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かみかみ  作者: 明日駆
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第29話 “魅了の双眸”

 月明かりが気絶した守哉を照らしている。


 電柱に頭をぶつけた守哉は、電柱にもたれかかるようにして意識を失っていた。頭からは大量の血が流れている。相当な速度で頭から電柱にぶつかったのだ、無理もないだろう。


「………」


 そんな守哉を、優衣子は無表情で見下ろしていた。

 このまま放置しておけば、出血多量で死ぬかもしれない。一刻も早く応急処置を施して病院に連れて行かなければならないのだが、そうしようという気が涌いてこない。


 感情が何者かによってせき止められているかのように。


「あ~あ、できれば無傷で手に入れたかったのにな」


 後ろから英司が出てきてつまらなさそうに言った。優衣子は無表情のまま答える。


「……無茶言わないで。この子は一応神和ぎなのよ。これまで手駒にした人間とは違うわ」

「そうなのかい?それは知らなかった。って事は、この子が噂に聞く悪評高い百代目の神和ぎってわけか」

「いつ噂で聞いたのよ」

「君から教えてもらったのさ。君が聞いていた噂を僕が見た。そういう事さ」


 優衣子は不快そうな表情で英司を睨みつけた。


「見たって……私の頭の中を探ったわけ?」

「おっと、怒らないでくれよ。怒ると力が途切れてしまうからね」


 優衣子の心の中に何かが入り込んでくる。瞬間、優衣子の顔から表情が消えた。


「ごめんなさい」

「いや、謝る必要はないよ。それよりも、早くこの子の身体を縛ってくれ。起こす時に暴れられたら面倒だからね」


 優衣子はこくりと頷いた。英司が持つ能力―――魅了の力は起きている人間にしか通用しないという事は予め聞かされていた。そのため、守哉を手駒にするには守哉を一度起こさなければならないのだ。

 そう、英司は荒霊だ。いい加減、操られていても気づく。自分の頭の奥底にある、未だ英司の力に汚染されていない冷静な部分が、この状況は危険だと何度も警告を発していた。なのにも関わらず、自分は英司に従い、操られている。言魂を使えば、英司の力を退ける事もできるだろうに、あえてそうしていない。どうしても逆らえないのだ。


 いや―――自分は彼に逆らう事を拒んでいるのかもしれない。

 だって、誰かに従って生きる方が楽じゃないか。それが愛する者の命令なら尚更だ。


「早くしなよ」


 英司に催促されて、優衣子は自分がぼーっとしていた事に気づいた。慌てて周囲に何か縛るものがないかどうか探す。とはいっても、ここはただの交差点だ。都合よく人を縛れるものがあるわけがない。

 優衣子が困っていると、それを見かねた英司は仕方なさげに頭を振った。


「仕方ないな。優衣子、身体を一時的に開放するから、この子の身体を押さえておいてくれ」


 すると、優衣子の身体の中から何かが抜け出ていった。優衣子にとりついていた英司が一時的に外に出たのだ。今まで英司はとりついた優衣子を通して荒霊の力を行使していた。神力波で放出していたのは自身の神力ではなく、優衣子の神力だったのである。また、とりつく事で優衣子の支配を完全なものにし、神和ぎもどきの力を行使する事もできるようになる。

 英司が完全に外に出た。今なら英司の支配から逃げ切る事ができる。それがわかっているのに、優衣子はそうしなかった。魅了の力が残っている事もあるだろうが、それ以上に英司の支配から抜け出る事を優衣子自身が望んでいなかった。


「さあ、しっかり押さえるんだ」


 英司に促され、優衣子は守哉の身体を後ろから抱き起こして羽交い絞めにする。何度か守哉の頬にビンタをかますと、守哉は小さく唸りながら目を覚ました。


「……ううん……。ここは……?」

「おはよう。そしておやすみ」


 優衣子は守哉の顔を両手でがっしりと掴み、英司と真正面から向き合わせた。英司の双眸が妖しく光り、守哉に魅了の力を送り込もうとする。


「あ……ああ……」


 守哉は反射的に両目を閉じようとしたが、優衣子がそれを指で阻んだ。無理やり両目を開かせる。血が足りなくなってきたのか、守哉の意識が朦朧としてくると、後頭部に頭突きをして無理やり意識を保たせた。

