第39話 “刃が吹雪く”
日諸木学園の上空で滞留していた神さびがこちらに気づいた。
「来るぞい!」
トヨの鋭い声が空に響く。神さびの頭が青龍の方へ向き、一気に突進してきた。無数に生えた足の先端に光る鋭い爪が青龍を引き裂かんと襲い掛かる。
「そんなもの、くらうものか!」
青龍は大きく身を捻ってそれをかわした。空中で二つの巨体がすれ違い、猛烈な突風が吹き荒れる。
「……剣山牙法!」
七瀬が神さびにむかって何かを飛ばした。空中で巨大化したそれは、鋭く尖った鉛筆だ。神さびは羽を羽ばたいて突風を生み出し、鉛筆を迎撃する。
青龍が大きく旋回して神さびへ向かう。今度は青龍の爪が神さびへ襲いかかった。再び神さびと青龍が空中ですれ違い、爪と爪が切り結ぶ。ガラスを引っ掻いたような耳障りな音が一瞬響き、赤い血が宙に舞う。
「ちっ……!」
「大丈夫かの、青龍」
「ああ……傷は浅い。やはりこのままでは分が悪いな。敵の方が爪が多い」
青龍の右前足に僅かな引っ掻き傷があった。赤い血が爪を伝って零れ落ち、空中で結晶と化して消えていく。
再び神さびが突撃してくる。青龍は急降下してそれをかわす。
「ふん、やはり肉弾戦では神さびに分があるか……ならば、龍岩砲を使う」
「俺は構わんが……トヨ、今のお前の神力で足りるのか?」
「今は逢う魔ヶ時じゃ、すぐに補給されるわい」
「ならばいいが、あまり無理をすると二人の見目麗しいお嬢さんが宙に放り出されるぞ?」
「二人?……まぁいい、その心配はない。いいからやるのじゃ!」
「了解した!」
青龍は一度大きく息を吸い込むと、神さびに向かって一気に吐き出した。巨大な咆哮が衝撃波を伴って神さびを襲うが、神さびは突風を巻き起こしてそれを相殺する。その間に青龍は空中でとぐろを巻いた。青龍の体内に神力が蓄積され、身体が青白い光を放ち始める。
突然青龍の身体が輝き始めたので、今まで戦闘を見守っていた守哉は驚いた。
「ど、どうなってんだ?何が起こるんだ!?」
「……落ち着いて、かみや。青龍は龍岩砲を撃つために力を蓄えているんだよ」
七瀬は相変わらず落ち着いている。これにも慣れているらしい。
「龍岩砲?なんだそれ、必殺技?」
「……みたいなもの、かな。おばあちゃんを通して大量の神力を体内に蓄積して放つ青龍独自の大呪法っておばあちゃんは言ってたけど……」
「大呪法……って、何」
「……呪法の中でも、極めて強力な呪法のこと。基本的に呪法と同じものだけど、威力が桁外れで発動時の神力の消費量が著しく、術者に大きな負担をかけるものを大呪法と呼んで区別するの。普通は大掛かりな準備が必要なんだけど……」
青龍が攻撃してこなくなったのを見て、神さびは再び突進してきた。ただの突進ではない―――風の刃を纏った突進だ。ただかわしただけでは風の刃で八つ裂きにされてしまう。
「青龍!」
「わかっている!」
トヨの声に応じて青龍が大きく回避運動をとる。先ほどまで青龍がとぐろを巻いていた場所を神さびが通り過ぎ、辺りに烈風が渦巻いた。
「うわっ……!」
「かみや!」
運悪く烈風が直撃した守哉が青龍から振り落とされるが、素早く七瀬が手を伸ばしてなんとか落下せずにすむ。引っ張り上げられて青龍の身体に掴まったところで、青龍が大きく動いた。神さびが突進してきたのだ。七瀬の助けもあってなんとか振り落とされずにすみ、青龍の背中に移動する。
何度か神さびの攻撃をかわしていると、突然青龍の身体の光が急激に強まった。どうやら神力のチャージが終わったらしい。
「トヨ、いけるぞ!」
「うむ―――龍岩砲、撃てぇい!!!」
