第34話 “寂しさの昇華”
パキィン、という音とともに手の中の魔刃剣が砕け散る。
同時に、中庭を真っ白に染め上げていた氷雪も融けてゆく。なかなか幻想的な光景ではあったが、今はそれを楽しむ者は一人としていなかった。
「……お、終わったのか」
がくん、と膝をついて、守哉は力なく呟いた。無我夢中で魔刃剣を使ったため、一気に精神力を使い果たしてしまったのか、ズキズキと頭が痛んでいる。
「どうやら、そうみたいだニャあ」
肩に乗っていた藤丸が言った。ぴょんと砂利の上に飛び降りると、倒れた優衣子の方に歩み寄っていく。
不意に、動こうとしない守哉の方を振り返って言った。
「どうしたんだニャ。早く無事を確認しニャいと」
「あ、ああ……。そうだな」
言われて我に返った守哉は、慌てて立ち上がり優衣子へ駆け寄る。優衣子は完全に気を失っていた。外傷はないようだったが……
「あれ?これといって傷はないけど、どうして気絶してんだ?」
「ふ~む……恐らく、守哉が使ったのは破邪の刃の方だったみたいだニャあ」
「破邪の刃?」
「魔刃剣に秘められた、もう一つの力ニャ。全ての魔刃剣は、あらゆる邪悪を取り除く力がある。その刃は、邪悪のみを切り裂くそうだニャ」
「刃って……ありゃどう見ても刃じゃないぞ。吹雪だ」
「名前と形の繋がりは関係ニャいニャ。魔刃剣っていうには剣の形をしてるのは守哉の魔刃剣だけニャのと一緒だニャ」
「ふ~ん……。まぁ、何はともあれ無傷で勝てたのは良かったよ。勢いで使っちまったから、怪我させてたらどうしようかと思ってたんだ」
そう言って気が抜けた瞬間、守哉は不意に思い出した。
「そうだ!七瀬、七瀬はどこだ!?」
「あの娘ならお前が池に投げ込んだだろニャ」
「そうだった!」
急いで池に駆け寄る。池の水はずいぶんと減っていた。倒れている七瀬の身体が半分ほど水面に出ている。
「七瀬!」
駆け寄って優しく抱き起こす。ゆさゆさと揺らして起こそうとする。
「七瀬!しっかりしろ!七瀬!」
返事はない。最悪の事態を想定し、守哉の顔が真っ青になる。
「七瀬っ!!」
思わず強く抱き寄せ耳元で怒鳴ってしまう。すると、僅かに反応があった。
「……んぅ……」
「七瀬!?大丈夫か、七瀬!」
「……かみや……?」
ごしごしと目をこすりながら七瀬は目を覚ました。ぼんやりとして守哉の顔を見上げてくる。
「……かみや……どうしたの……?」
「ど、どうしたのじゃねぇよ……まったく……」
はぁ、と盛大にため息をつき、強く抱き寄せる。とたんに七瀬の顔が真っ赤になった。
「……か、かみや……?」
「死んだかと思ったぞ……」
力強く七瀬を抱きしめる。わけがわからず混乱している七瀬だったが、何となく守哉の心情を察してそっと両腕を守哉の背中に回した。
互いに抱き合う。互いの体温が、生きている事を実感させてくれる。
「お楽しみのところ失礼なんだけどさ」
ぎょっとして二人が振り返ると、じとーっとした目でこちらを見る七美の姿があった。
「私が寝てる間に何があったわけ?中庭が大惨事なんだけど」
七美は中庭を見渡しながら言った。確かに、優衣子と守哉の魔刃剣の影響で中庭はまるで嵐が通り過ぎていったかのように荒れている。いつの間にか藤丸はいなくなっていた。
というか、今の今まで寝ていたのだろうか。よく起きなかったものである。
「あー……いや、これはその……ちょっと、色々あって」
「言い訳は後で聞くわ。つか、いつまで抱き合ってんのよ」
言われて思わず顔を見合わせる守哉と七瀬。少し気まずくなり、あはははは、とお互いに苦笑いしながら名残惜しそうに離れた。
「あ、そうだ。藤原さんを家の中に入れてやらないと!」
守哉は手を叩いてわざとらしくそう言った。しかし七美のじとーっとした視線は変わらない。