 しかし、いつまでたっても守哉は堕ちない。焦れたのか、英司は小さく舌打ちした。

 

「ちっ……しぶといな。なんという精神力だ。さすがは神和ぎといったところか……」


 英司が更に魅了の力を送り込もうとする。そこで―――


「……なにしてるの」


 小さい、しかしはっきりとした声が響いた。


 振り向くと、そこには神代七瀬が立っていた。小さなハンドバッグを抱え、普段からは想像もつかない厳しい表情でこちらを見据えている。

 優衣子は小さく舌打ちした。優衣子は七瀬の実力を知っている。七瀬の戦闘力は相当なもので、接近戦に持ち込まれてはこちらに勝ち目はない。更に、彼女は呪法の達人だ。恐らく、あのハンドバッグには呪法に使う道具が大量に入っているに違いない。

 優衣子は一度退く事を進言しようとして英司の方を見た。すると、英司は不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。どうやら、七瀬も魅了する気らしい。優衣子は、七瀬に守哉の頭の傷が見えないように守哉の頭を抱きかかえた。


「やあ。君は……ああ、思い出した。神代家の七瀬ちゃんだったかな」


 英司は爽やかな笑みを浮かべてそう言った。対する七瀬は、死んだはずの英司がここにいる事に大して驚いてもいないようだった。


「……藤原英司さん。どうしてあなたがここにいるの」

「蘇ったんだよ。今日は僕の命日だからね」

「……お盆はまだ先だよ」

「だろうね。でも、こればかりは仕方ない。僕だって、蘇りたくて蘇ったわけじゃないんだから」


 七瀬は英司を睨みつけながらハンドバッグからなにやら道具を取り出した。長さ10cmくらいの、2Bの鉛筆だった。


「……行方不明者を出したのは、あなたなの?」

「知らないね。僕は無関係じゃないかなぁ」

「……じゃあ、あなたはなんで蘇ったの」

「知らないよ。気づいたらここにいたんだ。僕にもよくわからないんだよ」

「……よくわからないなら、おばあちゃんのところに行くといいよ。きっとなんとかしてくれるから」

「イヤだよ。トヨバアはなんでも強引すぎるからね」

「……じゃあ、英司さんはどうするの?」

「そうだね―――」


 そこで、英司は口の端を醜く歪めて告げた。


「ちょっと、悪戯でもしようかな」


 英司の双眸が怪しく光る。同時に七瀬は動いた。手に持った三本の鉛筆をアンダースローで英司に投げつけてぼそりと呟く。


「……剣山牙法」


 瞬間、英司に向かって飛翔する鉛筆が巨大化した。鋭い切っ先が英司を襲う。


「―――風よ!」


 優衣子の叫びに呼応して、烈風が英司の周囲に吹き荒れる。その風に触れた鉛筆は削り取られて塵と化した。

 更に七瀬が動く。ハンドバッグから何本も鉛筆を取り出し、英司に投げつける。七瀬の小さな声に呼応して全て巨大化し、容赦なく英司を襲った。


「ちっ……!」


 小さく舌打ちしながら優衣子は言魂を発動し続けた。繰り出す攻撃は単調ながら、七瀬の使う呪法―――剣山牙法は、ただ鉛筆を巨大化させているだけではない。鉛筆にかかる運動エネルギーさえも増幅させる効果がある―――つまり、早い話が飛んでくるスピードも上がるのだ。しかも、七瀬は投げている鉛筆の一本一本の速度に変化をもたせる事で、こちらの計算を狂わせようとしている。今、英司の周囲に展開している風の防壁は、飛んでくる鉛筆が英司に命中する瞬間に鉛筆を覆いつくし、一気に削り取るというものだ。あれだけの数の鉛筆を投げられては、鉛筆を削るための風が足りなくなってしまう。

 優衣子はこのままでは勝ち目はないと判断し、守哉を放り出して七瀬に向かって駆け出した。身体強化の言魂を薄く全身に張り巡らせる。優衣子の身体能力が上昇し、姿勢を低くして一気に七瀬の懐に潜り込む。


(もらった!)