青龍の頭部を大量の光が駆け巡る。青龍は一度大きく仰け反ったかと思うと、口から一気に巨大な弾丸―――よく見れば、それは巨大な岩石だった―――を発射した。凄まじい速度で神さびに襲い掛かる弾丸に対し、神さびは烈風を巻き起こして迎撃する。しかし弾丸の勢いは弱まる事なく、一直線に神さびに向かう。避けようと大きく身を捻ろうとするが、間に合わない。凄まじい音を立てて弾丸は神さびに直撃した。
「やったか……!?」
神さびに直撃した際に弾丸が破裂したのか、砂煙が巻き起こって結果が見えない。しかし、次の瞬間烈風が巻き起こって砂煙を吹き飛ばし―――煙の中から神さびが姿を現した。
「むぅぅ……!まさか、仕留め損ねるとは……!!」
「トヨ、神力が足りなかったようだ。いつもの3割程度の威力しか出せていない」
あれで3割かよ、と守哉は驚愕した。いくら神さびを仕留められなかったとはいえ、神さびとて無事ではない。身体の半分が千切れとび、あちこちに傷を負っている。ムカデだけあって生命力は高いのか、いまだその動きに衰えは見えなかった。
「まずいぞ、トヨ。このままじゃジリ貧だ」
焦燥をあらわにして青龍が言った。トヨの神力は回復するのが遅い。龍岩砲はもう撃てないだろう。
神さびの全身が赤く光りだす。どうやら怒っているようだ。身体の傷も少しずつ再生し始めている。このままではまずい。
トヨと青龍が頭を悩ませているのを見て、守哉は焦れて叫んだ。
「おい、ババア!俺がやる、援護してくれ!」
「何を言い出すかと思えば……。無理じゃ!お前の魔刃剣では空中戦はできぬ!そもそも何故ついてきた!?」
「ふざけんな!やってみなけりゃわかんねぇだろ!」
「やる前から目に見えておるわ!お主はとどめだけさせればよいのじゃ!」
「よく言うよ、自分で仕留める気満々だったくせに……」
ぼそっ、とそう漏らした青龍を、トヨは頭を殴って沈黙させた。
「とにかく、お主には無理じゃ!わしらがやる!」
言うと、トヨは青龍を神さびに向かって突進させた。どうやら再び接近戦を挑むつもりらしい。
守哉は歯噛みしてトヨを睨みつけた。
「くそ……!この頑固ババアめ!蹴り落とすぞこの野郎!」
「……かみや、落ち着いて。ああいう人だってことはよくわかってるでしょ……?」
「わかってるけど、どうにもイラつくんだよ!つか、なんで魔刃剣を使わないんだよ!?魔刃剣を使えばわざわざ接近戦なんてしなくてもいいだろうに……!」
「……青龍を出している間、魔刃剣は使えないの。こんな空じゃ言魂に利用できるものもないから、青龍に頼るしかないんだよ……」
神和ぎは言魂を使う際、いつも周囲にある物質を飛ばしたりして攻撃手段にしている。そのため、言魂は空中戦にはむかないのだ。守哉は言魂で物質の創造ができるが、飛び道具を生み出すほどのレベルにはまだ達していない。龍岩砲も撃てない今、状況はかなり不利だ。七瀬が時々呪法で援護しているが、神さびにはまったく効いていないようだった。
「くそ……どうすれば……!」
トヨは当てにならない。七瀬は火力不足だ。という事は、自分がなんとかするしかない。神和ぎとして、逢う魔ヶ時の恩恵をフルに受けられる自分に、一体何ができるのか―――
神さびの攻撃を避けるために身体を大きく捻る青龍。危うく振り落とされかけ、冷や汗を垂らす。
青龍は必死に戦っている。七瀬もできるだけの事をやっている。
―――ならば、自分も命をかけるしかない。
守哉は覚悟を決めた。右手に持った魔刃剣を握り締め、いつでも飛び出せるように身構える。
