表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

3

『三月亭』は3階建てで、1階を食堂兼厨房とし、2階・3階を宿屋としている。

3階には部屋が6室ある。階段を上り終えた正面に3-3号室があり、左側に5,4,3と続く。この部屋は建物の裏側、井戸のある裏庭方面を向いていると思う。そして通り側に階段側から1,2と部屋番号が振ってあった。

扉の間隔から、通路側が大部屋、裏庭側が小部屋である。

サトルの部屋は3階の一番奥、裏庭側だった。


部屋の中はいたってシンプル。ベットがあり、書き物が出来そうな小さな机とイス。風呂とトイレは無い、照明も無い。暖を取るものもないので、冬は暖かいことを願う。

いろいろ無い部屋だが、ビジネスホテルのシングルよりは広く、閉塞感は感じない。

2面にある木製の窓は開け放たれ、外光が入り優しい風が吹き抜けていた。

掃除は行き届いていて、ベットには白いシーツがしわ一つなく敷き詰められていた。

窓から外をみると予想通り裏庭があり、井戸と建物が2つ経っている。

一つは片面に壁の無い建物で馬の脚が見える、厩舎だろう。

もう一つは、おそらく厠と予想する、あとでおばさんに確認をしなくてはならない。

向かいの建物の屋根の先に城が見える、向きは南向きだ。

表通りから離れているので、喧騒が聞こえてくる事も無く落ち着く部屋だ。

一目で当たりと思えるクオリティ。三月亭を紹介してくれたケレスケードさんに感謝する。


鍵と財布(皮袋)を机の上に置き、ベットに横になる。

今後の事を考えなければならない。

「はぁ」

といっても、ため息しか出てこないのだが。




3人の高校生に魔王討伐を押し付けてしまった。大人として如何かと思うが、能力が無いのだから如何しようもない。


イライラして髪をかきむしる。

(スキル『歩』ってなんだよー)

思いっきり叫びたいが、近所迷惑なので我慢する。

水上歩行は試してないが、空歩は試したみた。

当たり前だが、人間は空中を歩けない。空を歩く等という夢物語は夢で終わった。

水上歩行の可能性は捨てきれないが。確か、右足が沈む前に左足を前に出すであったか。元の世界でも水上を歩ける人は居たのだ。魔法のあるこっちの世界なら、水上を歩くのも訳ないかもしれない。

まあ、歩けたから何だという話でもあるのだが。


メガネ君が言っていた「巻き込まれ」という言葉が胸にささる。

この世界でも俺は必要とされていないと言われたようだった。

もう死んでしまいたいと思っても、自殺する勇気もない。このまま1年引きこもっても宿を追い出される。

この世界に生活保護など無いだろうし、ホームレスが生きていける環境課も分からない。

何か出来る事を探すとして、俺に何ができるのか。


知識でチート、特別な知識など持っていない。

食べ物テロ、作れるものなら既にある。城での食事で分かる。金持ちの食べ物は普通に美味しいのだ。庶民の食べ物がイマイチなのは、砂糖、牛乳、バター、肉、小麦が高級だからだ。

庶民にも行きわたる様に美味しい食事を求めるなら、農地改革から始めなければいけない。権力の無い一庶民の俺には到底無理な話だ。

ノーフォーク農法だったか、4期に分けて輪栽するやつ。今がどのように農耕しているのかも土地の状態も知らずに、王に直談判しても放り出されるだけだ。そもそも俺は農業の事を全く知らない。


赤子よりも生命力が低いといわれた俺では兵士はダメ、農家も無理だろう。物の価値が分からない状態では商人も無理だ、損する未来しか想像つかない。職人は農業以上に難しい。10代なら弟子としてどこかの工房に奉公できたかもしれないが、30に大手をかけた今では、何処も雇ってくれる事はないだろう。


