第8話 “荒ぶる魂、鎮める魂”
神代家を出た守哉は、学校を目指して歩いていた。
とはいっても、神代家は学校のすぐ隣なので、1分もかからずに到着する。守哉としてはもう少し時間を稼ぎたいところだったが、諦めて向かう事にした。
学校の門をくぐり、運動場を前にして立ち止まる。完全下校時刻をとっくに過ぎているために、学校には人の気配はなかった。守哉は、一人グラウンドで待ち人が来るのを待った。
守哉がわざわざこんな事をしているのは、女の子―――荒霊との決着を着けるためだった。
守哉は、荒霊が幽霊に近い存在だと知った。また、未練があるとも。それはつまり、思考する知能を残しているとも考えられる。そうでなければ、鎮める事などできないだろう。
守哉は荒霊を鎮めるために、ある作戦を立てていた。荒霊がこの島の人間で、知性を持つ存在であるならば、神和ぎの力の事は知っているだろう。当然、逢う魔ヶ時に神和ぎの力が増す事も知っているはずだ。ならば、逢う魔ヶ時に襲い掛かってくる事はないだろう。逢う魔ヶ時に襲い掛かれば、それは自殺行為に近い。
そこで守哉は、逢う魔ヶ時が極めて近い時間帯に、一人になる事にしたのだ。そうすれば、万が一戦闘に入ったとしても、荒霊は逢う魔ヶ時になる前に目的を果たさなければならなくなる。つまり、制限時間を設ける事にしたのだ。
この作戦には色々と欠点があったが、守哉は実行に移す事にした。そもそも逢う魔ヶ時が近いのに現れてくれるのか、そこが疑問だったが、もし現れなければさっさと逃げる予定だった。当然ながら、時間が余ったからといってトヨの特訓に付き合う気はない。というか、昨日はその特訓が終わって疲れ果てた時を襲われたのだ。何度もそんな事をされてはたまらない。
そんなわけで、しばし待つ事数分―――
「……来たな」
守哉の真横、10mほど先に、女の子の姿をした荒霊が出現した。
両者の視線が交差する。守哉は、女の子が攻撃態勢に入る前に話しかける事にした。戦うために作戦を立てたわけではないのだ。
「俺は、未鏡守哉。よかったら、君の名前を教えて欲しい」
女の子は答えない。いや、そもそも喋る事ができるのだろうか。
守哉はさらに問いかけた。
「教えたくないなら言わなくていい。俺の質問に答えてくれないか。……君は、何故俺の前に現れる?何故、俺の命を狙う」
やはり沈黙を保つ女の子。守哉の中で、焦りが生まれる。焦りを含む声で守哉は言った。
「俺は神和ぎだ。君のような荒霊を、鎮める役目を背負ってる。君の未練とは何だ?君の未練と、俺を狙う事にどんな関係があるんだ」
女の子の答えを待つ守哉。永遠のような数秒が過ぎて―――女の子は、一言、呟いた。
「―――黒髪ノ、神和ギ」
「え?―――ッ!!!」
守哉は間の抜けた声を出した。そして、次の瞬間―――見えない力に、吹っ飛ばされる。
ごろごろと横向きに転がって衝撃を殺す。素早く立ち上がると、女の子が片手を振り上げるのが見えた。
「なんなんだよっ!!!」
悪態をついてその場から飛び退く。一瞬前居た空間に衝撃波が出現し、運動場の地面を抉る。
守哉が体勢を立て直すと、女の子は振り上げた手を下げ、もう片方の手を振り上げた。その動作を目で追いながら、守哉は大きくステップを踏んでかわす。
「お願いだ、俺の話を聞いてくれ!!」
守哉の叫びが運動場に木霊する。女の子は聞く耳持たず、両手の上げ下げを繰り返した。その速度は少しずつ速くなっていく。
女の子の攻撃は、発動前に必ず片手を対象空間に向けなければならないため、見切りやすい。さらに言うなら、衝撃波がくる場所は限定されているため、女の子の手の動きとタイミングを掴めばまず当たらない。
