第三十七話アルマの家族
推理によって、母親の居場所を特定して、糸縁達と別の方向に行ったアルマは現在九州のとある県に来ていた。
(さて、来たはいいが。本当にここで合っているのだろうか。占い的には間違いはなく、何かを見落としているとき特有のものは感じないから、大丈夫だと思うが、あとは)
アルマ自身、賢花に背中を押されてながら、不安で動けなくなっていた。
(どんな形、どんなことになろうとも会っておいたほうが絶対にいいことはわかる。だがやはり、そう簡単には私自身納得できないようだ)
そんな事を考えながら、祖母が住んでいるであろう家に歩みを進める。
途中で小腹がすいたのでうどん屋に立ち寄った。
因みにアルマは日本の店内でペスト仮面は流石にまずいか、と思ったので外した。
店内に入ってみると、素朴かつなんとなく見覚えがあるような店主が顔をのぞかせて、「へいらっしゃい!お好きな席にどうぞ!」と元気ハツラツに言う。
店内には常連らしき客がそこそこの数おり、若干居心地が悪かったが気にせずアルマは席に座った。
カウンターに置いてあったメニュー表を眺めて何がいいか考える。
(一応、日本に来るからには幾らかは日本円に変換してきたが、それでも散財できるような金額ではない。自重しなくては)
そんな事を考えつつ、えび天うどん、かき揚げうどん、肉うどん、きつねうどんとメニューを眺める。
(母からの教育の一環で、かろうじて日本語は読める。が、うどんというものは食べたことがないから、何を頼んだら良いのかわからないな。値段を見た限りでは最も値が張るものでも、そこまで財布は傷まない。よし、ここは店主に聞いておすすめのものを食べよう)
「すいません、今日のおすすめのメニューってありますか?」
「嬢ちゃん、外国人なのに日本語うまいね!おすすめ、か。そうだな〜今日は良い野菜が入っているから、サラダうどんなんてどうだ?」
「サラダうどん、野菜が入っているんですか?」
「ああ、美味しく野菜が取れる現代では嬉しいうどんだな。たとえ嬢ちゃんが野菜嫌いでも問題ないと思いますぜ」
「私はそこまで好き嫌いはありませんが、おすすめっていうのならそのサラダうどんでお願いします」
少々の待ち時間の後、サラダうどんが提供される。
そのサラダうどんは温野菜が使われており、ふよふよと湯気が上がっており、食欲をそそるものであった。
試しに一口だけ啜る。
「あちゃぃ」
と謎の言語を発してしまった。しかし、味はたしかに美味しいものだったので、猫舌を少々傷つけることになっても構わず啜る。
「嬢ちゃん良い食べっぷりだね!こんな見事なもの見せられたらサービスしたくなってくるな…………よし!」
アルマの座るカウンターに天ぷらの盛り合わせがのせられた。
「有難うございます!」
アルマはサラダうどんと天ぷらを存分に堪能し会計を済ませて店から出た。
(そういえば、調べてみて父の親戚は父が生きているうちに全員死んでいたらしいことが分かったが、母の方は全然調べていなかったな。私の占いが間違っていなければ、母方の祖父と祖母は生きているとは思うが、確か両親の結婚式の写真には父方の親戚には該当しない人物が数人いた。まだ生きていれば会えるかもしれない)
そう考えて歩を進めていると、ついにアルマの母親の実家に着いた。
しかし、まだ踏ん切りがついていないアルマにとって、一応は血族とはいえ当然のように入るのには結構な抵抗感があった。
なので、踏ん切りが着くまで家の周りをぐるぐる回ることにした。
傍から見たら、一昔前の探偵像を引きずったような衣装と、ペスト医師の仮面である。フランスでも大概ではあったが日本でも当然のごとく不審者のようにしか見えない。
このまま周回を続行していたら、間違いなく母の実家なのではなくパトカーか刑務所に入ることになるだろう。
そんな危険な状態を救ったものが現れた。さっき天ぷらをサービスしてもらったうどん屋の店主であった。
「変な仮面を被っているが、身なりから見てさっきの外国から来た嬢ちゃんか?なんでうちの姉ちゃんの家ぐるぐるしているんだい?」
「質問を質問で返すようですみません、霧坂心美という人には心覚えはないですか?」
「なんでうちの姉ちゃんの名前を………………なるほど。たしかに嬢ちゃんの顔はどことなく姉ちゃんに似ているが、これは間違いない。行方不明になった姉ちゃんの子供だな。それにしても、行方不明からよくここまでやってきたもんだ!さすが姉ちゃんの娘だ、すげえパワフルだ!」
「はい、確かに私の母を姉と呼ぶということは、貴方は私の叔父ですかね?」
「そうだな!確かに考えてみると姉ちゃんの面影もあるし、俺の姪だな!取り敢えず、今まであげれなかったお年玉渡すから中に入ってくれ」
アルマの「あ、いや、特段そんなことをしてもらう必要は…………」等と言ったが叔父には一切届いていなかったようで、問答無用で家の中に連行された。
家の中は時の流れを感じるような懐かしい雰囲気を持った内装で、アルマが嗅いだことのある匂いがした。
叔父に引っ張られながら廊下を歩いてどこかの部屋に向かっている途中、足音に感づいたのか年配の女性が扉を開けて出てきた。
「帰ってきてたの信朗、帰ってくるなら一本電話くらい入れてくれてもいいのに、あんたはいつもかけないわね。いい加減に突然返ってくる癖やめなさい」
「わかったよ母さん、それより、ついに姉ちゃんの子が帰ってきたんだ」
「え!?どこだい?」
アルマの祖母は辺りを見渡し、すぐにペスト仮面を被ったアルマを発見した。
「もしかしてこの子の事かい?被り物してるからあんまり顔はわからないけど、確かにちっちゃい頃の心美に似たものがあるね。ちょっとその仮面外してごらん?」
アルマはゆっくりと仮面を外す。そして、母である霧坂心美に似ている顔を露出する。
「…………ぉお!前に見せてもらった写真の面影があるねえ。本当に心美の子じゃないか。よくきたねぇ、今はそんな良いものないけどマンゴーでも食べていって、ここまでにくるまで疲れたでしょ?今日は泊まっていきな。ちょうど客間を掃除したばっかりだったから、タイミングが良いね」
あまりに多くの事をまくしたてるように言われたのでアルマは若干混乱状態でやんわりと断ろうとする。
「いや、私はそこまでお世話になるつもりで来たわけでは…………」
心の中で揺れる。
「いいんだよ。あんたは私の初孫なんだから何も言わないでも元気にしているだけでいいんだから!それにあんたの母さんも最近あったパリの事件で心配してたんだから、顔を見せなよ」
最後の一言によって、アルマの母に対する偏見が解かれ、アルマの顔を穏やかなものとした。
そして元気よく、
「はい!」
と、返事をして祖母の後をついて行った。
その後、アルマは母と再会したり、親戚の人と交流などをして心を休めた。
そして、自分はまだ一人じゃなかったことを思い出した。