苦笑いしながら、守哉は言った通りに優衣子を家の中に入れてやる事にした。
☆ ☆ ☆
深遠に落ちた意識が覚醒しつつある。
目を閉じたまま、ぼんやりと優衣子の意識がはっきりしてきた。身体が暖かい。ずっと眠っていたくなるような心地よさを感じた。ずっと身体にかかっていた重みが取れたような、背負っていた重い荷物をようやく降ろせた時に似た、ほっとした感じ。
ふと、誰かの気配を感じた。一人ではない……二人、いや三人だろうか。眠っている自分の左側に座っているようだ。
起きなければならない―――不意に、優衣子はそう思った。
「……ん……」
身じろぎする。すると、周囲の気配が反応した。
「お、気がついたのか?」
その声に、優衣子はゆっくりと目を開けた。そこには心配そうな顔でこちらを覗き込む守哉と七瀬の姿があった。
ゆっくりと身体を起こす。身体が少しだるい。だるさに負けて眠ろうとする自分を心の中で叱咤して起き上がった。
「……ここは?」
「神代家だ。身体、大丈夫か?どこか痛いところはないか?」
「ない、けど……」
心配そうに言う守哉の姿を見て、不意に強烈な罪悪感を感じた。記憶がフラッシュバックし、自分がしてきた事を思い出して吐き気をもよおす。
「うぅっ……」
「お、おい、本当に大丈夫か?」
「……大丈夫よ。心配しないで」
安心させるように無理に笑顔を浮かべる。気分が悪いからか、酷く笑顔が引きつったがそれでも守哉は安心してくれたようだった。
「私、どのくらい眠っていたの?」
「30分くらいだ。まだ逢う魔ヶ時だよ。あと10分くらいで終わるけどな」
「そう……」
思っていたよりも眠っていた時間はずっと短かったらしい。どうせならもっと寝とけばよかったと優衣子は少し後悔した。
不意に、守哉は真顔になって言った。
「無理をさせる気はないけど、一つだけ教えてくれ。英司さんはどこにいるんだ?」
英司。その名を聞くと胸が締めつけられる。
未だ、英司に未練があるからだろうか。それとも……
「ババアが戻らないんだ。さっき寮を見に行ったけど、もぬけの殻だった。行方不明者の三人はいたけど、ババアの姿はなかった。教えてくれ、英司さんはどこに行ったんだ?」
トヨが戻っていない。その言葉に、優衣子は諦めたように渇いた笑みを漏らした。
「……戻らないなら、そのまま死ねばいいわ」
守哉の目つきが険しくなる。七瀬も珍しく、怒ったような表情をしていた。
「何言ってんだよ」
「だってそうでしょう?意地悪だし、強引だし。自分勝手で、人の話を聞こうともしない。あげく自分の力を過信して罠にかかって……いい気味よ」
英司に魅了されている間、優衣子は英司の視界を一時共有していた。だからわかる。磐境寮の管理人室に不用意に足を踏み入れたトヨが強力な呪法に引っかかった事を。今のトヨにあの呪法から自力で逃れる術はあるまい。
暗い表情で優衣子は続けた。
「あんな女、死ねばいいのよ。何もかも奪われた私から、更に奪おうとするなんて……あの女は鬼よ。悪魔よ。生きていていい人間じゃないのよ!」
瞬間、パン、と渇いた音が響く。
一瞬遅れて、自分が守哉に平手打ちをくらった事に気づいた。
「死ねばいいなんて、言うな」
痛くはなかった。ただ、心が痛んだ。殴られた事で、自分がどれだけ虚しい事を言ったのか気づいたからだ。
「俺だってあのババアは嫌いだ。でもな、あのババアにも家族がいるんだ。少なくとも、ここで言っていい言葉じゃない」
横目で七瀬を見る。七瀬は悲しげな顔でこちらを見つめていた。
とたんに、自分が惨めになった。誰にも心配してもらえない自分が。
「……バカみたい」
守哉は自分の味方じゃなかったのだ。所詮、自分は荒霊に加担した罪人というわけか。