しかし、守哉の右足には後遺症がある。ステップを踏む度に守哉の顔が苦痛で歪んだ。
「くっそ!何でこんな場所選んじまったんだか!」
早速作戦にボロが出た。運動場には遮蔽物が一切無いのだ。守哉は衝撃波で島の建物が破壊される事を避けるためにこの場所を選んだのだが、建物を心配する前に自分の心配をしていなかった。
防戦一方だった守哉は、一度大きく飛び退いて衝撃波を回避すると、そこで攻撃に転じた。
腕を封じれば攻撃できないはず、と考えた苦肉の策。敵の動きを止めるためのイメージ。
「―――砂よ!!」
守哉の声に呼応して、運動場の砂が舞い上がり、その両腕にまとわりついた。さらに砂は凝固して腕の動きを完全に封じる。凝固した砂は地面と繋がっており、女の子はその場で動けなくなった。
「これで、攻撃できないだろ。さあ、俺の話を……っ!!」
守哉の台詞は、激しい頭痛に襲われた事で途中で途切れた。同時に女の子を戒めていた砂も元に戻り、地面へ落ちる。
にやり、と女の子は口の端を吊り上げた。女の子の両腕が同時に動く。
「くそっ!!」
その動きを見て、悪態をつきながら守哉はその場から飛び退いた。しかし、衝撃波は来ない。よく見てみれば、女の子は両腕を真横に広げていた。女の子を横から挟むようにクレーターが出来上がっている。そして、女の子は横に広げた両腕を守哉へ向けた。
今までと違うパターンに、一瞬守哉の動きが止まる。そこへ、両脇から凄まじい圧力が襲い掛かった。
「ぐっ……!!」
顔をしかめてうめく守哉。女の子の両腕が一旦降ろされ、今度は下から振り上げられた。
一瞬両脇からかけられていた圧力が消えるが、守哉はよろけて膝をついてしまう。次の攻撃を避けられないと悟った守哉は、攻撃を避けるためにイメージした。しかし、発声が間に合わない。
守哉は見えない力に吹っ飛ばされた。今までで一番強い。吹き飛ばされる守哉に、さらに上から衝撃波が襲い掛かった。空中にいた守哉の身体が地面に叩きつけられる。
衝撃で意識が遠のく。しかし、意識を失う暇もなく、守哉を上から衝撃波が襲い掛かった。見えない力で押し潰される。そして、次の瞬間―――守哉を、凄まじい衝撃が襲った。
「あっ……がッ……!!」
全身の骨にヒビが入ったのがわかる。守哉は理解した。この攻撃は二段構えだったのだ。一度目の衝撃波は前菜に過ぎず、時間差でより強力な衝撃波が襲い掛かる。えらく回りくどい攻撃だったが、確かに強力だ。コンクリートの屋根を抉るだけはある。
激痛で身動きがとれず、思考が混濁している。うめき声一つあげられなかった。そんな守哉を見て、女の子は満面の笑みを浮かべて近づいてくる。
守哉の目の前で女の子は止まると、何かを呟いた。
「……何デ、オ前ナンカガ」
「……?」
「何デ、オ前ミタイナ外ノ人間ガ神和ギニナル?ドウシテ、私ジャイケナイノ」
感情のこもっていない声で女の子は言った。しかし守哉は、その言葉の中に込められた悲しみと―――強い嫉妬を感じていた。
この子も同じだ、と守哉は思った。つまり、この子の未練とは、この島の連中と同じだったのだ。神和ぎに憧れて、神和ぎに選ばれた人間を妬んで―――そして、荒霊と化した。
これで、女の子の未練はわかった。後は、その未練を断ち切るだけ。この未練に対し、守哉は残された力を振り絞って、答えを出した。
「……お前は、哀れだな」
「何?」
「お前の未練は、生前のお前の弱さだ。誰かを妬むのは、自分がそいつに劣ってるって自覚してるからなんだぜ?それを、お前は死んだ後も引きずってる。みっともねぇったらありゃしねぇ」