結局サトルには、冒険者か農奴または鉱夫という実質の奴隷しか道はなかった。


サトルは7の鐘が鳴るまでベッドで紋々とし、夕食を食べたあとも、ベッドでウダウダと思い悩むのだった。

お約束の通り、このようなときには何も名案は思い浮かばず、さりとてストレスから眠気も起きない。

1階の食堂から零れてくる陽気な笑い声に、酒でも飲めばひと時の幸せは迎えられたかなと考え、明日は仕事でも探してみるかと、冒険者ギルドへ行くことを決心するのだった。



翌朝、宿屋のおばさんにに冒険者ギルドの場所を教えてもらった。その際におばさんの名前はゼスさんと教えてもらった。

おばさんではない、ゼスお姉さんだ。

其処を間違えると室内の温度が3度下がる。


朝食は前日に頼んでおけば食堂で食べられるし、持ち運べるように大きな葉に包んでテイクアウトもしてくれるそうだ。

通りに露店がでていて、朝の早い冒険者はそこで済ます場合も多いらしい。露店の方がピンキリだが1銅貨からで安いらしい。

「サトルは線が細いからしっかり食べないといけないよ。だからうちで食べな」

と営業もされたが、忙しくしながらも詳しく教えてくれた。



教えてもらった通りに冒険者ギルドへやって来た。

朝食はギルド前に露店で、黒パンと豆のスープを買った。

歯が欠けそうな黒パンは豆スープに浸して食べる、豆スープはおまけだ。なので塩けが申し訳程度で味が薄くても文句を言ってはいけない。なんたって1銅貨だ、これより安い食べ物は無いのだ。


黒パンを食べるのにシックハックして冒険者ギルドに入ると中は静かだった。

奥のカウンターには受付嬢が一人座って書類の整理をしていた。

左右の壁は掲示板となっていて、大小さまざまな紙が張り付けてある。

2の鐘はとうにすぎ3の鐘の手前の時間。一般的な冒険者なら当に仕事を受け現場に向かっている。

酒場が併設されている事もなく、待ち合わせに使えそうなテーブルや椅子もない。一般的でない冒険者も一人もいなかった。


入り口に立ち止まるサトルに、事務仕事をしていた受付嬢が声をかける。

「いらっしゃいませ、依頼ですか?こちらへどうぞ」

「あの、冒険者に成りたいのですが」

「冒険者登録ですか??」


受付嬢の視線が、サトルの頭から足元まで上下に何往復かくりかえす。

明らかに異国人だ。見た事も無い服を纏い、材質も分からない黒光する靴を履いている。

年齢も成人式はとうにすぎている。

貴族とはいかないまでも、どこぞの商会の会長か若しくは若旦那といえるくらいには整った服装だ。

冒険者に成りたいというのに、腰に剣も下げていない。

田舎から飛び出してきた成人したてのガキが一旗揚げようと都会にやって来たのとは分けがちがう。


なんの冗談からら?

これが受付嬢の正直な感想である。


「はい、どのような手続きが必要ですか?必要な資格とかありますか?」

「冒険者ですよね?商人ギルドと間違えていたりとか?」

「はい、冒険者です。冒険者になりたいのですが・・・」

「ではこちらにご記入下さい。冒険者登録には金貨1枚が必要です、こちらは保証金となります。退会の際に返却されるものですが、現在お持ちでない場合は、ギルドからの貸し出しという扱いとなり、最初の内は依頼報酬から金貨1枚貯まるまで天引きとなります。あと冒険者登録に必要な資格はございません、何方でも登録は可能です。代筆は必要ですか?」

「大丈夫です」


名前:コデラ・サトル

年齢:29

特技:

スキル:歩


特技と聞かれても、正直困る。

ごくごく一般人として生活していたサトルに人より優れたものは無い。スキルを書く欄があったので『歩』と書いてみた。


受付嬢が机の下から水晶玉を取り出し、サトルの記入事項を見て困っている。

「これと言って特技と言われるものはないのですが」

「そうですか、大抵は剣が得意とか弓が上手いとか。ベテランになってくると護衛依頼とかトレジャーハントとか追加されますね。最初は空欄でも構いません。指名依頼やギルドからの依頼で考慮するものですので」


