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かみかみ  作者: 明日駆
38/102

番外編その1 “暇人の夢”

夜中のテンションで書いた意味不明なお話です。

「うーん」


 悩ましげな声が虚しく響く。


 声の主は未鏡守哉、場所は磐境寮の607号室。本日は日曜日、午後1時である。

 守哉の休日というのは、基本的に二度寝で始まり昼寝で終わる。昼飯を食べないのはよくある事―――というか優衣子が昼飯を作ってくれない――――で、知らないうちに日が傾いていたりする。

 神奈備島に来てからというもの、この暇な休日は当たり前のようになり始めていた。神奈備島に来る前は家事やら宿題やらで忙しく、昼寝もまともにできないほどだったのだが、神奈備島に来てからは家事をする必要もなく学校の宿題は簡単すぎて速攻で終わってしまうため、何もやる事がないのであった。やる事といえば逢う魔ヶ時の訓練ぐらいであり、当然それまでは暇になる。

 しかし、今日に限って眠気がこない。起きたのが12時30分だったからだろうか。


「普通に寝すぎたな。身体がだりぃや」


 ぼけーっと座り込んだまま呟く。何気なく壁にかけられた時計を見ると、時刻は13時7分。ちっくたっくちっくたっくと秒針が小刻みに動いている。

 何気なく何かを見つめていると、つい自分もそれになりたくなってくる事はないだろうか。いやたぶんないだろうが、そこはそれ、気にしないで欲しい。とにかく、それは相当な暇人の証拠であるのだが、今の守哉がまさにそれであった。


 ちっくたっく。ちっくたっく。


「……いいなぁ、楽そうで」


 背中を丸めてにへら、と笑う。時計の秒針をずっと眺めていると、なんだか自分も時計の秒針になれる気がしてきた。


 ちっくたっく。ちっくたっく。


「俺も秒針になりてぇなぁ」


 秒針は偉い。何が偉いって、働き者なところがである。秒針は年中無休、毎日休まずに働いている。きっと、自分が休めば皆が困る事がわかっているからに違いない。そして、給料もないのに一生懸命働いているのだ。自分のためではなく、皆のために。なんて一途なやつなんだろう。

 その姿も美しい事この上ない。スマートで飾り気のない秒針は、まったく無駄のないフォルムをしている。これぞまさに芸術品である。秒針に比べれば、なんとこの世の無駄の多い事か。

 ふと、自分の身体に目を向ける。寝巻き代わりに使っているシャツと短パンという、実にシンプルな姿。しかし、秒針と比べればどちらが美しいかなど一目瞭然である。断然、秒針の方が美しいしかっこいい。


「ああ、俺はなんて惨めな存在なんだろう。秒針はあんなにも美しいというのに……」


 心底悲しげにぼやく。その姿と言動は誰がどう見ても精神に異常をきたしたヤバい人にしか見えないのだが、守哉はそれにまったく気づいていなかった。同性さえも魅了する、端整な顔立ちが台無しである。

 不意に、守哉はこの世界に向かって愛を叫びたくなった。秒針への愛を。

 両手を大げさに広げ、背中を反らしながら守哉は叫んだ。 


「ああ、秒針は美しい!なんて美しいんだろう!愛してる!愛してるよ、秒針!」


 力の限り叫び続ける。なんか、似たような感じの台詞を。10分ほど叫び続けたところで、喉が渇いてきたので中断した。はぁはぁ、と息を荒くしながら秒針を見つめる。すると、まだ愛を叫び足りない気がしてきた。しかし、これ以上叫ぶのはきつい。どうしよう。


(この溢れんばかりの愛を表現する方法は他にないのか……!?)