言いながら、全身に力を込める。凄まじい激痛に襲われたが、無視して力を込め続け……なんとか、守哉は立ち上がった。
「オ前ニ、何ガワカル。何モシテイナイクセニ、選バレタ幸運ナ人間ニ」
「わかりたくもねぇな、お前の弱っちい心なんて。お前が神和ぎになれなかったのわかるぜ。そんな弱い心で神和ぎになっても、言魂さえ使えないだろうからな」
「黙レ!!」
女の子が両腕を振り上げる。守哉は見えない力で吹っ飛ばされ、地面を転がった。
それでも、力を込めて立ち上がる。
「本当に哀れだ。他人に負けて、自分にも負けて……お前、誰かに勝った事なんてあるのか?」
「ウルサイ!!!」
再び守哉を衝撃波が襲う。先ほどに比べると、衝撃波は弱まっていた。それでも守哉は後ろに吹っ飛ばされる。
「そ、そんな風に……誰にも……勝てないからって……他人を、否定して、気持ちいいか?」
「……ダ、黙レ……」
よろよろと立ち上がる。痛みに耐え、両足を踏ん張って。
「……他人の力が、そんなにも羨ましいか。お前が未練を残したのは、自分が手に入れられなかったものを他人から奪うためなのか。そうやって、奪ってきたのか」
「黙レ……黙レ…!」
「ああ、やっとわかったぜ。お前が俺の前に現れた理由。お前、神代家の庭でずっと見張ってたんだろ?自分でも倒せそうな神和ぎが現れるのを。自分よりも弱いくせに、自分がどんなに望んでも得られなかった力を持った人間が現れるのを。そうだろ?」
「黙レ黙レ黙レ!!」
「あいにくだが、見込み違いだったな。俺は、お前みたいに弱くない。お前みたいな、弱っちいやつに負けたりしない。お前は、誰にも勝てない。そんな弱い心じゃ、誰にも勝てはしない!!」
「黙レェェェェェッ!!!」
女の子の両腕が動いた。守哉は、叫ぶと同時に言魂を使って横に吹っ飛んで避ける。一瞬前まで守哉がいた空間に、今までで最も大きなクレーターが出来上がっていた。
「今ナラ、オ前ニ勝テル!!オ前ヲ殺シテ、私ハ勝ツ!!私ハ、弱クナイ!!」
怒りを込めて、女の子は叫んだ。同時に、両腕が大きく振り上げられる。こりゃやばい、と思った守哉は、不意に自分の左腕の手の平が光っている事に気づいた。
「これは……!もしかして!」
左手を目前にかざす。広げた左手の手の平―――歪な星型の火傷の前で、右手を握る。瞬間、火傷の中心から剣の柄が出現した。それを掴み、勢いよく引き抜く。青く光り輝く刀身が、運動場をオレンジ色に照らす夕焼けの光を反射した。
守哉が突然取り出した剣を見て、女の子の顔が恐怖で歪んだ。
逢う魔ヶ時になったのだ。
「ソ、ソレハ……!!」
「残念だったな、時間切れだ!」
咄嗟に、女の子は身体を消して逃げようとした。逃がすものか―――そう呟き、魔刃剣を地面に突き刺す。青い刀身が突き刺さった地面は見る間に凍てついていく。しかし、女の子の身体が消える方が早い。間に合わない、と守哉が焦り、女の子が不敵に笑った時―――
突然、女の子の消えかかった身体が元に戻った。
驚愕する女の子。自分の両手を見つめ、呆然としている。そして次の瞬間、女の子の両足が凍てついた。地面と一体化した自分の足を見て、女の子の顔に焦りが浮かぶ。
「切り裂け、氷鮫!!!」
守哉の声に呼応して、刀身の目前の地面から鮫の背びれに似た氷の刃が出現した。刃は女の子に向かって一直線に突き進み、恐怖に歪んだ顔ごと女の子の身体を切り裂いた。
☆ ☆ ☆
真っ二つに切り裂かれた女の子は、消滅してはいなかった。
凍りついたまま、地面に縫いつけられている。二つに分かれた胴体が不気味だった。
そんな女の子に、守哉はゆっくりと近づいて、話しかけた。
「お前の負けだな」
守哉の言葉に、女の子は答えない。感情のこもらない目で、守哉を見つめている。
