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かみかみ  作者: 明日駆
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第18話 “決別”

 守哉が神代家のインターホンを押すと、七瀬ではなくトヨが出てきた。

 いつも通り眉間にしわをよせて守哉を睨むと、トヨは首だけ動かして上がれ、と告げてきた。


「七瀬は?」

「準備をしておる。客間で待っとれ」


 守哉の質問に簡潔に答えると、トヨはさっさとどこかへ行ってしまった。

 いつもと違う展開に不審に思い、後を追おうかと思ったが、思い止まって客間へ向かう。

 客間に入り、押入れから座布団を一枚引っ張り出す。いつも七瀬が引っ張り出していたので、場所を覚えていたのだ。

 座布団の上に座ってしばらく待っていると、トヨが七瀬を連れて現れた。七瀬は一段と暗い顔をしていた。


「今日の訓練は七瀬と行う」


 トヨの言葉に、一瞬守哉は耳を疑った。


「庭園に出ろ、百代目」


 そう言うと、トヨは客間の庭園に面した障子を開き、縁側に腰掛けた。七瀬は庭園に降り、白い砂利の上を歩いていく。

 突然の事に理解できない守哉は、トヨに詰め寄った。


「お、おい、どういう事だよ!七瀬と行うって……」

「言葉の通りじゃ。早くしろ」


 守哉を見もせずに答えるトヨに、守哉は思わず掴みかかった。


「ふざけんな!!わけわかんねぇよ、説明しろ!!」

「お前は黙って七瀬と戦えばよい。早くせんか」

「イヤだ!!突然そんな事言われて、黙って従えるか!!」


 激昂する守哉を、トヨは冷ややかに見つめた。


「わしとは戦えても、七瀬とは戦えんというのか」

「テメェは神和ぎもどきだからだろうが!!七瀬は違うだろ!!」


 その言葉に、トヨは不敵な笑みを浮かべた。守哉の手を振りほどくと、静かに身体強化の言魂を発動する。


「七瀬を舐めるな。わしがこの子に叩き込んだ技の数々は、今ではこのわしをも越えておる。戦えばわかるじゃろうて、この子の強さがな」


 そう言うと、トヨは守哉の懐に一瞬で踏み込み、襟首を掴んで庭園に投げ飛ばした。白い砂利の上に転がった守哉は、すぐに立ち上がってトヨに掴みかかろうとしたが、七瀬に後ろから羽交い絞めにされて思い止まった。驚いて振り向くと、七瀬は今にも泣きそうな顔で守哉を睨みつけていた。


「……おばあちゃんを、いじめないで」


 か細い声で七瀬は言った。その言葉に、守哉は思わず七瀬を睨んでしまう。


「お前はそれでいいのかよ?俺と戦えって言われて、お前は納得してるのかよ!?」


 責めるような口調になってしまう守哉。七瀬は静かに守哉を離すと、距離をとって言った。


「……おばあちゃんの言う事は、絶対だから」


 七瀬の顔から感情が消える。凍てついた視線が守哉を釘づけにした。

 その様子を見て、トヨは告げた。


「これは訓練じゃ。命を奪い合うわけではない。両者とも、全力を尽くして戦うのじゃ」

「ちょっとま……」

「始め」


 守哉の台詞は途中で途切れた。トヨの合図と同時に、七瀬が後ろを向いた守哉の頭部に強烈な回し蹴りを叩き込んできたからだ。

 衝撃に流されるまま、白い砂利の上に転がる守哉。追い討ちをかけるように、七瀬の蹴りが守哉の背中を襲う。サッカーボールを蹴るような動作で放たれたその蹴りを、守哉は両手を交差させて受け止めた。


「ぐぅっ……!」


 予想以上の蹴りの重みで、うめき声を上げる。蹴りの衝撃を逃がすために砂利を転がり、瞬時に立ち上がり身体強化の言魂を発動する。

 対峙する七瀬は、静かに守哉を見つめていた。


「お前がその気なら……!」


 守哉はそう呟くと、七瀬に向かって駆け出した。言魂によって強化された守哉の脚力が、砂利を踏み抜いてその下の地面をえぐる。

 対する七瀬に動きはない。守哉はそのまま七瀬の懐に飛び込むと、みぞおち目掛けて掌底を叩き込もうとした。

 瞬間、守哉の視界が反転した。


「なっ…!?」


 突然さかさまになった視界に、守哉の頭が混乱する。いつの間にか七瀬の姿はなかった。次の瞬間、強烈な衝撃が守哉の腹に叩き込まれた。肺の中の空気が搾り出され、再び守哉の身体が砂利の上に転がる。