神さびが上から突進してくる。対して青龍は、神さびを切り裂くべく爪を構え、下から神さびへと突進した。
二つの巨体が上下にすれ違う。神さびの爪が青龍の身体を切り裂いていき、青龍の爪が神さびの爪に弾かれる。トヨが歯噛みし、青龍が痛みに顔をしかめた。
重なった巨体が離れていく。神さびがちょうど青龍の真下にきた。
その瞬間、守哉は青龍から飛び降りた。
「……かみやっ!?」
七瀬の悲鳴のような驚いた声が聞こえた。両手を広げ、言魂を使って速度と位置を調整する。神さびの背中が急激に近づき、守哉は魔刃剣を振り上げ―――
「うおりゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
どすん、と神さびの背中に着地した。
神さびの背中は丸い鱗に覆われており、その表面はなめらかだった。手足が滑り、宙に投げ出されようとする一瞬前に、守哉は魔刃剣を神さびの背中に突き刺した。瞬間、魔刃剣を突き刺した部分が僅かに凍りつく。
神さびの野獣のような咆哮が神奈備島の空に響き渡る。魔刃剣に両手で掴まり、なんとか投げ出されずにすんだ守哉は、魔刃剣を強く握りしめながら魔刃剣に意識を集中させた。
(―――破邪の刃……!!)
守哉の思念が魔刃剣に秘められた力を解放させる。半分ほど露出した魔刃剣の刃から冷気が噴出し、神さびの羽が生み出している周囲の風を凍てつかせていく。冷気は神さびの風を利用して拡大し、大量の冷気を孕んだ風が吹き荒れた。
「なんじゃ……!?何が起こっておる!?」
突然神さびの様子がおかしくなった事に気づき、トヨは慌てた。七瀬は焦りをあらわに神さびの背中を指差して叫んだ。
「……おばあちゃん、かみやが!!」
「なんじゃ、あの小僧が何かやらかしたのか!?」
「……かみやが、神さびに飛びついて……!!」
「なんじゃと!?たわけめ、死ぬ気か!!―――青龍!!」
青龍が神さびに向かう。しかし、凄まじい冷気が神さびを中心に吹き荒れていて近づけない。
「ダメだ、これ以上は近づけない!」
「……そんな、かみやは!?」
「むぅぅ……!もう知らん!なるようになれじゃ!!」
こう言っている間にも、冷気は更に強まっていく。吹雪と化した風は完全に神さびを包み込んでいた。 次第に神さびの身体を侵食し始めた吹雪は、その動きを奪っていく。少しずつ高度を下げていた神さびだが、しばらくして羽が動かなくなってしまったのか、地面に向かって墜落した。
「!……青龍、お願い!」
「わかった、七瀬ちゃん!」
「お、おい!主はわしじゃぞ!」
七瀬に従って、墜落した神さびへ向かう。幸い、神さびが墜落したのは校庭だった。校庭のど真ん中に未だに吹雪に包まれている神さびが横たわっている。
青龍が校庭に着陸すると、すぐに七瀬は神さびに向かって駆け出した。しかし、神さびの周囲に吹き荒れる吹雪のせいで近づけない。神さびの周りを一周し、吹雪の弱まっている場所がないと判断した七瀬は、覚悟を決めて吹雪の中へと突っ込んだ。
「!何をしておる、七瀬!戻ってこんか!」
トヨの静止の声を振り切り、七瀬は寒さに凍えながら神さびに近づいた。その背には、魔刃剣を突き刺した守哉がいる。魔刃剣を握り締めたまま神さびの背中でもがいていた。
「……かみやっ!!!」
急いで守哉に近づく。その身体はまったく冷たくなっていない―――どうやら、守哉はこの吹雪の影響を受けないらしい。七瀬が守哉の身体を抱き起こすと、守哉は痛みに顔を歪めた。
「っつう……!」
「……だ、だいじょうぶ!?どこか痛むの!?」