 優衣子は七瀬の顎目掛けてアッパーを繰り出した。七瀬はこちらが防壁を出しているために言魂を発動できないと考えていたのか、優衣子の行動に少し驚いているようだった。更に、鉛筆を投げようとしていた七瀬は反応が遅れる。

 このままいけば確実に七瀬をノックダウンさせられる。優衣子は勝利を確信した。

 瞬間、七瀬の顔が視界から消えた。七瀬は、鉛筆を投げる直前で思いっきり後ろにのけぞったのだ。更にのけぞる勢いだけでその場で一回転すると、強烈な膝蹴りを優衣子の顎にかました。


「うぐっ……!!」


 まさか言魂なしでこんな動きができるとは思っていなかった優衣子は、強烈な膝蹴りをくらって一瞬宙に浮いた。そのまま後ろに倒れこみ、意識を失う。

 白いワンピースをはためかせて優雅に着地した七瀬は、気絶した優衣子を一瞥すると次に英司の方へ目を向けた。


「……次は、あなた」

「お、おいおい……そんな怖い顔をするなよ。一体どうしたっていうんだい?急にさ」

「……荒霊に容赦なんかしない。それに……」

「それに?」


 七瀬は怒りをあらわにして英司を睨みつけた。


「……かみやを傷つける人は、許さない」


 七瀬は英司に向かって駆け出した。英司は素早く後ろに飛び退くと、神力波を放ってけん制する。七瀬はそれをステップしながらかわし、一気に英司に肉薄した。


「待っ―――」

「……待てない」


 七瀬の拳が英司の顔面に直撃した。いつの間にか腕に巻かれていたバンドに施された呪法が、七瀬が幽霊に限りなく近い荒霊に触れる事を可能にしたのである。容赦なく放たれたその拳は、英司の顔面を深く陥没させて吹っ飛ばした。そのままきりもみして地面に叩きつけられた英司は、しばらく地面をこすりながら滑っていく。