 痛みをこらえて守哉が立ち上がると、目の前に七瀬の顔が現れた。驚いて後ずさりする守哉を、容赦ないアッパーが襲う。


「がっ……!!」


 息ができない。咳き込む暇もないまま放たれた一撃が守哉の身体を傾かせる。地面に倒れこむ瞬間、守哉の眉間にかかと落としが炸裂した。地面に叩きつけられた守哉の意識が一瞬遠のくが、すんでのところで気を持ち直す。


「っがはっ!!げほっげほっ……!!」


 身体を丸めて激しく咳き込む守哉を、七瀬が片手で掴んで持ち上げた。目尻に涙を浮かべて七瀬を見つめる。七瀬はどこまでも冷たい目で守哉を見つめ返していた。


「おまっ……」


 守哉が何かを言う前に、七瀬は守哉を投げ飛ばした。綺麗な曲線を描いて守哉の身体が池の中に落下する。


(こいつ……ババアより速い!!)


 勢いよく飛び退いて水の中から脱出する守哉。荒い息をしながら庭園に佇む七瀬を見つめる。

 手加減などしている暇はない。どう考えても、七瀬は自分を圧倒する力の持ち主だ。

 一瞬守哉の頭にイメージがよぎる。七瀬の周囲の石ころが七瀬に襲い掛かるイメージ。それを言魂として発声しようとして―――守哉は躊躇した。


(バカか俺は!相手は七瀬だぞ!?言魂なんて……!)


 躊躇した守哉に、足元から凄まじい勢いで生えた鉄板が襲い掛かった。空中に投げ出された守哉の身体は、そのまま重力に引かれて地面に叩きつけられた。


 衝撃で意識が遠のく。気を失う瞬間、七瀬が今にも泣き出しそうな顔をしているのが見えた。



 ☆ ☆ ☆



 自分に守哉を心配する資格はない―――


 気を失った守哉を遠くから見つめて、七瀬は思った。

 ボロボロになった守哉を見て、泣いてしまいそうになるのをぐっと堪える。守哉を痛めつけたのは他ならぬ自分なのだ。たとえ、それが敬愛する祖母からの命令だとしても、実行したのは自分なのだ。

 守哉は、自分に優しくしてくれたのに。自分のつまらない長話にいつも最後までつき合ってくれた人なのに。

 どうして、こんな事になってしまったのだろう。


「ようやった、七瀬」


 満足げな顔でトヨが言った。


「まぁ、当然の結果じゃがな。ここまで育てた甲斐があったというものじゃ」


 トヨはそう言うと、立ち上がって家の中へ入っていこうとした。それを見計らい、七瀬は倒れた守哉に近づこうと駆け出す。

 それを察したのか、トヨは振り返って怒鳴った。


「何をしておる!!」


 その声に身をすくませ立ち止まる七瀬。恐る恐る、トヨの方へ顔を向ける。


「そやつを介抱する必要はない。保護者を呼ぶから、それまで放っておけ」

「……でも……」

「お前は夕食の支度をしろ。二人分じゃ。わしとお前でな。間違ってもそやつの分まで作るでないぞ」


 トヨはそう言うと、七瀬を睨みつけた。七瀬は、無駄と知りつつも弱弱しく反論する。


「……せめて、応急処置だけでも」

「治癒の言魂がある。その方が早いわい」

「……で、でも……」

「お前が百代目に入れ込んでおるのは知っておる。じゃが、今日限りで百代目の事は忘れろ。よいな」


 忘れられるわけがない。七瀬は、顔をうつむかせて黙り込んだ。

 その態度を見たトヨは、不愉快そうに顔を歪めて怒鳴った。


「返事をせんか!!」


 びくっと身体をすくませる七瀬。目尻に涙を浮かべて、七瀬は答えた。


「……はい」

「それでよい。今後、百代目と関わる事を禁じる。話しかけられても無視しろ。百代目がこの家を出入りするのも今日限りじゃからな、百代目が今後この家を訪ねてきても決して中に入れるでないぞ」


 そう言うと、トヨは家の奥へ消えた。


 残された七瀬は、目を覚まさない守哉を見つめた。

 祖母の命令は絶対だ。今後、守哉の事を無視しなければならない。

 七瀬にとって、守哉は唯一の友達だった。幼い頃から他人となるべく関わらないように、と教えられてきた七瀬は、友達と呼べる存在が一人もいなかった。それでも、家族がたくさんいたからつまらなくはなかった。3年前の、あの日までは。