 考える。眉間にしわを寄せて考えまくる。しばらくして、とてもいい案を思いついた守哉は、ぽんと手を叩いて晴れやかな顔で言った。


「そうだ!俺自身が秒針になればいいんだ!」


 そうと決まればまずは準備である。秒針になるにはまず細長くならなければならない。守哉は両手を頭の横で真っ直ぐ伸ばし、足をぴったりと閉じた。これで自分は秒針になれたと守哉は確信した。

 しかし、そこで守哉は気づいた。秒針ならば、ちっくたっくと小刻みに動かなければならない。そうしなければ完璧な秒針になれたとはいえない。だが、秒針のあまりにも美しいあの動きを人体で再現するのは不可能だ。どうしよう。

 守哉が思い悩んでいると、突然部屋のドアが勢いよく開いて誰かが入ってきた。癖っ毛のある水色のツインテール、神代七瀬である。

 七瀬はぐっ、と拳を握り締めて言った。


「……かみや、わたしに任せて!」


 気がつくと、周りの空間が変貌していた。周囲は何もない、真っ白な空間が広がっている。

 呆然と守哉は呟いた。


「ここは……?」

「……ここは、永遠の世界ビヨンド・ザ・タイム。そうに違いないよ」


 自信満々で七瀬はそう言ったが、守哉は絶対に違うと思った。しかし、ここがどこであろうと秒針になろうとしている自分に関係はないので、細かい事は気にしない事にした。

 ふと守哉は足元に目を向ける。白い空間が広がる先、その一番端っこになにやら大きな文字が描かれていた。小走りで近寄ってみると、それは数字の12であった。少し離れたところには1と描かれている。

 よく見ればこの空間は円形に切り取られている。守哉はある事に気づいた。


「まさか、これは……!」

「……そう、ここは巨大な時計なの。かみや、ここなら思う存分秒針になれるよ」


 七瀬はにっこりと笑って言った。まさか、これは七瀬の仕業なのだろうか。だとしたら、大いに感謝しなければならない。今の七瀬は太陽よりも眩しく輝いていると、守哉は感動した。


「よし、俺は秒針になるぞ!」


 端っこから真ん中に向かって走る。秒針になるにはまず時計の中心に行かなければならない。そこで身体を地面に平行になるように固定するのだ。

 真ん中にくると、そこには直径1mほどの穴が空いていた。ここに身体を支える器具を差し込めば秒針になる事ができるだろう。

 そこで守哉は困った。そんな器具、自分は持っていない。どうしよう。


「ここは私の出番ね!」


 その声に振り向くと、そこには七美の姿があった。脇には電信柱のようなものを抱えている。というか、それはまさしく電信柱だった。重くないのだろうか。

 守哉の心配をよそに、七美はずんずんと歩いていくと穴の前で立ち止まった。


「これをこの穴に差し込めば……!」


 七美は脇に抱えた電信柱を持ち直し、思い切り上に振り上げて穴目掛けて叩きつけた。何故か凄まじい衝撃波が辺りに放出され、ぼーっと突っ立っていた守哉を吹き飛ばした。

 それを知ってか知らずか、七美は手を腰にあって満足げに微笑んだ。


「完成よ!我ながら完璧ね!」


 吹き飛ばされた守哉は恨めしげに七美を見ると、次に先ほど穴に突っ込まれた電信柱を見た。なんと、電信柱に三つ大きな穴が空いていた。ちょうど人間の胴体がすっぽりと入りそうな穴だ。

 これなら身体を固定する事ができるだろう。守哉は七美に深く感謝した。プールの底に落ちてる塩素くらいの深さで感謝した。


「よし、早速穴に入ろう」


 あまりの嬉しさにスキップしながら穴の空いた電信柱に近づくと、いきなり誰かに後ろから引っ張られた。驚いて振り返ると、引っ張ったのは七瀬であった。頬を赤く染めて恥ずかしげにもじもじしている。