守哉は、女の子の傍に座り込むと、ぽつぽつと語りだした。
「……俺さ、好きで神和ぎになったわけじゃないんだ。本当なら、譲ってやりたいぐらいだ」
「………」
「でもさ、そしたら譲られたヤツが他のヤツに妬まれるだろ。それじゃ、堂々巡りだ。だったら、俺が神和ぎやってた方がいいよ。俺は、嫌われるのは慣れてるから」
女の子は、守哉の言葉に聞き入っていた。そこで、何かに気づいたように目を丸くした。
「……ソウカ」
「ん?」
「私ガ、神和ギニナッタラ……他ノヤツニ、妬マレルカモシレナインダ」
「何だ、そんな事に気づいてなかったのか?馬鹿なヤツだな。つくづくお前は哀れだよ」
微笑みながら守哉は言った。そんな守哉に、女の子は初めて笑顔を見せた。
「……ソウダナ。私ハ哀レダ。私ハ、他ノヤツガ妬マシクテ仕方ガナイノニ、他ノヤツニ妬マレル事ヲ考エルト、理不尽ナ事ダト思ッテシマウノダカラ」
「それは、仕方がない事だよ。皆、同じなんだ。誰しも心の弱い部分を持ってる。それが、お前は人一倍強かっただけなんだよ」
「ジャア……私ニモ、強イ部分ガアッタンダナ」
「なに?」
「心ノ弱イ部分。私ハソレガ人一倍強インダロウ?」
女の子がそう言うと、守哉はにひっと笑って言った。
「違いねえ。確かに、お前の心は弱くて強いな。よかったじゃないか、お前、俺に勝ってる部分あったぜ」
「アア……。情ケナイ話ダケド、ナ」
女の子は、うつむいて目を瞑った。よく見れば、凍てついた身体のあちこちが光だし、徐々に薄くなっていく。驚いて守哉は問いかけた。
「お、おい、大丈夫なのか?」
「……フふ、オ前はバカだナ。私は敵だったんだゾ?敵ヲ心配シテどうすル」
いつの間にか、女の子の口調に感情がこもるようになっていた。同時に、生気のなかった顔に生気がこもっていく。
守哉は、笑って告げた。
「敵だった、てことは今は敵じゃないだろ?」
「……敵じゃナイなら、なんナンだ?」
「友達になってくれよ。俺、友達いないんだ。だから、初めての友達になってくれ」
その言葉に、女の子は一瞬驚いたような顔をすると、いきなり声を上げて大笑いした。
「な、なんだよ。そんなに俺がおかしいか?」
「……ああ、おかシイさ。私のような荒霊と友達になろうなんてバカはな。いや、傑作ダヨ」
目尻に涙を浮かべて笑う女の子。そんな女の子を見て、守哉は微笑みながら言った。
「お前、よく見ると結構可愛いじゃん」
その言葉に、女の子は顔を真っ赤にした。慌てながら言い返す。
「な、何を言う!私なんて、そんな……」
「いや、本当だって。よく見れば、目はくっきりしてるし、肩口で切りそろえた髪の毛もよく似合ってるし、肌もニキビ一つないし。よかったな、お前まだまだ強い部分あるよ。探せば、きっと」
「……お前ノ方が、美人じゃないか」
「ん?何か言った?」
「別ニ。……それより、そろそろお別れだ。お前のおかげで、色々吹っ切れた気がするよ。ありがとう」
よく見れば、女の子の身体はかなり薄くなっていた。女の子を包み込んでいる光が少しずつ強まっていく。
「な、おい!まだ話したりないぞ、俺は!」
「残念だったな。お前も言っただろう?時間切れなんだよ」
微笑ながら女の子は言った。守哉は女の子に詰め寄ると、いつの間にか氷が解けていた右手を握ろうとする。しかし、守哉の伸ばした手は宙を掴んだ。女の子の右手を透過したのだ。
「な、なんで……!」
「私は、幽霊に極めて近い存在なんだ。幽霊の手を握れるわけがないだろう?」
くそ、と守哉は歯噛みした。そこで、優衣子の言葉を思い出す。神力の伴った物理攻撃なら荒霊に通用する―――ならば、と守哉は強くイメージして、ぼそりと呟く。守哉の声に呼応して、守哉の手が光りだした。