「落ちたときに……足を、ちょっとな……」
よく見れば、右足が変な方向に折れ曲がっている。七瀬は慎重に守哉を抱えると、すぐに神さびから離れた。同時に守哉は魔刃剣から手を放し、魔刃剣が霧散する。吹雪も一瞬にして止んでしまった。
傍観していたトヨと青龍に近づく。トヨは七瀬に担がれている守哉を睨みつけた。
「お主……一体、何をした?」
「別に……。あんたが俺を頼らないから、勝手にやらせてもらったまでだ」
「自分一人で倒したつもりか!」
「んなわけねーだろ。つか、まだ倒してない。今からとどめをさす」
そう言うと、守哉は七瀬から降りて再び魔刃剣を抜いた。神さびは吹雪から開放された事により、起き上がろうともがいている。その身体のあちこちが凍てつき、欠け落ちていた。
魔刃剣を振り上げる。再び魔刃剣に意識を集中し、目をつむる。神さびが守哉達に気づき、力を振り絞って突進してきた瞬間、守哉は魔刃剣を地面に突き刺した。
魔刃剣の刺さった地面が一瞬にして凍りつく。凍てつく力は咆哮をあげてこちらに突進してくる神さびに襲い掛かり、無数に生えた足を凍りつかせ地面に縛りつけた。
「切り裂け、氷鮫!!」
守哉の声に応じて、凍てついた地面から鮫の背びれのような氷の刃が出現する。刃は一直線に神さびに向かって突進し、避けようともがいた神さびの身体を真っ二つに切り裂いた。
「……凄い」
七瀬が感嘆の呟きを漏らした瞬間、割れた神さびの身体が一瞬にして凍りつき、音を立てて砕け散った。
☆ ☆ ☆
逢う魔ヶ時が過ぎ、守哉達は学校の門の前で解散する事となった。
「では、これにて本日の修祓を終了とする。解散」
トヨは不機嫌そうにそう言うと、一人でさっさと家に帰ってしまった。残された守哉と七瀬は、互いに顔を見合わせてくすっ、と笑った。
「……おばあちゃん、悔しそう。きっとかみやが凄い力を使って倒しちゃったのが羨ましかったんだね」
「というより、むしろ自分の獲物を取られたのが悔しかったんだろ。まぁ、ざまあみろって感じだけどな」
「……おばあちゃん、ああいう人だから……。でも、あんまり悪く思わないでね。悪気があってああいう態度をしているわけじゃないから……」
「そいつは無理だが、まぁ譲歩はしてやるよ。んじゃ、今日は疲れたし……俺達も解散すっか」
「……え……ごはん、食べていかないの?」
「今日は優衣子さんが夕飯用意してくれるって言ってたから。悪いけど、また今度いただくよ」
「……そっか。それなら仕方ないね」
少し寂しそうに七瀬は言った。ちょと申し訳なく思いながらも、守哉は手を振って家に帰る七瀬を見送り、寮へ向かって歩き出した。
既に日は落ち、辺りは暗くなっている。街灯の明かりが照らす道をぼんやりと考え事をしながら歩いた。
「やぁ、百代目。久しぶりだね」
驚いて振り向くと、先ほど通り過ぎた街灯の下にいつの間にか神様がいた。相変わらず守哉そっくりな容姿をした神様は、不敵な笑みを浮かべながら守哉に近づいてきた。
「……あんたか。今日は疲れてるからあんたの相手をする気力なんてないんだよ。じゃな」
「おいおい、待て待て!九十八代目といい、君達はつれないなぁ。まったく、少しくらいかまってくれてもいいじゃないか」
ぶつくさ言いながら再び歩き出した守哉の横に並ぶ。守哉はため息をつくと、前を見ながら言った。
「んで、何の用?」
「2体目の神さびを倒した労をねぎらいたくてね。それに、今日は記念すべき日でもある」
「記念?何をだよ」
「君が倒した神さびで、ちょうど800体目だ。つまり、あと8体君が神さびを倒せば開闢門が閉じるのだよ」