「……かみや。秒針だけじゃダメ。長針と分針がなきゃ、時計は完成しないよ」


 言い方と台詞がいまいちかみ合ってないような気がした。


「何言ってんだ、俺は秒針になりたいんだよ。別に時計になりたいわけじゃない」

「……でも、秒針だけあっても時計じゃないよ。時計じゃないのに秒針があるなんておかしいよ」

「ふむ……一理あるなぁ」


 確かに、秒針だけあったところで意味はない。秒針は時を刻む存在だ。ならば、その刻んだ時を表す存在……つまり現在時刻を表示する存在が必要だ。

 よし、と守哉は頷いた。


「七瀬。俺の長針になってくれるか?」


 真剣な顔の守哉に見つめられ、指をこねくりまわして激しく照れながら七瀬は言った。


「……う、うん。ふつつかものですが、よろしくお願いします……」

「ちょっと待ったぁ!」


 鋭い声。二人が振り向くと、鬼のような形相でこちらを睨みつける七美がそこにいた。


「私抜きで勝手に話を進めないでよね!長針になるのは私よ!」

「なんだよ、分針じゃダメなのか?」


 七美は顔を真っ赤にしながら言った。


「ダメよ!だって、守哉が秒針なんでしょ!?」

「まぁ、そうだけど」

「秒針と長針は重なりあっている……それってつまり、秒針と長針は合体するって事なのよ!そんなの許す事はできないわ!」

「な、何ィ!?」


 守哉は驚愕した。つまり、自分は秒針として長針である七瀬と合体しなければならないのだ。それで七瀬は照れていたのか、と守哉は密かに納得した。


「確かにそれは……あまりよくないな」

「……どうして?どうして合体しちゃいけないの?」


 七瀬は守哉のパーカーのすそをひっぱりながら悲しそうな顔でそう言った。そんな悲しげな顔で見つめられると、守哉は自分が酷くいけない事を言っているような気がしてきた。


「うーん。やっぱり、合体しよう」

「……やった」


 七瀬が嬉しそうににっこり笑う。それを見て、どんどんと足を踏み鳴らしながら七美は叫んだ。


「ダメよ!ダメったらダメ!絶対ダメったらダメーっ!!」

「なんでダメなんだよ」

「とにかくダメなものはダメなの!どうしても合体したいというなら……」


 七美は顔を真っ赤にして言った。


「私と合体しなさい!」

「ええっ?」


 ようするに自分が合体したかったのか、と守哉は普通に納得した。


「よし、じゃあ七美と合体しよう」

「……だ、ダメ!かみや、ダメだよ!おねえちゃんと合体しちゃダメ!」


 守哉にすがりつき、ふるふると七瀬は頭を振りながら言った。


「……わたし、かみやと合体したいよ!だって、かみやのことが大好きなんだもん!」

「な、なんだって……!?」


 今更だが守哉は心底驚いた風な顔をした。よくわからないが、そうした方がいいような気がしたからだ。

 今度は七美が守哉の右腕を引っ張ってきた。


「七瀬みたいないい子はあんたには似合わないわ!守哉、ここは私と合体するのよ!」


 対して、七瀬は何故か守哉の耳たぶをふにふにと触りながら言った。


「……かみや、わたしと合体して!わたし、かみやと合体したいの!お願い!」


 美少女二人に挟まれて、守哉は昇天しそうなほどの喜びに包まれた。自分の今までの人生に、今日この日ほどの素晴らしい日があっただろうか。いやない。


「……かみや、わたしかみやのためならなんだってできるよ!ほら、見て!」


 七瀬は一旦守哉から離れると、白いワンピースに下から手を突っ込んだ。すると、何かが七瀬の股の間からするりと落ちてきた。なんとそれはショーツであった。


「……かみや……見て」


 七瀬はこれ以上ないほど顔を真っ赤にしながらワンピースをたくし上げようとした。守哉は呆然としながら七瀬の一挙手一投足を目で追おうとする。

 守哉が七瀬に目を奪われているのを見て、七美は守哉の足を思い切り踏んづけた。しかし、その程度では守哉の意識は七瀬から離れない。


「何よ!なら、私だって!」


 あともう少しで七瀬の大事なところが見えるというところで、突然何かが守哉の視界を遮った。なんだこれはと憤慨しながらそれを手に取ると、なんとそれはブラジャーであった。驚いてブラジャーが飛んできた方に目を向けると、七美が着ていたワンピースの脱ぎ捨てていた。その足元には無造作にパンツが脱ぎ捨てられている。

