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4話 前世から持つスキル

 とりあえず、僕が置かれている状況を整理するためアレを使うことにした。

 そう…


  《聞き耳スキル!!》


 これは前世の時から使ってきた技だ。

 人と話すことが苦手で人見知りにも関わらず、とにかく寂しがりやだった僕はクラスメイトの話によく聞き耳を立てて勝手に心の中で会話に参加していた。

 かなりキモいが心の中で喋る分には別に良いであろう。

 良いと言ってくれ。

 このスキルのおかげで僕は最近の流行り物から同級生の色恋事情や家庭事情など全て把握していた。

 おかげで学校一の情報通になったのだ!

 情報を流す相手はいなかったが……

 よし!そうと決まれば早速行動だ!

 僕は目立たぬよう存在感を薄くし物陰に隠れ屋敷の探索も兼ね使用人たちの話を盗み聞きして回った。

 そうして分かったことが、

 1つめ、この家はエメラル公爵家の家でめちゃくちゃ広い事、

 2つめ、長男とは4つ、次男とは2つ歳が離れていて僕は三男の末っ子だ。

 3つめ、僕の年齢は現在8歳で昨日誕生日だったそうだ。

 4つめ、この国の名前はアレキサンドライト王国ということ。

 5つめ、この世界には魔法が存在し魔物なども出現するということ。目の前で当たり前に火がついたり水が出たりするのは感動的だった。

 この5つは原作の内容とまったく同じだ。

 そして、1番重要なリリックの虐待は、日常的に行われており、それに対して同情の目を向ける者、リリックを軽んじる者、興味のない者がそれぞれ同じくらい居た。

 虐待の事実以外は【剣と光の勇者】の物語通りである。

 やはりこの体は勇者リリックなのだろうか…

 原作に描かれなかっただけで、本当はこんな過去があったのかもしれない。

 だとすれば分岐点となるのは、


 [8歳の時、剣術訓練で初めて剣を握った際、体がどうすればよいのか全て教えてくれた。そして、剣を初めて握ったその日に彼は2つ上の兄に勝利し剣術の才能を見出したのだ。]


 これだろう。

 恐らくこのイベントに関しては始まってないはずだ。

 これさえ乗り越えれば未来は確約する。

 体が全て教えてくれたとあるから、僕もそのまま使えるはずだ。

 虐待の恐怖とか言語とか体に染み付いていたし、体はリリックそのものだろう。

 それに異世界系鉄板!基本チート。

 リリックがやっていた通り同じ事をすれば僕は人気者の勇者だ!

 それまでは痛いが虐待には耐えるしかないな…

 正直びっくりはしたが、傷はすぐ治してくれるし本当の母親ではないから精神的ショックもそんなにない。


(どうせこれからチヤホヤされるんだから少しの間くらい目を瞑るか!!

 だって、僕は神に愛されてるんだ!こんなチート級主人公に憑依したんだから!

 ちょっとやそっとじゃ取り乱したりしないぞ!)


 自分の状況を把握し今後の対策を練っているとまた扉がノックされた。

 入ってきたのは先ほど来たアンジーと名乗る侍女で父が帰ってきたから夕食をとのことだった。

 そう言えばお昼頃に目覚めてから何も食べてないな…公爵家のボンボンというのに誰も昼を聞いてくれないのはやはり冷遇されているからだろう。

 これからはちゃんと申告しないとな…


 侍女の後を追い食堂へと入ると1番奥に父と思われる人物が座っていた。

 彼がイーサン・エメラルド公爵。

 この家で1番偉い人だ。

 僕より鮮やかで透き通った発色の良い緑色の瞳を持ち黒色に近い紫色の髪色をした彼は厳格な顔つきをしていた。

 まさにイケオジって感じだ。

 母の時ほどではないがリリックの体が怯えていることがわかる。

 きっとこの父も原作とは()()()()違うのだろう。

 右側には悪魔ババ……母が反対側は兄弟が2人並んで座っていた。

 奥の席が長男カリオス・エメラルド12歳。

 鮮やかな緑色の瞳に父譲りの髪色で切れ長の目をしている。

 コイツは絶対モテる!

 手前側が次男のケドリック・エメラルド10歳。

 鮮やかな緑色の瞳に母と同じ金色の髪の毛で母の男装版みたいな感じだった。

 コイツも絶対モテる!

 僕の席はケドリックの席から一つ空けた場所に用意されていた。

 僕が到着する前から夕食は始まっており、兄たちは食事をしながら父に近状報告を行い母はそれに微笑みながら相槌を打っていた。

 その様子はまるで家族はこの4人だと見せつけられているようで居心地がとても悪かった。


(気まずい…)


 貴族の挨拶やマナーなどもちろん知らない。

 そのまま席ついていいのか挨拶とかしたほうがいいのか…いや挨拶とか言われてもなんて喋ったらいいか分からなすぎる…。

 そう、僕はコミュ症なのだ。

 前世でも人と会話したりどころか話しかけることすらなかった。

 家族ですら長い間話していないと何と話しかけたら良いか分からなくなって、次第に挨拶すらもしなくなってしまったのだ。

 そんな僕に初対面の人にどうしろと言うのだ。

 だが無言で座るほどの勇気もない。

 ゆっくりと息を吐き


「遅くなり申し訳ございません。」

 と一言だけ発し存在感を消して静かに席についた。

 もちろん誰からも返事はなかった。

 兄たちは僕に対してどういう感情をもっているのだろうか、決していい感情でないのは確かだが…

 席についたはいいが冷や汗が止まらない。


 〈第二の鬼門テーブルマナーだ〉


 目の前には前世でも食べたことのない肉塊やキラキラしたスープが並んでいる。


(頼むから箸をくれ、箸ならまだわかるんだ…)


 恐る恐る銀食器を手に取ると、なんてことはなく体が勝手に動くのだ。

 これまでリリックが身につけていたマナーは体に覚え込まされておりそれを僕自身も使えるようになっていた。

 そう言えば僕は常に猫背で歩き方も内股だったがリリックになってからは普通に歩いていた。

 先程の不安は全て吹き飛び目の前の豪華な食事を楽しむようになっていた時、父がゴホゴホと咳払いをし


「リリックは先日8才になったな。」


(?!)動揺している僕に続けて


「明日から本格的に家庭教師と3日後剣術訓練を始める。3日後の訓練は私とお前の兄たちと共に行うので用意しておくように。」


(キタキタキタキタ!分岐点!!まさかこんな早くに来るなんて!!)


「はい、父上。僕は食事を終わらせましたので先に失礼いたします。」

 かなり素っ気ない挨拶だし、食事は全然終わっていなかった。

 正直もうちょっと堪能したかったが、訪れた確定演出に頬の緩みを抑えることが困難になり僕は足早に自室に戻った。


(今のこの状況はたった3日で完璧なものになる!)


 僕はそう信じて疑わなかった。


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