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7話 黒歴史ノート。

 痛む腹を抑え自室に戻った。

「クソォッ…!!!失敗した!失敗した!失敗した!」


 ダンッ!!

 感情の赴くままに思い切り机を叩く。


「なんでだよ、なんでだよ、なんでだよ、なんでなんだよ!!」

 やはり中身が変わると勇者の才能は消えてしまうのか?

 僕が入ってしまったから…?

 自分が悪いという事は分かっていた。

 前世から変わっていない僕が勇者になれるなんて事はないって分かっている。

 だが、この感情をどう消化すれば良いのか分からないのだ。


「ふざけんなッ!!!だったらなんで俺をここへ(異世界)呼んだんだ!」


 バサバサッ…

 机に並んだ本にまた怒りをぶつける。

 こんなことならあのまま死んでおけばよかった。

 そしたら自分が変われるなんて期待しなかったのに。

 床に散らかった本をみてふと我に返る。


「こんなものに当たっても仕方ない。これからの対策を考えないと…原作の流れは把握してるから、魔獣が現れるタイミングとか、魔王の居場所とか弱点とか、まだ僕は大丈夫だ。勇者でなくともこの国にとって必要な人物になれるはず、とりあえずこの家から出る方法を考えないといけないな…」

 散らかった本を片付けていくと、分厚い本の中に薄いノートが一つ挟まっているのを見つけた。


「これは…」

 なんとなく想像がつく。

 子供なら誰だって一度は書いた事のあるものだろう。

 そして成長するとこのノートはこう呼ばれる。



 《黒歴史ノート》



 僕も魔王神の設定やら自分を主人公にした物語をノートに書き綴っていた。

 この本の厄介なところは廃棄に困ることだ。

 対策なしに捨てると親に見られてしまう可能性があるから簡単に捨てることは出来ない。

 故に誰にも見つからないような場所に隠すように保管してる。

 そういえば僕の黒歴史ノートはどうなったのだろう。

 想像しただけでもゾッとする。

 きっとリリックも見られたら恥ずかしいことを書いているに違いない。

 絶対に見られたくないことを、、、、


 見てはいけないと思えば思うほど見てしまいたくなるのが人間だ。

 悪いと思いつつも、少しだけ見させてくれッ!すまんリリック!

 心の中で何度もリリックに謝罪しながら、そのノートを手に取りぺらぺらと薄見する。

 全ページ埋まるほど文字が書き綴られていた。

 おそらく小説だろうか。

 好奇心に勝てなかった僕は、


「リリックすまん!読ませてくれ!絶対笑わないから!」

 とリリックに謝罪してから、

 1ページ目に戻り読み始めた。





 [リリック・エメラルドは優しい両親と出来の良い兄に愛され育った。]


 ノートの1行目に書かれていたのは、既視感のある物語の始まり。


 [8歳の時、剣術訓練で初めて剣を握った際

 体がどうすればよいのか全て教えてくれた。そして、剣を初めて握ったその日に彼は2つ上の兄に勝利し剣術の才能を見出したのだ。]


「は?…なんでこれが、ここにあるんだ。」


 [こんにちは、お嬢さん。よかったら僕と旅に出ませんか?]


 ああ、これは魔物に両親を殺されて、ひとりぼっちになった子を仲間にするシーンだ。

 そしてこの後この子には魔法の才能があることが判明するんだよ。


 [すごいよ!君には魔法の才能がある!僕が絶対君を1人にはしないよ。]


 何度も読んだ物語だが、それはここに(異世界)あるはずがないものだ。

 これ以上見てはいけない。

 確かめてはいけないと思っているのにページを捲る手が止まらない。


 [僕の目標は魔王を倒すこと!みんなが居れば絶対に倒せるって信じてる。]


「やめてくれ…」


 [魔王の力ってもんはこんなものなのか?]


 この物語は絶対にここに(異世界)あってはいけないんだ。

 じゃないと現実の世界(【剣と光の勇者】)だと思ったものが、ただの架空の世界になってしまう。


 [僕1人の力じゃお前を倒すことは出来なかっただろう。だけど僕たちは日々鍛錬したくさんの壁を乗り越えてきた。]


「やめてくれ!!!なんでここにあるんだよッ!!」


 [これで終わりだ!!聖なる光(ホーリーライト)裁き!!(ジャッチメント)





 [タイトル【剣と光の勇者】]

 [作者 リリック・エメラルド]



 このリリックの黒歴史ノートは似ているとかではなく間違いなく【剣と光の勇者】そのものだった。

 だって俺は何度も何度も読み返していたのだから。


「ぐッ…なんだこれッ…」

 全てを読み終えた後、ズキズキと激しい頭痛が襲う。

 頭を抱えその場に倒れ込み意識がだんだん遠くなっていく。




「また、死ぬのか…?

 2度目は自分を好きになってから死にたかったんだけど…」



 最後にそう呟くと、床に倒れたまま意識を失った。



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