 生まれたばかりの姿になった七美は、大事な部分を両手で隠しながら顔を真っ赤にして言った。


「ど、どう?私と合体する気になった?」

「なったなったなりましたぁっ!!!!」


 でれーっ、と凄まじく顔をだらけさせながら守哉は七美に覆いかぶさろうとした。しかし、その一瞬前に七瀬が守哉を羽交い絞めにした。守哉が恨めしげに後ろを向くと、七瀬は泣きそうな顔で守哉を睨みつけ、少し怒ったようにうなった。


「……うー……」


 よく見ると七瀬はワンピースの端を口にくわえていた。おまけにいつの間にかブラジャーも脱ぎ捨てている。七美と違って生まれたばかりの姿というわけではないが、逆にワンピース一枚だけという姿は下手な裸よりもよっぽどエロティックに見えた。


「お、俺、俺はぁーっ!」


 守哉は叫んだ。それは、理性の断末魔だったのだろうか。守哉は七瀬を振りほどくと、素早く七瀬を地面に押し倒した。七瀬は最初驚いた顔をしていたが、すぐに顔を赤くして目をつむった。守哉は唇をタコみたいに尖らせて―――


「させないわよっ!」


 守哉と七瀬の唇が触れ合おうとする一瞬前に七美は守哉にドロップキックをかました。勢いよく吹き飛んだ守哉に今度は七美が覆いかぶさろうとする。それを今度は七瀬が組みついて阻止した。


「は、放しなさい!ここはお姉ちゃんに譲るのよ、七瀬!」

「……やだ!かみやの初めてはわたしがもらうのー!」


 じたばたと組み合って暴れる二人。それを見かねた守哉は―――というかいい加減我慢ができない守哉は―――二人をまるごと押し倒し、その上に覆いかぶさった。

 驚く二人を見て、守哉は言った。


「二人とも、俺のもんにするっ!!」


 その言葉に、七瀬と七美はこれ以上ないほど顔を真っ赤にして俯き、恥ずかしそうに顔をそむけて呟いた。


『……や、優しくしてね……』


 よっしゃ俺のターン!!!と心の中で意味不明な事を叫びながら守哉は素早くズボンを脱ぎ捨てトランクスを脱ぎ捨てさあ合体だと張り切った瞬間―――


「優しくするのじゃぞ?」


 七瀬と七美だったはずの二人はトヨになってしまった。



 ☆ ☆ ☆



「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!???」


 絶叫を上げながら守哉は飛び起きた。はぁはぁと息を荒げながら周囲を見渡す。そこはいつもの自分の部屋であった。


「ゆ、夢か……」


 安堵の息をつき、胸を押さえる。時計を見ると、時刻は午後2時だった。


「そういや、二度寝したんだっけ」


 頭を押さええながら記憶を探る。確か、朝の5時に目が覚めてしまい、寝ようとしても寝れなかったのでひたすら言魂の練習をしていたのだった。たまたま目についた時計を具現化させようと練習を重ねた結果、ようやく具現化できたところで疲れて眠ってしまったのである。

 頭をぽりぽり掻きながらもう一眠りしようかと思った守哉だったが、不意にお腹が空腹を訴え始めた。


「腹減ったなぁ。今日ぐらい昼飯食うかな」


 呟き、守哉は立ち上がって部屋を出て行った。


 優衣子はご飯を作ってくれるだろうか。期待はしてないけど。

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