ぎょっとして、守哉は神様の方へ振り向いた。
「なんだって……!?」
「驚いているねぇ、ふふふ……いい反応だ。素晴らしいよ」
「じゃ、じゃあ……うまくいけば、あと8週間で神和ぎは役目を終えるのか?」
「そういうわけではないが、まぁひとまず区切りがつくのは事実だ。よかったじゃないか」
「そっか……。そうなのか……」
突然知ったその事実に少なからず守哉は驚いていたが、内心少しほっとしていた。あと少し頑張れば開闢門が閉じる。そうなれば、七瀬が最後の神和ぎになって戦う必要はなくなるのだ。
しかし、疑問も幾つかあった。
「なぁ、本当に808体の神さびを倒せば開闢門は閉じるのか?」
「九十八代目と同じ事を聞くね。まぁ、それは本当の事だ。私は契約により嘘をつけないからね、この言葉は信じてくれて構わないよ」
「だとしても、なんでそんな重要な事を教えるんだよ。今まで聞いても教えなかったくせに」
「九十八代目もそれを聞いたよ。答えは、まぁご褒美といったところだ。せっかく800体目なのだから、少しくらいご褒美をあげてもいいだろうと思ってね」
「なんじゃそりゃ。つか、それもいいけどご褒美くれるならもっとちゃんとしたやつにしてくれよ」
「ほう。例えば?」
「そうだなぁ……」
守哉は思案した。つい言ってしまったが、考えてみればそこまで欲しいものが思い浮かばない。強いて言うなら金だが、どうもこの島には八百屋や肉屋、魚屋などはあっても娯楽施設の類は一切ないらしい。金があっても使う機会がなさそうだった。
「うーん……そうだ!服が欲しい」
「服?そんなものでいいのか?」
「ああ。そうだな、新しいパーカーをくれよ。できれば青いやつ」
ちょっと守哉が期待して言うと、神様は頭を振って両手を挙げた。
「すまないが、無理だ」
「無理って……あんた神様だろ。そのくらい朝飯前じゃねぇの?」
「神様といっても、私はこの島に封印された身でね。力の大部分は高天原にもっていかれてるから私にできる事などほとんどないのだ」
「……期待して損した」
盛大にため息をついて守哉はがっくりとうな垂れた。神様は背伸びして守哉の肩をぽんぽんと叩き、慰めるように言った。
「まぁ、そう気を落とすな。そうだな……私が服を恵んでやる事はできないが、お前を導いてやる事はできる。百代目よ、神奈裸備島へ向かうのだ」
「神奈裸備島?」
「そうだ。あそこへ行けば、大抵の生活用品は手に入る。ちょうどお前の学校も休みになるようだし、九十八代目に言えば連れて行ってもらえるのではないか?」
そういえば、なんたらに感謝する日だとかで、今週は明後日から学校は休みになると忠幸が言っていた気がする。どうせ休みになったところでやる事なんてないので、あまり気にしていなかったのだが……
「……よし、決めた。神奈裸備島に行こう。帰ったら、優衣子さんに相談してみっかな」
「そうか。良い服が買えるといいな」
「ああ。なんか、ありがとな。いい情報をくれて」
「いや、気にするな。それより、本当に神奈裸備島に行くというのなら、覚悟はしておけよ?」
「覚悟?」
「ああ」
神様は珍しく真剣な顔をして、守哉の顔を見つめた。
「この島の真実に触れる覚悟だ」
不意に、突風が吹いた。守哉が思わず目をつむると、気づいた時には神様はいなくなっていた。
「……やけに意味深な台詞だな」
神様の言った言葉が頭から離れない。ぽりぽりと頭をかきながら、いつの間にか寮に到着していた事に気づいた。
なんともいえない複雑な気分のまま、守哉は優衣子の待つ磐境寮へと足を踏み入れた。