再び女の子の手に手を伸ばすと、今度はがっしりと掴む事ができた。驚いて女の子は守哉を見つめる。
「どうだ!」
「一体、どうやって……」
「俺は神和ぎだ。このくらい、できて当然なんだよ」
守哉の言葉に、女の子は苦笑した。
「……お前なら、神和ぎに相応しいと思う。私を鎮めに来たのがお前で、本当によかった」
そう言うと、女の子の身体の光が強まる。その光は女の子の輪郭を彩っていき、その存在を奪うように包み込んだ。
「ま、待ってくれよ!おい!まだ肝心な事を聞いてない!」
女の子は優しい笑顔を浮かべ、守哉を見つめた。その目尻からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちている。
「お前の名前を教えてくれよ!」
守哉は叫んだ。既に、女の子の身体は消えかかっている。微かな声で、女の子は最後の力を振り絞り、守哉に答えた。
「ななか。神代七歌。忘れないでね、守哉……。私の、最後のともだち。……妹の事、優しくしてあげてね」
大輪の花が咲いたような、最高の笑みを浮かべて、女の子―――七歌は、消えてしまった。
残された守哉は、呆然と立ちすくんで、呟いた。
「忘れるかよ……。絶対に」
呟く守哉の頬を、一筋の涙が伝っていった。
気がつけば、逢う魔ヶ時は過ぎ去って、すっかり日が暮れていた。
☆ ☆ ☆
翌日、守哉は学校が終わるとすぐに神代家へ赴いた。
最後に女の子が言っていた言葉と、女の子の名前の事がどうしても気になったからだった。
客間で七瀬と向かい合った守哉は、事の次第を七瀬に説明した。守哉の話を全て聞き終えた七瀬は、突然ぽろぽろと涙を零した。慌てて守哉は七瀬に近寄る。
「お、おい……どうしたんだよ」
「……お姉ちゃん」
「え?」
「……守哉が鎮めたのは、私のお姉ちゃん。3年前、私を庇って……この家の庭で、死んじゃったの。まさか、荒霊になってたなんて……」
守哉は、女の子の容姿を思い出した。そういえば、七瀬にどことなく顔のつくりが似ていた気がする。
「そうだったのか……」
「……神代家は、代々この島の神和ぎを受け継いできた家なの。3年前のある日、おばあちゃんは近いうちに次の神和ぎを決めるって言ったの。ずっと神和ぎに憧れてたお姉ちゃんは、必死に努力して、おばあちゃんに選んでもらえるように頑張ってたの。でも、おばあちゃんが次の神和ぎに選んだのは私だった。それを知っても、お姉ちゃんはよかったねって……」
嗚咽を漏らす七瀬。守哉は、そんな七瀬の肩を抱いた。
「……ずっと、怨まれてると思ってたのに。襲うなら私を襲えばよかったのに。なんで……」
「七瀬は、神和ぎじゃなかったからだろ」
「……そうだけど……」
「それに、神和ぎだったとしても、七歌はお前を襲わなかったと思うぜ。あいつ、最後に俺に言ってた。七瀬の事、優しくしてあげてって。きっと、お前の事も心残りだったんだよ」
優しく、守哉は七瀬に告げた。七瀬は、今にも泣きそうな顔で守哉を見上げ……守哉の胸に顔をうずめて泣き出した。守哉は、そんな七瀬の頭を優しく撫でてやった。
「……ひっぐ……えっぐ……うぇぇん……!かみやぁ……!わたし、わたし……!」
七瀬の泣き声が客間に響く。守哉は、泣き続ける七瀬を抱きしめながら、その頭を撫でてやった。
兄が、妹にしてあげるように。優しく、何度も何度も撫でてやった。
結局、まだまだ色んな謎が残ったけれど。というか、また新しい謎が出てきてしまったけれど。
それを聞くのは、また今度にしようと、守哉は思った。






