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外道巫女、神越ヒミコはなかなか死なない  作者: K. Soma


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19/41

19 神越ヒミコも嘔吐する

「そうかい、こっちの要求は飲めないと? ……わかった。ならもう一人始末しよう。せいぜい後々、責任問題で揉めてくれ………………何、考え直す? 殊勝な態度だな。それでいい……だが少しばかり遅かったな。もう殺しちまったよ。次の人質に手を掛けて欲しくなけりゃ、誠意を見せるんだな。またこっちから掛け直す」

 

 浅黒い肌にギョロリとした三白眼の巫女、黒麻(くろあさ)ヨウコは懐中鈴の通話を一方的に切った。

 

 彼女の足元には新たに老人夫婦の死体が転がっている。ミヅキの代理でやっている外部交渉の過程で殺害されたのだ。

 

 これが普通の占拠事件なら、こうも被害者が出れば多少の犠牲を覚悟し強行突入もあり得ただろう。しかし、最初にミヅキが展開した結界がそれを許さない。なので今、外部の者たちはこちらの無茶な要求を形だけでも通すべく東奔西走(とうほんせいそう)しており、結果、目論見通りに時間が浪費されていた。

 

「……ふぅ」

 

 ヨウコは気だるげにひとつ息を吐く。あまりこういうのは得意でないが、それでもやるしかない。すべきことはまだまだ山のようにあった。

 

「次は統治協議会に揺さぶりをかけるか――」

 

 ヨウコが再び弁当箱ほどもある懐中鈴を手に取ったところで、

 

 ――リンリンリンリィン!

 

 着信がきた。警察だろうか? いや違う。部下からだ。

 

 もしかして、緋ノ目を奪還したのだろうか⁉ ヨウコは嬉々として応じる。

 

御頭(おかしら)! だ、駄目です! やられました、全滅です! アイツは――()()()()()()()()()()! ()()()()! ()()()()()()()()()! …………ひっ⁉ や、やめろ! 来るなっ! こっちに来るなぁああ! うわぁあああああああああああああ!」

 

 そこで通話が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 神越(かみこし)ヒミコ、一九歳。

 

 花も恥じらう……かどうかはそろそろ微妙な年ごろだが、それでも紛うことなき嫁入り前の娘、正真正銘の乙女である。

 

 で。

 

 その乙女が今、何をしてるかというと、

 

「オエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」

 

 吐いていた。凌天閣(りょうてんかく)の一六階、化粧室、その洗面台で。

 

「ボェエエエエエエエエエ! ウゴェエエエエエエエエ! ゲログロゴロブロェエエエッ!」

 

 盛大に。恥じらいもなく。躊躇(ためら)いもなく。

 

 しかも一通り吐き終え、肩で息をして落ち着くと……〝ピン!〟と人差し指と中指を立て、自分で自分の喉に突っ込む。

 

「オッフ‼ ゴッフ‼ ブロッホフロケ‼ ……オ、オ、オ………………オエェエエエエエエエ!」

 

 で、また吐き出した。既に何度か繰り返したのだろう。彼女の手は乙女にあるまじきことにゲロまみれだった。

 

 ――一応理由を述べておこう。

 

 神越ヒミコ、一九歳。さすがに食人嗜好(カニバリズム)ではない。その辺りの好みは多少嗜虐心が強いことさえ除けば、初心(うぶ)と言ってもいいくらい普通(ノーマル)だ。

 

 だからこうして無理やりに吐き出そうとしている。

 

 先ほど喰らった人肉を。

 

「【ふぁっく】……今日は人生で五本の指に入る厄日だぜ」

 

 憔悴しきった土気色の肌でヒミコはブツブツと呟く。玉手箱でも開けたのでは、と思わせるくらい短時間で衰えていた。目などまるで死人のようである。

 

 ――だがそれでも。彼女は一片も後悔していなかった。

 

 あの状況。()()()()しか勝機はなかったからである。

 

 そもそも最初の炸霊石の罠で二人しか仕留められなかった時点で分が悪かった。裏を返せば残りの敵は皆、あれだけ仲間を辱められてもなお怒りに我を任せぬ鉄の自制心を有する(あかし)に他ならない。

 

 玄人(プロ)だ。生き死にを生業(なりわい)とする玄人(プロ)

 

 次の一人を手にかけた際、ヒミコはそう確信する。あの時、彼女は回収していたコハクの黒装束を被り闇と煙に紛れていた。その上で、(やかま)しいことこの上ないあの玩具をあらぬ方へ投げ、注意を逸らし奇襲を仕掛けている。そこまでしてなお、敵は死に(ぎわ)にきっちり反撃してきた。巫術で強酸性の毒霧を散布したのである。幸い体表への直撃は免れたが、黒装束は破棄せざるを得なかった。

 

 この時点で事前に準備した罠や道具をすべて使い切る。

 

 にもかかわらず――敵はまだ三人。

 

 正面からぶつかればまず勝てない。ヒミコもまた〝鷹〟と同じ結論に帰着する。

 

 だから彼女は決心した。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 そのための食人だ。敵を恐怖に突き落とし、戦意を喪失させるための。

 

 敵が慣れ親しむ人対人の生き死にではなく――喰う者と喰われる者の異質な場と錯覚させ萎縮させるための。

 

 幸い、策は想像以上の効果を発揮した。三人の内二人を本来の実力の半分も出させぬ内に討ち取り、逃げ出した残り一人を背後から仕留めている。

 

 ――こうして彼女は生き延び、そして今再び、前へと進むのだった。

 

「チッ……あのクソ兄……ようやく返してきやがったか」

 

 ヒミコは手を洗い、懐中鈴を見る。

 

 先の戦いが始まる前、緋色の眼球についてノリトに問い合わせていた。しかし、異様に打ち込みの早い兄にしては珍しく中々返事がこない。そうこうしている内に先に敵と遭遇し、それが終わった今、ようやく返信を確認できたのである。

 

『ソレハ〝緋ノ目〟ダ』

 

 鈴文の冒頭にはそう書かれていた。

 

「は……?」

 

 ヒミコは続く一文を目にして、呆ける。

 

『カツテ処刑サレタ、()()()()()()()

 

 緋ノ君。第一次異海大戦以前に、この国を治めていた君主のことだ。緋ノ巫女を遥か上回る異次元の力を有していたらしい。誰でも知っている。尋常小学校の授業で習うような話だ。

 

 その緋ノ君の……目?

 

 緋ノ目?

 

 それだけで彼女の頭は短絡(ショート)寸前だったが、さらに衝撃的な内容が続いた。

 

『絶対ニ、絶対ニ、ソレヲ敵ニ渡シチャイケナイ。デナケレバ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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