 そんな英司を放置して、七瀬はすぐに傍に倒れていた守哉に駆け寄った。


「……かみや!かみや、大丈夫!?」


 ゆさゆさと揺さぶられて、守哉は目を開けた。ふらつく頭を押さえながら、ゆっくりと身体を起こす。


「七瀬……なんでここに」

「……酷い怪我……!早く治療しないと!」

「ああ……それなら、大丈夫だ」


 守哉は目を瞑ると、意識を後頭部に集中させた。すると、後頭部の傷から煙が発し、少しずつ癒えていく。治癒の言魂だった。


「ほら、な」

「……よかった」


 ほっと七瀬は胸を撫で下ろした。守哉は小さく微笑むと、七瀬の頭を優しく撫でた。七瀬は気持ちよさげに目を細めながら、されるがままになる。

 そこで、守哉は我に返って気づいた。完全に荒霊と優衣子の事を失念していた。


「そうだ、荒霊は……」


 立ち上がって周囲を見渡す。少し離れたところに優衣子が気を失って倒れており、他には誰も居なかった。


「あれ……?」

「……英司さんなら、わたしが倒したよ」

「英司さん?それって誰?」

「……ここにいた荒霊。優衣子さん、操られてたみたいだったけど……」

「なるへそ。つまり、七瀬が助けてくれたってわけか」

「……ま、まぁ……そうなる、かな」

「そっか……サンキュ。おかげで助かったよ」

「……え、えへへ……」


 七瀬は照れくさそうに俯いた。そこで守哉は藤丸の事を失念していた事に気づいた。


「そうだ、七瀬。猫見なかったか?三毛猫」

「……三毛猫?……ううん、見なかったよ」

「おかしいな。さっきまで一緒に戦ってたはずなんだけど」

「……一緒にって……猫と?」

「ああ。まぁ、和魂なんだけど」

「……和魂……。お友達になったの?」

「まぁな。そうだ、今度紹介してやるよ」

「……うん。楽しみにしてるね」


 七瀬に微笑みかけた後、守哉は倒れている優衣子の傍に寄ると、何度か頬を突いた。まったく起きる気配がない事を確認し、七瀬に手伝ってもらっておんぶした。


「……これからどうするの?」

「とりあえず、ババアのところに行こう。事情を説明して、解決策を練るんだ」

「……解決策って、なんの?」

「それは……その、色々だよ。とにかく、トヨバアんとこへ行くぞ」

「……でも、今おばあちゃんお出かけしてるよ」

「は?なんでだよ、こんな時間に」

「……行方不明者が出たとかで、島民会の人に呼ばれたの。それで、調査に行ってるみたい」

「マジかよ……。まぁ、それなら帰ってくるのを待てばいいか」

「……それもそうだね。じゃあ、行こう」


 かくして、気絶した優衣子を担いだ守哉は、七瀬と一緒に神代家へと急いだ。



 ☆ ☆ ☆



 神代家に着くと、守哉は客間に優衣子を寝かせてトヨが帰ってくるのを待つ事にした。


 隣には七瀬もいる。七美はお風呂に入っているようだった。

 しばらくすると、トヨが帰ってきた。すぐに七瀬が呼びに行くと、どすどすとした足音と共にトヨが客間に入ってきた。


「よう、ババア」

「これはどういう事じゃ」


 布団の上で気を失っている優衣子を見てトヨが言った。守哉は軽くトヨに事情を説明すると、トヨは渋い顔をして押し黙った。


「おい、どうしたんだよ」

「英司、か。よもや、僅か一晩でこんな事になっているとはのう」

「英司って誰だよ」

「どうしたもんかのう……」

「だから英司って誰だよ!」


 トヨが守哉の質問を完全に無視するので、代わりに七瀬が答えてくれた。


「……藤原英司さんは、優衣子さんの旦那さんだよ。九十七代目の神和ぎで、3年前に亡くなられたんだけど……」

「藤原さんって結婚してたのかよ……」

「……知らなかったの?」

「ああ。つか、藤原さんって神和ぎだろ?」

「……うん。英司さんが亡くなって、次に無差別に選ばれたのが優衣子さんだったんだけど……それも知らなかったの?」

「まぁな。……そういえば俺、あの人の事なんにも知らねぇんだよなぁ」


 守哉が頭をぽりぽりとかきながら言うと、不意にトヨが呟いた。


「今回の事は、不可解な事が多いのう。英司といい、行方不明者といい……」

「どういう事だ?いい加減、説明しろよ」


 トヨは守哉を一瞥すると、仕方なさそうに言った。


「ふん。お前に話してどうなるわけもないがの……まぁいい、話してやろう。……今回の事件は不可解な事が多いんじゃ」

「それは今言っただろ」

「やかましい。とにかく、不可解な事が多い。第一に、英司じゃ。七瀬の話から察するに、ヤツは荒霊……それも、かなりたちの悪い荒霊のようじゃ」

「荒霊なんてどれも似たようなもんじゃねぇの?」

「違うわい。荒霊の能力は、生前に内包しておった神力によるところが大きい。特にヤツは、死因が死因じゃったからの……かなり厄介な能力を備えておるようじゃ」

「死因、ね。どんな死因なんだ?」


 そこでトヨはしかめっ面をした。


「お前さんは……まぁ、説教はやめておくかのう。ともかく、英司はの……神さびに殺されたんじゃ」

「神さびに?え……って事は、つまり……」

「そう。神さびと化した。そして、殺された」

「誰が……」

「わしじゃ」


 守哉は、げんなりとして言った。


「またあんたかよ」

「またとはなんじゃ、またとは。……ともかく、英司は死んだ。3年前にのう」

「でも、3年前に死んだ人間でも後々荒魂になったりするもんなのか?」

「荒霊になるのに時間は関係せんのじゃ。死んだ者が内包していた神力、そして現世への強い執着心が荒霊を生み出す糧となる。ただ、死んだ者が内包していた神力が強ければ強いほど、顕現するのに時間がかかるがのう」

「て事は、その英司って人は相当強いんじゃねぇか?3年もかかったんだろ?」

「そうとも限らん。荒霊の能力は、多くの場合その能力によるところが大きいからのう」


 守哉は優衣子との戦闘を思い出した。しかし、あれは優衣子の力であって、英司の能力ではない気がした。神力波くらいだろうか、英司の能力は。


「じゃが、英司の能力は厄介じゃ。七瀬の話から察するに、やつの能力は魅了……他者を操る能力のようじゃからのう」

「魅了?」

「うむ。その能力自体はそこまで希少なものではないが……その強さが異常じゃ。なにせ、この女を操るぐらいじゃからのう」


 優衣子を憎たらしげに見ながらトヨは言った。


「どういう事だ?」

「魅了の力で他者を操る場合、まず操る対象の精神に自分の精神が打ち勝たなければならんのじゃ。つまり、強い者を操ろうとすればするほど自分の精神に負担がかかる。ましてや、その相手が神和ぎもどきともなると、精神にかかる負担は相当なものじゃろうな。それに応じて消費する神力も莫大なものになるしのう」