「私はずっと一人だったのに。誰かにすがりたくて、すがりついた結果がこれよ。どうせなら、死ねばよかった。殺してくれればよかったのに……」
力なく呟く。すると、また守哉に殴られた。先ほどとは違い、グーで殴られた。
「死ねばよかったなんて、言うな」
「……じゃあなんて言えばいいのよ」
この世は本当に理不尽だと優衣子は思った。
「あんた、バカだろ。バカにもほどがあるぜ。このバカおんな」
バカおんなはあんまりだろう。というか、他に罵りようはなかったのか。
「あんたは何もわかっちゃいないよ。俺だってついさっきまで自分がバカだと思ってた。つか、今でもバカだと思ってる」
「そうね」
確かに、守哉はバカだと思う。正直、さっきから何を言いたいのかさっぱりわからない。
「何もわかってないようだから言ってやる。いいか、耳の穴かっぽじってよーく聞けよ」
耳の穴をかっぽじれと言われても、正直どうすればいいのかよくわからない。
色々と突っ込みたくなる優衣子だったが、不思議と黙って聞いてしまった。
「あんたは一人じゃない。少なくとも、俺がいるだろ」
どこまでも真面目な顔で、守哉はそう言った。
「本気で心配したんだぞ。あんたにもしもの事があったらって、ずっと考えてたんだぞ。なのに、いざ助けてみたらこれだ。本当、あんたバカなんじゃないか」
心配。
心配―――してくれるのか。
こんな自分を。
「あんたがいなくなったら俺は一人ぼっちで寮で過ごさなきゃいけなくなるんだぞ。あんたがいなくなったら俺は誰に飯用意してもらうんだよ。いつもいつも七瀬に食わしてもらうわけにはいかねぇんだぞ」
守哉の言葉は、まるで子供が親にすがっているようだった。
「俺がどれだけあんたの存在に救われてると思ってる。俺がどれだけあんたの事が大切なのか、あんたは知ってるのか」
知らなかった。まさか、自分が……こんな、怠惰で寂しがりやで情けない自分が。
「あんたは、俺の家族なんだ。だから、簡単に死ぬとか言わないでくれよ……」
誰かの、心の支えになれるなんて。
「………」
何も言えなくなり、押し黙る。確かに、自分は馬鹿だった。どこまでも馬鹿だった。こんな身近に、自分の事を大切に思ってくれている人がいる事に気づかなかったなんて。
そうだ。自分も、この子が大切だったじゃないか。以前、守哉が寮に帰らなかった時、ずっと眠れずにロビーで突っ伏して帰りを待っていたじゃないか―――
「私……」
今まで自分がしてきた事を思い返す。僅かな時間かもしれないけれど、それでも自分が寂しさに負けて荒霊の言いなりなっていた事には変わりない。
「間違って、いたのね」
妙にすっきりした気分で呟いた。自分は一人じゃないという事実が、自分の中にあったもやもやとしたものを取り除いてくれたような気がした。
その言葉に、守哉はにひっ、と笑った。
「そうだよ。バーカ」
憎たらしい笑い方だと思った。でも、その笑顔はどこまでも魅力的だと思う。
「そうね。本当に、そう」
そう言って、お互いに笑い合う。暖かな家族の絵がそこにあった。
そんな二人を、七瀬は優しげに微笑んで見つめた。
「あのさ、この雰囲気を壊すのは忍びないんだけど」
気まずそうに七美が言った。優衣子は心底驚いたような顔で、
「あら、いたの」
「いたの、じゃないわよ!まったく、どいつもこいつも私の事軽く見すぎなんじゃないの!?」
「ふふふ、ごめんなさい。冗談よ、冗談」
慈愛溢れる微笑を浮かべて優衣子は言った。本当のところ、素で気づいていなかったのだが。
「まったく……。あのさ、いい加減トヨバア探しに行った方がいいんじゃない?もう逢う魔ヶ時過ぎちゃうわよ」
「そういやそうだったな」
言って守哉は立ち上がった。そして、何か言いたげな顔で優衣子を見つめる。優衣子はこくりと小さく頷いて言った。
