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外道巫女、神越ヒミコはなかなか死なない  作者: K. Soma


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02 神越ヒミコはSである

〝緋ノ巫女〟

 

 ()は緋ノ国において、(あき)御神(みかみ)の血に(つら)なる半神半人(はんしんはんじん)にも等しき存在とされ、(いにしえ)より魔を討ち民草(たみくさ)を守護してきた乙女たちである。

 

「オラァッ! どうしたどうしたぁ、もうおわりかぁ⁉ 【ひーはーっ】!」

 

 彼女らは〝巫術(ふじゅつ)〟と呼ばれる神秘の御業(みわざ)を行使し、先の二度に渡る異海大戦を()て文明を大きく発展させた近代社会においてもなお、一個人として破格の戦闘力を誇る。

 

「クケケケケッ! ()かねえなぁ! 遅えなぁ、弱っちいなぁ! 蛆虫にも劣るゴミカスどもめぇ!」

 

 巫術の()り方は多岐(たき)に渡り、各々(おのおの)で異なる。

 

 例えば今、()()が嬉々として振るう金属製のお祓い棒――黒御幣(くろごへい)は、持ち手の幣串(へいぐし)、先端から伸びる二本の鉄垂(てつしで)共に、極めて特殊な材質・製法で作られていた。そこに巫術の源泉である〝()ノ気〟を注入することで、変幻自在かつ複雑怪奇な軌道で敵を打ち据える。

 

「【ごぉ・とぅ・へぇえええるっ】! ヒャハハハハハハッ!」

 

 異海開化により大きく政治体制を変えた現在の緋ノ国において、緋ノ巫女は三つに分類される。

 

 第一は〝国家巫女〟。巫術管理省、国家巫女局に在籍する巫女たちであり、対暴力行使者(テロリスト)を想定した特殊作戦や要人・重要施設の警護、時に警察との連携捜査に加え、有事の際は国防の主力として組み込まれるなど、精鋭中の精鋭揃いである。

 

 第二は〝民間巫女〟。平たく言えば国家巫女局に在籍せぬ者らが結成した同業者組合や民間組織に所属する巫女たちである。国家巫女が国からの指令でのみ動くのに対し、こちらは津々浦々(つつうらうら)に点在する組合・組織に寄せられた依頼を所属巫女が対処する体系(システム)だ。()る事情で第一線を退いた国家巫女がこちらへ移籍する場合もある。

 

 最後に――〝()()()()

 

「クックック、んなんでアタシを【ふぁっく】するつもりだったとは笑わせるねぇ……! このクソ(まみ)れの【あすほっ】が!」

 

 国家、民間のどちらにも所属せぬ一匹狼。己の腕っぷしだけを頼りに生きる骨太(ストロング・スタイル)な巫女たちだ。

 

 滅多におらぬ巫女だけにその生態系の総括は難しいが、概ねの傾向として、国家は言うに及ばず民間でも引き受けぬような秘密の仕事を引き受けることが多い。

 

 人に言い難い仕事(ゆえ)に、内容は清濁が奇怪に入り混じる。さらに、単独行動を好むだけあってどの巫女も一癖も二癖もあり、(かたく)なに〝清〟の仕事だけを選ぶ者もいれば、進んで〝濁〟を請け負う者もいて、最終的に個人巫女に対する世間の見解は玉虫色の実に混沌としたそれである。

 

「泣き(わめ)け、オラァン! 逃げ(まど)え、ゴラァン! てめぇらの恐怖と後悔と絶望だけが、アタシに〝生〟を実感させるんだぁ~っ! ククハハハハハ!」

 

 さて。

 

 先ほどからいい塩梅(あんばい)興奮(エキサイト)している、この元・囚われの乙女。女子にしては上背(うわぜい)があり、腰まで届く長い黒髪と透き通るような白い肌をしていて、少し前なら〝ただそこに立っているだけで、(うつつ)を幻想に変えてしまうような儚くも見目麗しい幽艶(ゆうえん)たる美女だった――〟とかの記述があってもおかしくなかったこの女(言わずもがな、今となってはそんな記述があるだけでおかしい状況である)。

 

 緋ノ巫女である。それも、個人巫女。

 

 名前は神越(かみこし)ヒミコ、一九歳。

 

「残すはお前だけみてぇだなぁ……?」

 

 にぃっと背筋の凍る笑みを浮かべ、ゆっくりとした足取りを進めるヒミコ。

 

 バタバタと、まるで(まぐろ)()りのように悪漢たちが倒れる中、最後の一人に近づく。

 

 男は錯乱しつつ拳銃で応戦を試みるも……総じて当たらない。ヒミコの身体から発する巫ノ気が銃弾を逸らす。

 

「ひぃ⁉ や、やめてぇ! 来ないでぇ! ……おがあぢゃああああん!」

 

「だったら今すぐ〝地下〟とやらに案内するんだよオラァン!」

 

 残された一人はヒミコの言いなりに動き出した。

 

 ――一応、擁護(フォロー)しておこう。

 

 ここまでの展開、彼女はすべて計算ずくでやっている。

 

 ヒミコは荒縄で縛られる前から、密かに男たちを観察し練達を見定めていた。

 

 間違いなく、実力的に階層(ヒエラルキィ)の頂上にいたのはあの禿頭(とくとう)の男だろう。だからこそ、ヒミコは真っ先にヤツを倒した。それだけで残りの一味にどれだけ心理的な損傷(ダメージ)が発生するかをよくよく理解して。

 

 次に目をつけたのは〝誰が最下層か?〟だ。状況さえ悪ければ、一も二もなくこちらの意に従うような。そうして見出したのがこの男である。精一杯悪ぶっているが、田舎臭さが抜けきらない。嗜虐的な台詞や必要以上の攻撃は、すべてこの男の心を折るためだった。

 

 ただ――、

 

「チンタラ歩いてんじゃねえぞ、鈍間(のろま)がぁああ! キビキビ進めぇ!」

 

「はいぃいい!」

 

 ジャラジャラジャラン! 鞭のように荒々しく黒御幣を振るうヒミコ。心なしか、その頬には薄っすらと赤みが差している。

 

 ……こーいうとこを見るに、先の態度はあながちすべてが演技ではなく、彼女のやべー一面の発露かもしれなかった。

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