受付嬢が水晶玉をサトルに差し出す。

「スキル『歩』ですね。確認のため手を翳して頂けますか。たまに持っても居ないのに『剣』とか『弓』とか書く人がいるのです」


サトルが手をかざすと、薄っすら水晶玉に光が滲み、中心にぼやけた字で『歩』と文字が浮き上がった。

受付嬢は目を凝らして見つめ

「けっこうです、協力ありがとうございました」

と言うと、そそくさと水晶玉をしまった。

10センチほどの鉄板を取り出すと、鉄板に掘られた数字『3285』をサトルが記入した紙に書き込む。

サトルは金貨1枚を払い、鉄板を受け取るのだった。


「ギルド証は無くさないで下さい。再発行には同じく金貨1枚掛かります。また何処かでギルド証を見つけたら最寄りのギルドへ届けて頂けると金貨1枚と交換いたします」

「金貨1枚?持ち主に返すという訳ではないのですね?」

「はい、残念ながら冒険者の場合、ダンジョンで倒れるか事件に巻き込まれるか、町の中でウッカリ落とす場合は殆どありません。盗賊が届けることもないですし、スリが持ち込むものでもないですから」

「成程」

「なので、町中でウッカリ落としても再発行に金貨1枚かかるので、くれぐれも注意してください」

「わかりました」

「冒険者ギルドについて説明は必要ですか?」

「お願いします」

「依頼はあちら、右側の壁に貼ってあります。どの依頼でも受ける事はできますが、失敗にはペナルティ、場合によっては違約金が発生します。最悪、登録の抹消、再登録不可となりますので、受ける依頼は十分に吟味してください。

「はい」

「左側の壁はパーティー募集の掲示板です。依頼によっては人数制限のあるものもあります。例えばレイドや護衛依頼などですね。こちらはギルドで関与することはありません。各個人で連絡をとりあって下さい」

「わかりました」

「では、受けたい依頼がありましたら、依頼票を此方へお持ちください」

「ありがとうございました」


受付嬢に感謝し、サトルは依頼の掲示板を見てみる事にた。


・採集(薬草・毒消し草・満月草・光苔・火炎茸・水草・風仙花そのた色々)

・討伐(モグラなどの畑の害獣から火蜥蜴や氷狼まで様々)

・護衛依頼(キャラバンから船にのり外国まで)

・雑用(町中の雑用)


サトルに出来そうなのは、町中の雑用と簡単な採集に討伐。

町中の雑用は常識不足から問題が起こる可能性をかんがえると、簡単な採集一択となる。

薬草や毒消し草は3束で銅貨1枚と単価も安い。子供の使い程度と予想できる。なにより期限が無い。

その分一日の稼ぎを得るのに薬草を100束も集めないといけないのだが。

常設依頼となっていて、依頼票をはがして受付に持っていく必要はないと記載されていた。

パーティー募集の掲示板は見に行く必要を感じなかった。

サトルはお荷物であり、今の自分を受け入れてくれるパーティーは存在しないだろう。

まず、一人で生きていけるように模索しなくては。


再度受付にやって来たサトルに受付嬢は首をかしげる。サトルの手に依頼票がないからだ。

「あの、お聞きしたいことが・・・」

「はい、なんでしょう?」

「常設の薬草採集を受けたいのですが、薬草が分かりません」

「では、こちらへどうぞ。ついでにギルド内を案内いたしますね、こちらへどうぞ」


受付から出てきた受付嬢が奥に向かって歩いていく。サトルは後に続くのだった。


依頼票の掲示板の奥に裏庭へと続く通路があり、途中に3つ扉があった。手前2つが会議室で会員ならだれでも借りられるとの事だ。パーティーの面接や護衛依頼の打ち合わせ等で使われているとの事。裏庭に近い部屋が資料室となり、中には初級冒険者の心得に始まり、植物図鑑や動物図鑑、アイテムの資料、ダンジョンの地図や詳細など、冒険者に必要な書類が揃っていた。持ち出し厳禁だが、閲覧は自由とのことだ。

そして裏庭は訓練場となっていた。少し狭いが小学校の校庭の様だ。踏み固められしっかり地ならしができてる。


「獲物の解体場は隣の建物になります。討伐依頼で獲物を持って帰ってきた場合は、先ず隣で解体の手続きをして下さい」

と、受付嬢に生首をギルドに持ち込むなとしっかり注意を受けました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