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第六十一話砂漠が囲むこの土地

 ここは砂漠。糸縁達は持ってきたテントを設営してすこし休んでいた時、クヌムはうたた寝をしていた。


 そして、彼は夢を見ていた。


『とりあえずの苦難を乗り越えるために、救援を呼ぶように言っておきましたが私はこのままではいけないと思います』


『ああ、分かっている。我が妻よ。しかし、今はその様に焦っている場合ではない。何しろ強力な力を持った連中に狙われているのだ。そんなに焦ってはこの戦いに負けてしまうぞ』


『でも、ここままだったら役目の前に別の国に輸送されてしまうわ。その前にこの国に巣食う害を取り除かないと』


 そこでは二人の金色の装飾品を身にまとった高貴な見た目をしている男女が話し合っていた。

 

『クヌム、あなたにはやってもらわないといけないことがあるのです。だから早くここから出るように言ってください』

 

『いや、今は我々を襲ってくる不埒者を対処するのが最優先だ。これは譲れない』


 ファラオと思われる存在がそう強く言うと、女王の方も反論する。

 

『あなたがそう言うなら仕方ありません。なら、私一人で巣食うものに対処します。あなたのミイラ、借りさせてもらいます』


 そう言って、女王は夢の空間から出ていって遠くから眺めているクヌムと王だけが残った。


『全く持って我妻は難儀な人間だ。眼の前に苦しんでいる人間がいれば、その先にいる多くの苦しむ人間が見えなる癖は相変わらずのようだ』


 そう独り言をぼやく王にクヌムは話しかけた。

  

『大丈夫なんですか?あの人は行ってしまいましたけど』


『これは、ナフヌ(私達)の依代ではないか、なにか不安になることでもあったのか?であれば、我の犬のミイラで対処するが』


『問題ありません。戦力であれば私を保護してくれている人間達が強力なので、わざわざあなたが力を振るう必要はないかと』


『左様か。ならなぜ我に話しかけてきた。そのまま黙っていればこの夢は終わっていたぞ』


『いえ、もう一人の方となにか話し合っていらっしゃる様子でしたので、少々興味が湧いてしまい。このようなことになっております』


『なるほど、気にするでない。あれは少々我と妻の意見が対立した故に分裂したまでのこと。すぐにでも帰って来るであろう』


『分かりました。そうおっしゃるのでしたらこの夢はここで終わらせていただきます』


『うむ、生き残れるように励むのだぞ。お主が最後の我々を保有できる人間だからな』


 クヌムは体に力を入れて、真っ黒い世界から抜けて現実の世界に戻る。


――


『ハッっ!』


 テントを立てるなり、疲れてもう動けなくなりベットにダイブする社畜のような動作をとって寝たクヌムが起きたようだ。


 テントを張っているとはいえ、こんな暑いところで寝るとは相当疲れが溜まっていたのだろうか。


『大丈夫か?少し悪夢から飛び起きたみたいな起き方だったが』


『問題ありません。ただ、明晰夢を見ていただけです。しかし、心配してくれたことに感謝します』

 

『そうか、それにしてもこんな弱火でじっくりな暑さの中でよく眠れるな。もしかして現地民はみんなこんな暑さのなか寝るのか?』


『いいえ、ナフヌ(私達)だけが特別なんです。他のみんなは文明化の煽りでエアコン無しではまともに寝られない現代人ボディー、ですね』


『ふ、こんな暑さ人間が長期間いられる場所じゃないからな。まあ、あまり明晰夢を見てもいいこと無いと聞いたことがある。納豆でも食べてゆっくりしておけ』


 そう言って、俺は納豆をクヌムの前に突き出して受け取るように促した。


『これは何でしょうか?なにか豆の様に見えますが』


『ああ、これは大豆を発酵させて最高&最強の栄養素を持った完全食にしたものなんだが、美味しいぞ』


『美味しいのですか、でしたら食べてみます』


 そう言って、クヌムは納豆を受け取って口いっぱいに頬張った。


 あまりに美味しすぎて、こんなものがこの世にあっていいのだろうかといった具合の表情を浮かべた後の飲み込んだ。

 

『独特な味ですね。しかし、この味で栄養価が高いならばこれからの食事に加えるのもありですね』


『ああ!是非毎日食べてくれ。納豆がなくて困ったときは俺に言ってくれ、いくらでも融通を利かす』


『それと、何かあったときに便利だからスマホで連絡先を交換しないか?』


『スマホ?なんですかそれは。あなたの言い分ではなにか情報を送るものに聞こえますが、そうなんですか』


 おっと、俺の人生の中で二番目クラスの浮世からバイバイ系人間だ。


『スマホと言うのはだな…………って、この話をする前に聞いておきたいことがあるんだが、電話は勿論知っているよな?』


『はい、それくらいは村育ちの私でもわかりますよ。アレですよね、遠くからの人間の声を届けるものですよね』


『ああ、で、スマホは持ち運びをできるようにして一つの端末に様々な機能をタッチ機能だけで実行できるようにするものだな。まあ、言葉を尽くして説明するよりも、実物を見たほうがわかりやすいとは思うが』


 そういって、俺は自分のスマホをクヌムに見せる。

 

『これは、凄いですね。高度な文明を感じます。わかりました。私はこんな高度な文明を示すようなものは持っていません』


『そうか、なら今はいいか。今度、施設にでも頼んだらどんなものを渡されるかわからないが、少なくともスマホはもらえるだろう』


『教えてくださり、ありがとうございます』


 そう言って、クヌムは俺に頭を下げてお礼をしてきた。

 

『いやいや、そんなかしこまった感謝なんていらないから。気楽にしていいぞ』

 

 そうやって俺がクヌムと親密度を高めるため会話をしていると、久しぶり…………と言うにはあまり時間は経っていないが、懐かしい声が聞こえた。


「やあ、無様にも砂漠で遭難して私に助けを求めた糸縁君。こんな暑いとこまで車を何台も持って迎えに来た私へなにか言うことがあるんじゃないかな?」


「こんな辺鄙へんぴなところまでご足労頂いて恐悦至極の限りです」


「よろしい。ならば早速みんなを私が持ってきた車に乗せなさい。保護対象をさっさと国外に連れ出して研究所まで連れて行くわよ」


 そう言いつつ、ミラは3台位のワイルドな車を指差した。


 その仕草に違和感を覚えた俺は少し質問をしてみることにした。


「ジェームさんはいないんですか?」


「ええ、この私は分裂体で本体から指示をもらって行動している感じだから、本体にぴったり密着で監視しているジェームがいるわけ無いわ」


「そうですか。ではありがたく乗らせていただきますね」


 俺達はミラの分裂体が用意した車に乗って北上していった。

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