「つまり、英司って荒霊は精神的にも神力的にも凄いって事か?」

「そういう事じゃ。能力以前に厄介な相手じゃな。ヤツを倒すには、言魂だけでは足りんかもしれん」

「倒すって……荒魂って鎮めるもんじゃねぇの?」

「鎮めずとも、言魂や魔刃剣を行使して、荒霊を構成する神力を削り取れば、消滅させる事はできるんじゃ」

「強引だなぁ」

「強引でもなんでも、そうせんと悪さをするからのう。大体、いちいち荒霊の渇望なぞ聞いてられんわい」


 守哉は呆れ顔でトヨを見つめた。適当というか、なんというか……どうも、この婆さんは七瀬の事以外にはまったく関心がないように思える。


「ともかく、不可解な事はまだある。行方不明者の事じゃ」

「行方不明者ねぇ」

「恐らく、英司が魅了の力で操ったんじゃろうが……その行方がまったくわからん。目撃証言がまったくないんじゃ」

「つっても、この島で隠れられる場所なんてそんなにないんじゃないか?」

「そうでもないぞい。鎮守の森に入られたら追いかけようもないしの。じゃが、確かに英司がわしらに悪意を持って行動しておるとするならば、その支配下にある行方不明者達の隠れ場所も限られてくるじゃろうて」

「ふーん。で、他に不可解な事は?」

「他は……まぁ、色々じゃ。ともかく、これからわしは作戦を練る。お前はこの女を連れて帰れ。それと、お前がこの件に関わる必要はないからの」


 トヨのその態度に、さすがに守哉も黙ってはいられなかった。


「ふざけんな!こちとら身内が操られたんだぞ!?このまま放置してられるか!」

「放置ではない。わしが解決してやると言っておるんじゃ」

「他人にまかせっきりなんて俺はイヤだね。俺は神和ぎとして、この事件を解決するために動くぜ」

「ふん。いっちょまえに神和ぎなぞとほざきおって……。未だに一匹しか神さびを倒しておらんお前が何を言うか」

「それでも、戦力にはなるはずだぜ?敵は魅了の力で戦力を増やしてるんだ、味方は多い方がいいだろ」


 トヨは半目で守哉を一瞥して告げた。


「お前なんぞ邪魔になるだけじゃ」

「そんなの、やってみなきゃわかんねぇだろ!」

「わかるわい。この前の神さび戦で十分にわかった」

「あの時とは違う!今の俺はあの時よりずっと強くなった!」

「ほう。どう強くなったんじゃ?言ってみい」

「少なくとも、あんたに勝てるくらいは強くなったぜ」


 トヨはふん、と鼻を鳴らした。


「あんなの、偶然にすぎん。ともかく、お前は帰るんじゃ。いいな」

「んな―――」


 守哉がなおも言い寄ろうとすると、七瀬がすっと前に出て言った。


「……おばあちゃん。かみやを一人にするのは危険だよ。かみやは英司さんに一度襲われてるんだから」

「そこの女もおるじゃろう。一人じゃないわい」

「……優衣子さんはもしかしたらまだ英司さんの力が抜けてないかもしれない。ここで見張っておいた方がいいと思うの」

「しかしの……」

「……それに、魔刃剣を使える人間は多いに越した事はないよ。もしかしたら、この事件長引くかもしれないんでしょう?」

「それもそうじゃが……」

「……わたしもかみやがいれば心強いし、なによりわたしも魔刃剣が使えるようになるもの。ね、いいでしょう?」

「うーむ……そこまで言うなら仕方ないのう」


 トヨはやれやれと首を振ると、守哉を睨みつけて言った。


「仕方がないからこの家に居る事とこの件に関わる事を認めてやるが……変な気を起こすでないぞ?」

「わかってるよ」


 トヨも孫には弱いらしい。今度からトヨに頼み事をする時は七瀬を通した方がいいかもしれない。


「……良かったね、かみや」

「そうだな……。まぁ、やっとこれからだって感じだけどな」


 現れた荒霊、行方不明者……そして、未だに目を覚まさない優衣子。果たして、これからどうなるのか……


 守哉は胸中の嫌な予感をぬぐえずにいた。

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