 3年前にいなくなった両親は、未だに帰ってこない。他の姉妹達は皆出て行ってしまった。理由はよくわからない。というか、七瀬は3年前から以前の記憶が曖昧だった。何か、大切な事を忘れているような気がしてならない。

 とにかく、長い間独りだった七瀬にとって、守哉の存在は大きかった。人生で初めての友達。優しくて、とても綺麗な顔立ちの男の子。守哉が傍にいると、胸が暖かくなった。なぜかはわからない。きっと、これが友情という感情なのだろうと、七瀬は思っていた。

 なのに、もう守哉と話せない。


「……かみや」


 涙声で七瀬は呟いた。もう、呼ぶ事もないであろうその名を。

 恐らく、トヨは自分が守哉と戦って勝利した事を天照大神に報告し、継承の儀を行うよう交渉するつもりなのだろう。トヨは極端に守哉の事を嫌っていたので、守哉が神和ぎでなくなれば島からの退去を命じる可能性もある。

 最後の別れになるかもしれない。そう思うと、七瀬は守哉から目が離せなかった。

 なぜ、勝ってしまったのだろう。守哉は最後まで自分と戦うのを躊躇していたように感じる。あまりにもあっけなく終わってしまったのは、守哉が手加減していたからかもしれない。そう思うと、酷く胸が痛んだ。


「……負ければよかった」


 小さな呟きは誰の耳に入る事なく消えてゆく。

 自分は惨めだと、七瀬は思った。



 ☆ ☆ ☆



『何よババア』


 電話の主は不機嫌そうな声で言った。それもそのはず、電話の主―――藤原優衣子は、自分の事を嫌っているのだ。トヨは、不快そうに顔を歪めた。

 トヨと優衣子は仲が悪い。最初はトヨが一方的に優衣子を嫌っていたのだが、過去のある事件が切欠で優衣子もトヨを嫌いになった。

 そんなわけで、トヨとしても優衣子と長く話すのはとても不愉快だったので、手短に用件だけ話す事にした。


「お前さんとこの小僧を引取りに来い。今すぐにじゃ」

『なんでよ』

「お前が小僧の保護者だからじゃ。子供の面倒を見るのが保護者の仕事じゃろうが」

『違うわよ。私が聞いてるのは、なんで私が未鏡君を迎えに行かなきゃいけないのかって事』

「小僧は今、気を失っておる」

『だったら起こせばいいでしょ。大体、まだ逢う魔ヶ時よ。訓練中のはずでしょ』

「わしはあの小僧をこれ以上育てる気はない。そして、今後あの小僧と関わる事もない」

『あんたは神和ぎの育成を任されたんじゃなかったの』

「あやつは神和ぎではなくなる。今日限りでな」

『どういう事よ。未鏡君はまだノルマを達成してないはずよ』


 話を長引かせようとする優衣子に、トヨは苛立ちを覚えた。ふん、と鼻を鳴らすと、トヨは仕方なく話を続ける。


「天照大神を説得する。継承の儀を行うようにな」

『無駄な事を』

「無駄ではない。あの小僧の無能さは先ほど証明された。いくら天照大神があの小僧を気に入っていても、あの結果では納得するじゃろうて」

『何をしたの』


 優衣子の声が低くなった。その声には怒りが混じっている。


「お前が知る必要はないわ。とにかく、お前はただ迎えに来ればいいだけの事」

『相変わらず横暴ね』

「相手がお前じゃからな」

『何となく、あんたが何をしたのかはわかるわ。そんなに自慢の孫を神和ぎにしたいわけ?』

「わかっとるならさっさと来んか」

『わかってるわよ。でもね、ババア。あんたが思ってるほど未鏡君は無能じゃないわよ』

「いいや、小僧は無能じゃ。今日それが、はっきりとわかった」

『無能に無能って言われたら、未鏡君が可哀想だわ』


 その言葉に、トヨは完全にキレた。


「もう一度言ってみろ、女狐が」

『私、同じ事を何度も言うのは嫌いなの。じゃあね』


 そう言うと、電話は向こうから切られた。ツー、ツー、と断続的な音が受話器から聞こえてくる。


「女狐が」


 そう呟くと、トヨは力任せに受話器を叩きつけた。



 ☆ ☆ ☆



 守哉が目を覚ますと、そこには夕焼け空が広がっていた。

 

