃口がこちらを向いた瞬間、守哉の足が跳ね上がり、拳銃を弾き飛ばす―――どころか、粉砕した。

 更に回し蹴りを放つが、栄一郎はそれを左手で受け止めた。靴を掴まれて持ち上げられるが、守哉は動じずに身体を捻り、顔面に向かって蹴りをかました。運悪くつま先が眼球に直撃した栄一郎はたまらず怯むが、守哉の足は放さない。そのまま握り潰そうと力を込める。


「―――させるかっ!」


 叫びは言魂となり、栄一郎の左手に凄まじい気圧がかかる。これは効いたのか、栄一郎は守哉の足から手を放した。同時に栄一郎の顔面を蹴り飛ばし、大きく距離を取る。

 大きく滑りながら着地。栄一郎の方を見ると、栄一郎は壊れた拳銃を放り捨てて左手をさすっていた。


「とんでもねぇやつだな、てめぇはよぉ。拳銃蹴り壊すって、どんな脚力してやがるんだぁ?」

「言魂だよ。わかってんだろ?」

「まぁなぁ。でもな、正直てめぇはすげぇよぉ?縛名もなしにこれだけ戦えるんだからよぉ」

「縛名……って、なんだよ?」


 さすがに教えちゃくれないだろうな、と思いながらもそう言うと、栄一郎は不敵に笑いながら答えた。


「そういやお前は知らねぇんだったなぁ。縛名ってのはな、言魂の一種さぁ。一度言魂化したイメージを縛名によって縛る事で、発動時に必要な集中力を大きく減らす事ができるんだなぁ。まぁその分、一度縛名で縛った言魂は、具現化する想像が固定されちまうんだがなぁ」


 あっけなく説明してくれた栄一郎に、守哉は不審そうに目を細めた。


「なんで教えてくれるんだ?俺は敵だぞ」

「前に言っただろぉ、俺に答えられる事は何でも話してやるってよぉ。それにな、俺はお前の事嫌いじゃねぇんだぁ。似た者同士だからなぁ、俺とお前はよぉ」


 言いながら、栄一郎は毒鎧、と呟いて身体を捻った。両拳が光だし、異質な力が空間を歪める。


「それになぁ、教えてもらったところで、さすがのお前でもすぐには使いこなせねぇさぁ。縛名ってのは、言魂の奥義みてぇなもんだからなぁ!」


 瞬間、栄一郎は拳をボクサーのように構えて突進してきた。守哉は咄嗟に両手を交差させるが、前回の戦闘を思い出して思い止まる。

 栄一郎が迫る。毒鎧を纏った拳が放たれ、守哉はそれを言魂でいなしがら隙を伺う。毒鎧を纏っているのは手首までで、思っていたより面積が狭い。対処はそれほど難しくなかった。

 防戦一方になる守哉。攻め手もなく、次第に栄一郎の攻撃をいなしきれなくなっていく。

 栄一郎の拳が守哉の肩をかすめる。守哉はこれ以上防御しきれないと判断し、大きく栄一郎の懐に踏み込んだ。拳を力強く握り、イメージをこめて放つ。


「―――爆弾パンチ!」


 放った拳は栄一郎の腹に命中し、爆風を巻き起こした。この程度では栄一郎はビクともしないが、爆風で栄一郎の視界が一瞬だけ塞がる。その隙に、守哉は両拳を構えた。イメージを込め、爆風が止んだ瞬間に放つ。


「―――ダブルッ!爆弾パンチッ!!」


 再び爆風が巻き起こる。しかし、今度は先ほどの爆弾パンチとは違う。同時に放った両拳が巻き起こす爆風は、相乗効果でダイナマイト並みの爆風を発生させた。


「ちぃっ……!」


 体勢を崩し、舌打ちする栄一郎。その隙を逃さず、再び拳を握り締めてイメージする守哉だが、突然頭痛に襲われて思い止まった。咄嗟に大きく飛び退き、距離を取る。

 その間に体勢を立て直した栄一郎は、頭痛で顔をしかめる守哉を見て、言った。


「言魂の使いすぎだなぁ、未鏡守哉ぁ。ま、当然っちゃあ当然だが」


 不敵に笑う栄一郎。その表情にはまだ余裕がある。


(くそ……言魂の重ね掛けは精神力の浪費が激しすぎる。このままじゃ、やつに決定打は与えられない……!)


 いくらなんでも、あの堅さは異常だ。恐らく、毒鎧とかいう能力が関係しているのだろう。

 言魂が通用しない以上、このままでは一方的に殴られて負けるだけだ。もっと強力な力がなければ勝ち目はない。


「守哉!」


 不意に、今まで戦闘を傍観していた忠幸が叫んだ。左手に巻いていた腕時計の文字盤を指差している。


「守哉、逢う魔ヶ時だ!今なら魔刃剣が使えるぞ!」


 その言葉に、守哉は自分の左手に目を向けた。その手の平に刻まれた聖痕が光を放っている。

 今なら魔刃剣が使える。破邪の刃を使えば、優衣子の時のように栄一郎を無力化する事もできるかもしれない。


(氷鮫に賭けるしかない……!)


 左手をかざし、光る聖痕から魔刃剣―――氷鮫を引き抜く。青く光り輝く刀身が、冷気を周囲に撒き散らした。

 躊躇している暇はない。魔刃剣を上段に構え、集中する。


「―――破邪の刃……!」


 叫び、振り下ろす。刀身を包み込む冷気が一気に増大し、廊下中を埋め尽くしていく。絶対零度の冷気が栄一郎を一瞬で包み込み、その力を奪わんと襲い掛かる。


「いくらあんたでも、さすがにこいつは―――」


 守哉が勝利を確信した瞬間、突如廊下に烈風が巻き起こった。烈風は冷気を吹き飛ばし、やがて栄一郎の姿を浮かび上がらせていく。


「―――おいおい、舐めてもらっちゃ困るぜぇ。その程度の破邪の刃なんか効かねぇよ」


 廊下を埋め尽くしていた冷気が完全に消える。栄一郎は、心底楽しそうな声で、言った。


 その手に握った―――巨大なうちわを、守哉に向かって突きつけて。


「さぁ、ラストスパートだぁ。いい加減、こいつで勝負決めようじゃねぇか、百代目ぇ!」

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