「英司の本体は墓所にいる。恐らく、捕まったババアもそこに連れて行かれたはずよ」
「わかった」
そう言って守哉は急いで行こうとする。思わず優衣子は呼び止めた。
「待って」
「なんだよ。あんたはまだ寝てた方がいいぞ」
「そういうわけにはいかないわ。たぶん、英司を鎮められるのは私だけよ。それに、あなた墓所の場所知ってるの?」
「う……それもそうか。じゃあ、悪いけど道案内を頼む」
「ええ。……もちろん、七瀬ちゃんも行くのよね?」
いつの間にか立ち上がっていた七瀬は力強く頷いた。自然、全員の視線が七美に集まる。七美は慌てて顔の前で手を振った。
「わ、私は行けないわよ。これでも病人なんだから」
「わかってるよ。なんとなくノリで見ただけだから心配すんな」
むきーっ!と怒り出した七美を放置して、三人は部屋を出た。
「時間がない……急いで行くわよ」
目指すは島の西側、英司の墓標だ。
☆ ☆ ☆
自らの墓標を前に、英司はたたずんでいた。
墓標の前には意識を失ったトヨが寝かされている。強力な呪法に精神を捕らわれているために身じろぎ一つしない。まるで死んでいるかのようだった。
英司は待っていた。逢う魔ヶ時が過ぎるのを。逢う魔ヶ時さえ過ぎればトヨは天照大神の恩恵を失う。そうなれば後はどうにでもなる。今の自分ならば尚更だった。
「あと少しだ……あと少しで逢う魔ヶ時が過ぎる」
優衣子は思っていたよりも役に立たなかった。あんな新参者の子供に敗れてしまうなんて、とてもではないがノルマを達成して神和ぎを辞したとは到底思えない。長い怠惰な生活で腕が鈍ってしまったのだろう。
「まったく、呆れるね。あれで僕の仇を討とうなんて、やる気がなかったとしか思えない」
まぁいい。時間稼ぎは見事に果たしたのだ、褒めてやってもいいだろう。
自らの身体にかかっていた重圧のようなものが緩み始める。逢う魔ヶ時の終わりが近づいているのだ。恐らく、あと3分といったところか―――
不意に、誰かが近づいてくる気配を感じた。
「………来たか」
後ろを振り向く。ちょうど守哉達が石段を上り終えているところだった。
爽やかな笑みを浮かべ、英司は言った。
「やあ。遅かったじゃないか、優衣子。皆、君のとりこにしてしまったのかい?」
その言葉に、優衣子は首を振った。―――まぁ、聞かずともわかっていた事ダ。
優衣子は悲しげな表情で言った。
「英司。私、お願いがあってここに来たの」
お願い。オネガイだと?
「オネガイ……なんだい?言ってごらんヨ」
口調が狂う。おかしい。なんだか、良くないものに魂が引きずられている―――
「もう悪さをするのはやめて。お願いだから帰ってほしいの」
「帰る?ドコニだイ?」
「言わなくてもわかるでしょう。あなたはもう死んだ人……この世にいてはいけない存在なのよ」
ナニをイウ。僕は、まだ何モしてイナイ。何モシテイナインダゾ。
「どうして、キミはそンな事をイウ」
「あなたの事を考えているからよ。これ以上この世界にいてはダメ。早く常世へ帰らなければ、あなたは……」
「どうナると言ウんダ」
「神さびになる」
その言葉に守哉は驚愕した。思わず隣にいた七瀬の顔を見る。七瀬も驚いた顔でふるふると首を振った。
カミサビ。ソレハ、ナンダ?
「お願い。私の言う事を聞いて」
「イヤダ」
「あなたのためを思っているのよ」
「イヤダ」
「どうして私の言う事を聞いてくれないの?私はあなたの言う事を聞いたわ」
「ソンナ事ハ関係ナイ」
「一度だけでいいから……お願い」
ドウシテソンナ事ヲ言ウンダ。
役立タズノクセニ。僕ノ思惑通リニ動ケモシナイ、役立タズノクセニ。
ソノ内臓、引キズリ出シテ喰ラッテヤロウカ―――イヤ、マテ。
何ヲ、今僕ハ何ヲ考エタ……!?