 妙に身体が仰け反っている。どうやら、寝かされている場所が円状になっているようだ。触ってみると、表面がざらざらしている。不審に思って上半身を起こしてみると、隣に腰掛けている人間がいる事に気が付いた。その人物は、守哉が身体を起こしたのを察したのか、振り向いて言った。


「あら、ようやく気がついたのね」


 優衣子だった。なぜ、優衣子がこんなところにいるのだろう。守哉はぼんやりとした頭で思い出そうとしたが、何も思い出せなかった。思い出せたのは、自分が七瀬に負けて気を失ったという事だけだ。

 そんな守哉の様子から何かを察したのか、優衣子は事の次第を説明してくれた。


「連絡を受けて迎えに来てあげたのよ。感謝しなさいよ、まったく」


 ふと、守哉は思った。日が暮れていないという事は、まだ逢う魔ヶ時のはずだ。なのに何故、自分はトヨに起こされなかったのか。今日の訓練はどうなったのだろう。


「なあ、まだ逢う魔ヶ時だよな。なんであんたが迎えに来るんだよ」

「ババアがね、あんたの事、見限ったのよ。クビにするんだって」


 事も無げに優衣子はそう言った。


「クビって……俺、まだノルマ達成してないんだけど」

「天照大神にお願いするんだって。百代目は無能だから、代わりに自分が丹精込めて育てた孫を神和ぎにしてくださいって」

「ありゃま。俺はお役ごめんってわけかよ」

「あら。あんまり残念そうじゃないわね」

「別に、神和ぎもどきになるだけだし。つか、さっきから気になってたんだけど、これなんだよ」


 自分が乗せられているものを指差して守哉は言った。よく見たら、亀の甲羅のように見える。

 というか、亀だった。


「亀よ。私のお友達」

「亀って……デカすぎだろ、これ」

「いいでしょ、別に。このぐらいの大きさじゃないと運べなかったのよ」

「どういう事だ?」

「言葉通りの意味よ。まぁ、気にしないでちょうだい」


 なんとなく、守哉は納得した。これ以上優衣子も教えてくれなさそうだし、そもそもどうでもいい事だったからだった。それに、この島の不思議にいちいち突っ込みを入れていてはきりがない。それ以上何かを言う事なく、ぼんやりと夕焼け空を見上げる。

 亀の歩みはとても遅かった。降りて歩いた方が早いと思ったが、意外と乗り心地は悪くなかったので言わない事にした。

 しばらくして、守哉は空を見上げながらぽつりと呟いた。 


「なんで、あいつ、俺と戦ったのかな」


 あいつとは、七瀬の事だった。躊躇なく、自分をボコボコにした七瀬。七瀬があれほど強いのも意外だったが、それ以上にあれほどトヨに従順なのが気になった。


「七瀬ちゃんの事?」


 優衣子が空を見上げながら言った。


「うん。七瀬のヤツ、すげぇ強くて驚いたけどさ。それ以上に、俺と戦うのに躊躇しなかったのが気になって。訓練だからかもしれないけどさ……」


 守哉は、そう言ってうつむいた。少し寂しそうな声で呟く。


「あいつ、俺の事、嫌いだったのかな」


 言ってから、守哉は酷く悲しくなった。数少ない自分に優しくしてくれた七瀬は、この島で敵の多い守哉にとって心のオアシスのようなものだったのだ。

 くすっ、と優衣子は小さく笑うと、優しい声で言った。


「そんな事ないわよ。きっと、本当は戦いたくなんてなかったと思うわよ」

「そうかな」

「そうよ。でも、あの子はババアに逆らえないからね。仕方なかったのよ」


 そうかもしれない、と守哉は思った。七瀬は優しい子だ。とても、優しい女の子なのだ。

 しかし、守哉には気になる事があった。


「なあ、なんで七瀬はババアに逆らえないんだ?確かにババアは厳しいけど、逆らえないってほどじゃないだろ」

「あなたと違って七瀬ちゃんは気が弱いのよ。仕方ないでしょ」

「いや、確かにそれはそうかもしれないけどさ。それ以上に、何か引っかかるものを感じたんだ」


 七瀬は、何の感情も浮かべずに、トヨの言う事は絶対だと言ったのだ。それはまるで、トヨに洗脳されているかのようだった。


「いくらなんでも、従順すぎる気がしてさ。普段は、前は後で言って聞かせるとか言ってたくらいだったのに、今日は様子がおかしかった。いや、最近七瀬はずっと様子がおかしかった」

