第六十八話幻覚で魅せるもの
『何を言っているのかはわかりませんが、おそらくタイミング的にこの犬は貴女のものですね!今なら間違いでノルトラを使ってしまったことにできますが、いいかがですか?』
当然、彼女が話す言語はアラビア語。英語などしかできない賢花には分かるはずもない。
取り敢えず、何か言っているってことは効いているってことだよね。私の言語能力超えた言語話しているから何言っているかわかんないけど。
賢花は確かな手応えを感じながら、自らの能力である幻覚犬をセクメに仕向けていく。
『………………!分かりました。こちらに近づいてこないので別のノルトラかと思いましたが、この感じは間違いありません。貴女は忍び寄る死神ですね。私としては結構どうでも良かったんですが、組織としては貴女を捕まえておいたほうがいい気がしますね。では本気を出させてもらいましょう!』
そう言って、賢花に届かない言語で独り言を言ったセクメはノルトラを使おうと、一旦周りを見て放とうとするが、その時目に入ってしまった。
自分に噛みつく無数の狂った犬達を。
訓練された人間だったら噛まれた程度ではなんともならないが、相手は精神を害してくるノルトラによって精神に侵食して直接見えているもの。
よって、事実として体に噛みついてはいないし、物理的な攻撃も行われていないが、神経を惑わせて痛みを伴いながら精神を噛みちぎろうとはする。
『ああぁぁぁぁあああぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!』
実際には何も起こってはいないが、セクメの頭にはこの世で最も痛いとされるほどの激痛が伝達される。
因みに、これでも納豆菌を一回以上使用した場合とトントンくらいである。
賢花はセクメが動けない内にクヌムを回収しようとするが、いくら激痛を与えられているからと言っても、暗部組織。ただで終わってしまってはたまらないと思って、気合で賢花に向かって引き金を引く。
しかし、セクメが賢花だと認識していたものはただの壁で、実際には弾丸を無駄にするだけだった。
やっぱり、分かっていてもこのノルトラの力は強力だ。だから私が暴走してしまった時のことを考えると、ゾッとする。でも、糸縁はこれ以上の代償を払って私を守るために動いてくれている。
それに私は報いたい。それに、私がこのノルトラを使って、研究が進んだら糸縁が苦しまなくても良くなるかもしれない。だから、ここは頑張らないと。
そう思いつつ、存在しない賢花を打ち続けているセクメを無視して、クヌムをの前に立つ。
クヌムはお礼を言おうとするが、ノルトラが効いているのか、まだ体を動かせないでいた。
無理にでも体を動かしてこの部屋からの脱出を試みようとしているクヌムの様子から、何らかの事情によって動けないことを察した賢花は、クヌムを背負っていち早くその部屋から出て、ノルトラによって強化されている脚力を使って糸縁のところまで急ぐ。
――
見つからない。
賢花と別れて捜索することになった俺は脚力を全開にして捜していても、何か運命的なものが働いているかのように見つからないでいる。
そして、現在甲板だと言うのに人気が極端になかった場所があったため来ていると、ヤッチとアルマが戦闘している姿が見えた。
2人はパット見では消耗しているように見えて、戦っている相手である死神狩りのような怪しい格好をしているは疲労しているような素振りを取って入るものの、まだやれそうなやる気を感じる。
それでも納豆パワーがあれば対処できないといったことはない。
しかし、このまま2人が戦ってしまえば惨敗してしまうということはないだろうが、少なくとも大きな怪我を追っての勝利となるだろう。さすがに目の前でそんなことになってしまう親友を見捨てるわけにはいかない。
「ヤッチ!戦っているようだが加勢は必要か!?」
俺がそう叫ぶと、応戦していたヤッチはあまりの忙しさにこちらを向くことはなく、口を開けて、
「ええ!バトルジャンキー生活をしているただの納豆さんになら空気感だけで伝わるかもしれませんが、まさに苦労して倒したと思った敵が復活して、その応戦に手こずっているところですねぇ!応戦してくれませんか!」
「わかった!」
ヤッチの声を聞いた俺は今いる場所から助走をつけて飛び込むように怪しい格好をしたヤッチと交戦中の奴の元に殴り込む。
どうやら俺たちの会話を聞いていなかったのか、怪しい格好をした奴は一切の警戒をしておらず、俺のかすると想定して結構な力を込めていたパンチがクリーンヒットしてしまい、甲板上のものを破壊しかねない勢いで吹っ飛んでいく。
やり過ぎた。くそ、相手が思ったよりも不用心系の敵だったのを見破れなかったのは痛手だな。これ、後で請求来たらどうしよう。
そう思いつつも、俺は吹っ飛んだ怪しい格好をした奴のもとに向かって生存確認をする。
吹っ飛んだ先には倒れている怪しい格好をした近くでよく見ると死神狩りの格好に酷似している奴を見ていると。
死神狩りは立ち上がって俺にスタンガンを当ててきた。
俺は納豆糸を使って難なく受け止めて、死神狩りに当てて感電させる。
死神狩りの体には通常の人間なら耐えられないほどの電流が流れているのか、神経を電流がジャックして体をビクンと大きく痙攣させる。
『その納豆糸、間違いねえな。お前か納豆マンって奴は』
体を電流にジャックされて尚、死神狩りはしぶとく俺に話しかけてきた。
『それを知っているということは、お前も死神狩りなのか?』
『さすがの狂乱の納豆マンとは言えど、研究所の戦力だけあって、ここで渡り合うだけの最低限の知識は持っているらしい。ああ、俺はこの船に数多く乗っている死神狩り中の一人だ』
『べらべらと喋ってくれてありがとうございます。まあ、俺はここに来るまでもよくわからん似非SAMURAIを倒してきたので複数体いるのではないかとは思っていましたが、では』
そう言って、俺は拳を振り上げて完全に気絶させようとすると、背後から。
『間に合ったでござるな。死神狩りNo.3殿、死神狩りNo.2が助太刀に参ったで候。と思えばジャパニーズSAMURAIもどきもいるではありませんか、これは一体どんな因縁なんでしょうな~。とは言え、相手は拙者も一回は敗れた存在ゆえ、死神狩りの中でもそこそこの力を持つ拙者でもそこまでお薬にはたてないとは思いますが、いないよりいたほうが格段いいのは事実でありますから、ここは一度』
蘇った似非SAMURAIの無駄に長い話に耐えられなくなった俺はお約束を破って、殴りかかった。




