第六十三話船の上
ここは船の上、水の上で吹く風を感じながら俺達は車内で顕現していた圧倒的暇空間で負ってしまった、心の負傷を癒やしていた。
この船で富裕層お得意のプールがあるが、手頃な価格で乗れる関係上、観光客でごったがえしている為に俺は賢花と一緒にベランダでジュースを注文して飲んでいた。
「この船初めて乗ったけど、すごく眺めが良いね!この船でエジプト観光できたらすごく楽しいんだろうな〜」
「しかし、この船。値段がお手頃すぎて来年どころか、数年ぐらい予約が埋まっているぞ」
「じゃあ、なんで私達乗れているの?もしかしてまた研究施設特権を使ったの?」
「俺は一切関与していないし、そういうのは大体ミラさんに任せているから正しいかどうかは分からないが、多分そうだな」
「そうなんだ。話は変わるけど、このハイビスカスティーって飲み物とっても美味しいね。ハイビスカスって綺麗なだけなイメージがあったけど、こんなに美味しいなら普段から飲もうかな。なんだか落ち着く味だし」
「ハイビスカスか。前にハイビスカス入しそ納豆が売っていたから、食ってみたことはあるが、酸っぱいだけだった気がする。茶にしただけでそんなに良いものなのか?」
「うん、確かに酸っぱいけど、後からほのかな甘味とフルーティーな味わいが感じられてとっても美味しい」
「それじゃ、少し飲ませてくれないか?」
賢花はそう言うと笑顔で渡してそうとしたが、なにかに感づいたのか一瞬にして顔が赤くなる。
「ごめん、やっぱり無理」
「そうか、確かに残り少なそうだしな。野暮なことを聞いたな。じゃ、俺は新しく注文してくるから。あっ、でもここは変な感じがするからこれを渡しておく。振ったらすぐに相手を気絶させることが出来る鈍器に早変わりする。誰かが襲って来たときに使ってくれ」
そう言って、俺はハイビスカスティーの味を確かめるために売店へと向かった。
――
ハイビスカスティーの味を確かめるために売店へ向かっている頃。
同じ船には各地に撃墜班などのそれぞれの管轄の幹部を置いて、エジプトを牛耳ろうとしている犯罪組織アペプのマフィアの王、アポフィスもいた。
『やっぱり、この船はいいな〜。常に自らが先だと言わんばかりの人間で溢れていて、無秩序で、ただの一般人から極悪人までいる混沌、それでいてどこかきな臭い。まあ、きな臭いのは俺達のせいだが!』
とアポフィスは豪快に、高らかに、笑いながらそう言い、手に持っていたワインを一気に飲む。
そのあまりにも自らを、怪しい人間だと自称していると言わんばかりの行動にすっと現れた付添人が小声で苦言を呈す。
『…………ボス、あまり独り言で変なことを言うと怪しまれてしまいますよ。ここでは荒事は避けてただ移動するだけでしょう?』
『問題ない。なにせここには人で闇が生まれそうなくらいに人がいる。しかも、人種も個性も多様な連中が、だ。ここで俺が少し怪しい行動をとろうとも、他のもっと混沌とした奴に目が行く。だから、お前がそこまで心配する必要はないぞ!』
『しかし、ここには急遽SDМBVFの手のものが、我々が狙っている者を連れて乗船している、という情報が送られております。怪しい行動は極力控え、チャンスがあれば、王家の呪いのノルトラを保持するものを確保する方針が一番良いかと思われます』
その言葉にさっきまでは豪快に振る舞っていたアポフィスの顔から、一瞬にしてまるでこの世の全てがかかってこようが返り討ちにしてやるという笑みが消えた。今はただ広角が垂れ下がり、虚ろな目が目立つガタイの良い中年の姿になった。
『わかった。それではこの船に乗っている管轄の者たちと、こっちに来ている死神狩りを差し向けろ。俺はここで何かがあったときに待機しておく。大いに混沌を作れ』
――
アポフィス根回しをしている頃、八葉和人ことヤッチは糸縁と離れて一人で船の上を堪能していた。
「フー、やっぱり船の上はいいものですね~。こんな景色でただの納豆さんは賢花さんと二人っきりでデート。この言葉はあんまりナウい流行ではありませんけど、言いたくなりますね。リア充爆発しろ。と」
等と言いながら、スマホで虚無パズルゲームをポチポチと触って暇を紛らわしていると、意外な来客が現れた。
そう、アルマである。
えー、この状態でアルマちゃんと遭遇するとはこの俺の目を持ってしても不可能だったなー。
「どうしたんですか?もしかして車上でのことを詫びてほしいんですか?それなら、本当にすいませんでした」
「いや、別にそんなことは気にしていない。私ももう小さくはないからな。今回聞きたいのは、幼馴染である君から見たら糸縁と賢花の関係はどう見えるのかね?ということだ」
「そんなこと、俺に聞かなくてもわかるんじゃないですかね?あなたは名探偵なのでしょう?」
「確かに私の推理ではいろんなことがわかる。しかし、これだけはこの力では解決できないと思ってね。別にわからないなら、答えなくても結構だよ」
「いや、もうリア充な関係としか言えないでしょう。爆発すべき関係性」
「やはり、そうなのか…………」
俺の言葉を聞いたアルマは少し考え込むような姿勢をとって、まるで落胆するようにその言葉を吐いた。
ペスト仮面を被ってため息をしている不審者があまりにも不審だったのか、一人の男が近づいてきた。
『ここにはお前みたいな不審者は基本乗れないはずだ。何もかかわらず乗れている。もしかしてお前、SDМBVFの手のものか?』
その男はいつの時代の漫画のキャラクターか?と言いたくなるくらい体躯大きく、こちらを睨むように、なおかつ品定めをするように見てきた。
正直俺には言っていることはさっぱりだったが、敵対している人間だということは分かった。
「なるほど、ここでボス戦ですか」