「そう」

「何か知らないか?」

「私が知るわけないでしょ。一日中寮で働いてるんだから」


 いや、カウンターで突っ伏して寝るのは働いてるとは言わないだろ、と守哉は思った。


「でも、七瀬ちゃんがババアに逆らえないのは、3年前のあれが原因でしょうね」

「七美さんも同じ事言ってたな。何があったんだ?」

「あら、七美ちゃんと知り合いだったの。七美ちゃんに詳しく聞かなかったの?」

「いきなり怒り出したから聞けなかったんだよ」

「まぁ、あの子怒りんぼだからね」

「だから教えてくれよ。些細な事でもいいんだ。頼む」


 優衣子は横目で守哉を見ると、冷たい声で言った。


「聞いてどうするの?」

「どうするって……」

「聞いたところで、何も解決しないわよ。それに、あなた島から追い出されるかもしれないんだから、他人の事気にしてる場合じゃないのよ」

「どういう事だよ」

「言葉通りの意味よ。もしババアの頼みを天照大神が聞き入れれば、あなたは用済みになるのだから」

「俺が神和ぎもどきでもか?」

「そうよ」


 守哉は黙り込んで考えた。よくわからないが、どうやら自分はこの島に住んでいられる権利を失いかけているらしい。しかし、この島を追い出されても自分に行き場所はない。できればこの島に残りたいが、自分がどんなに願っても一度決まった事はくつがえせないだろう。

 ならば、後味悪くならないようにするだけだ。


「決めた」


 守哉は顔を上げて、はっきりと言った。


「何をよ」

「俺、島を追い出される前に、七瀬の元気な顔を見たい。だから、七瀬の事を教えてくれ」


 優衣子は呆れ顔になって守哉に言った。


「だから、聞いてどうするのよ」

「決まってる。七瀬に暗い顔をさせてる原因を突き止めて、それを取り除くんだ」

「何度も同じ事言わせないで。あなたは他人の事心配してる暇ないのよ」

「島外退去が命じられようが知るか。どうせなら、島を追い出される前に七瀬の笑顔を見たいんだよ」

「あなた、七瀬ちゃんに惚れてたわけ?」

「別に、そうじゃないけど。でも、七瀬は俺にとって妹みたいなもんだ。妹の笑顔を見ずに別れるのはごめんだ」


 優衣子は、守哉が本気である事を悟ると、大きなため息をついた。


「だったら好きにしなさい。私は知らないわよ」

「そう言わずに、3年前の事を教えてくれよ」

「イヤよ、面倒くさい。知りたければ七美ちゃんに聞きなさい」

「なんだよ、ババアに俺の質問には答えるよう言われたんじゃなかったのか?」

「今日のババアの態度で気が変わったの。大体、私が知ってるのはほんの一部なの。だったら、全部知ってる七美ちゃんに聞いた方が早いわ」

「うーん……そうまで言うなら、そうするかな。だったら、七美さんの住んでるとこを教えてくれよ。聞きに行くから」

「知るわけないでしょ。学校前の坂で待っとけばそのうち会えるわよ」


 優衣子はそっけなく言うと、亀から飛び降りた。いつの間にか、寮の前まで来ていたのだ。


「んじゃ、明日から坂で待ち伏せだな」


 言いながら亀を降りる。亀の甲羅を撫でながら運んでくれた礼を言うと、突然亀は光に包まれて姿を消した。不思議に思い優衣子に尋ねようとしたが、優衣子は既に寮の中に入ってしまっていた。守哉も寮に入るが、ロビーに優衣子の姿はない。どうやら、管理人室に入ってしまったらしい。仕方なく、守哉は自室に戻る事にした。

 守哉が階段の一段目に足をかけた時、管理人室から優衣子の声が聞こえてきた。


「ババアから伝言よー。明日から訓練には来なくていいってさー」


 どうやら完全にお役ごめんのようである。守哉は複雑な気分で自室に戻ると、畳の上に寝転がって呟いた。


「明日から、頑張るとすっか」


 なんだかすっきりとした気分だった。神和ぎである事の重みがとれて、自由になった感じだった。

 明日は学校は休みである。七美に会えるかどうかはわからないが、何もしないよりはマシだ。


 でも、その前に風呂に入って身体をすっきりさせてこようと、守哉は思った。

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