「な……」
守哉は絶句した。優衣子と話をしているうちに、英司の身体が変化し始めたからだ。
異質な気配が広がっていく。今までその身に封じられていた力が開放されつつあるかのように。
そうだ、英司は神さびと化して死んだのだ。だとすれば、今まで英司が人間の形をしていた方がおかしいのかもしれない。
「ア……アアアアアアアア……」
英司の身体に亀裂が奔る。亀裂から強大な気配が漏れつつある。
神さびになろうとしている―――
「くっ……!」
守哉は咄嗟に左手を前に出した。右手を聖痕の前で握り締める。
不意に、それを優衣子が片手で制した。
「何を……!」
「任せて。お願い」
優衣子は真っ直ぐに英司を見据えて言った。その迫力に気おされ、守哉は両手を下ろした。
「英司……」
優衣子はゆっくりと英司に歩み寄った。英司は今までに見せた事のない、怒りをあらわにして叫んだ。
「クルナ!!キテハイケナイ!!」
優衣子は歩みを止めない。更に英司は叫んだ。
「キチャダメダ!!キミダケハ殺シタクナインダ!!」
その言葉に、優衣子は優しげな微笑を浮かべた。その身体がぼんやりと光っている。言魂だ。
「………相変わらず、優しいのね」
英司の前に立つ。思わず後じさろうとする英司を、優衣子は優しく抱きしめた。
「ナ……」
「苦しいんでしょう?悲しいんでしょう?本当は、こんな事望んでいないのよね……?」
「違ウ!コレガ僕ノ望ミダ!神サビニナル事ガ、僕ノ唯一ノ―――」
「違うわ。それは、あなたを喰らった神さびの願望。本当のあなたはそんな事考えてない」
「オ前ニ何ガワカル!!早クドケ!!ジャナイト、オ前マデ……!!」
「大丈夫よ」
ぎゅっと、優衣子はよりいっそう強く英司を抱きしめた。
愛しい恋人を抱くように。
「大丈夫だから」
その言葉に。
その言葉に―――不意に、英司は昔の事を思い出した。
ある日この島にやって来て、皆からいじめられていた優衣子。ふとした事で優衣子と出会い、その寂しげな表情に惹かれてしまった自分。何度もアプローチしては罵られ、殴られ、蹴られ―――それでも諦めなかった自分は、いつの間にか優衣子の傍にいる事を唯一許される存在となった。
それは、一人ぼっちで泣いていた優衣子に、自分が何度も言った言葉だった。何度も、何度も……優衣子が泣き止むまで、何の根拠もなしにずっと繰り返した言葉だった。
―――大丈夫だから―――
「あなたの魂の渇望は、私を救う事」
優しい優衣子の声が耳元で聞こえる。
「あなたがいなくなって、また一人ぼっちになってしまった私を救う事。そのためだけに、あなたは荒霊となって舞い戻ってきてしまった」
身体に奔る亀裂が塞がっていく。代わりに、身体のあちこちが光りだしている。
「あなたと繋がっていたから、わかってしまったの。だから、ごめんなさい。私なんかのために、こんな辛い想いをさせて……」
「……辛くはなかった」
口調が元に戻っている。神さび化を免れたのか―――
「君のためなら、辛くはなかった。ただ、君の寂しそうな姿を見る事がなによりも辛かった。だから、なんとかしてあげたいと思ったんだ」
「………ありがとう。でもね―――」
ふと、優衣子は後ろを見た。それにつられて英司も優衣子の後ろを見る。
そして英司は、優衣子がもう、一人ではない事を確信した。
「こんな私にも、心配してくれる人ができたから。もう、大丈夫よ」
「………そうか」
ほっとするような、少し寂しいような。どちらにせよ、これでいいのだと、英司は思った。
「君が幸せになれたのなら、僕も幸せだ―――」
瞬間、英司を強烈な光が包み込んだ。一瞬凄まじい光を放ったかと思うと、すぐにしぼんで消えていく。
キラキラと光の残滓が煌く。その光を胸に優しく抱き、優衣子は呟いた。
「………そうね。あなたが幸せなら、きっと私も幸せよ」
夕焼け空に光が昇る。
そして、また一つの魂が還っていった。




