第二十一話顕現!納豆男!
おかしい。
なんで私、涙が、止まらなくなっているんだ?
そうか、私が自分の手で復讐すらできずに挙句の果てには殺されかけている不甲斐なさのせいか。
ミラの分裂体としか言いようのないものに守られて、考える。
でも、それだけじゃない。
他にも絶対、私を支配しているものがある。
推理で出たバルティスがこれからなそうとしている、とても非人道的で残酷なことか?
死に対する人間としてはごく当たり前なことである恐怖か?
母が父と離婚して私どころか、父にも一切会いに来なかったことか?
いや、父さんへの後悔だ。
あんなことになるなら、無理に大人ぶって父の迷惑になるかもと思っていたわがままをもっと言って、もっと父の暖かさを感じたかった。
でも、仮に今あの頃に戻っても、私は、偶に訪ねてきた父に救われた人たちを見て、昔と同じことしかできないだろう。
だから私は今父の仇を取ろうとしている。
でも、私の力は微量で全然、刃が立たない。その事が悔しくてたまらない。
依然として涙は流れ続ける。
涙の量を増やしていると、肉の障壁の外から何やら私を見つけようとミラの分裂体をどかしている音がする。
このままじゃ駄目だ。父に対する後悔を解消する前に終わってしまう。
分裂体をどかすのが進んでいるのか外の音が、先程よりも大きく聞こえて、もう余り時間がないのを悟る。
どうしよう!!!このままだったら――――――
幼い部分が心のなかで露呈した瞬間、バルティスが私の腕を掴んで分裂体の中から引き出した。
私はこの実に無念な状況を変えて欲しいという気持ちが先行してつい、
誰か…………………………………………助けて!
と心の中で叫けんでしまうと、それを察知できるはずはないのに、まるで私の心叫びを感じ取ってくれたようなタイミングで日本語が聞こえてきた。
「納豆ラーニングの時間だ!」
――
俺は賢花か送られてきた地図を見て、達筆とも言えなくない感じで書かれていた目印のもとに向かった。
着くと何やら、集合体恐怖症には厳しそうなくらいのミラのノルトラで作ったであろう者の塊と中二病ぽい奴がアルマの腕を掴んでいたので、取り敢えず、右ストレートで殴ることにした。
俺の右ストレートが推定犯罪組織バルクの長にヒットすると、吹っ飛び、アルマを放したので急いでキャッチして丁重に地面に横たわらせる。
「アルマ、立てるか?後、俺がさっき殴った奴って犯罪組織バルクの長か?」
「うん、あいつはちゃんと犯罪組織バルクの長で名前はバルティス」
アルマは力が抜けたような動作で立ち上がる。
「雰囲気変わったか?いや、俺の気の所為ならいいんだが」
「気にしないで…………、それより、今はバルティスを…………」
「それもそうだな、今回の件の黒幕だからな。さっさと倒して笑顔で帰宅だ。よっし、相手は別に手加減を間違っても良さそうな相手だし、やってみたかったアレ、やるか。アルマ見とけよ、納豆の勇姿を」
俺は拾ったガスマスクを、ゆっくりでもしっかり顔に被せる。
被せたと同時に体全から納豆糸を出して、編み込むようにして納豆布をガスマスクの目の所以外を何重にも覆う。
装飾を足しながら、最後に、ガスマスクの目の部分に納豆糸を張り巡らせ。
完成する。
「これが、納豆が最強である所以の一つ、納豆糸を鎧としてまといつつ、糸を体に貼り付け、無理やり動かすことによって、本来ではできない動きを実現する一石二鳥の技。名付けて、『ナットマン』といったところか」
準備もできたしやるかと、バルティスを吹っ飛ばした方向を見てみると、ちょうどいいことに戻って来ていた。
今度は左手を振り上げ、踏み込み突っ込む。
それに対して、バルティスはノルトラを使おうとしたのか、嚔をしようとしていたが、俺が拳を喉の方に振るうとキャンセルされたように押し込める。
「糸縁!バルティスは嚔をしてエンテロウイルスを蔓延させて、相手の意識を奪う。気を付けて」
「了解」
そのまま俺は、勢いをつけてドロップキックをお見舞いする。
バルティアは何もできずに無様に吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ先に納豆糸で体を動かして即座に移動して、バルティアを空中にいる状態で連打する。
なんだ。ノルトラも全然強くないし、思ったより弱いな。これだったら次の一撃で沈めて口に納豆をぶち込んで終いにするか。
最後にヤクザキックを入れようとすると、
「糸縁、危ない!」
とアルマの警鐘を鳴らすような声が聞こえ、その次のときには後頭部から何かぶつかった音がした。
確認してみると、
「銃弾か、しかもこの感じスナイパーライフルとかで使われるやつだな」
大口径弾がそこそこ深く突き刺さっていた。
「………………」
なるほど、銃か。ここは日本じゃないし、高い確率でどこからともなく飛んでくるのは、考慮していなかったな。
それにしても他にもいるとはな、まあ今の一撃下どこにいるかは分かったからさっさと、バルティスを排除していくか。
俺は地面に落ちて惨めったらしく這っているバルティスに、蹴りと口に準日本産安心安全(笑)納豆を入れた。
バルティスは美味しさの余り、感動感謝の乱舞を舞いウジのようにのたうち回った。
「納豆は素晴らしいだろ?おら、美味しいって言えよ」
「糸縁………………そいつ日本語通じない」
「知っている」
俺は絶対に吐き出させないように納豆糸でマスクを作り被せる。
喉殴ったことで、うまく納豆が通らなくなっていたが、無理矢理にでも突っ込む。
そのままの状態で、俺は、ペスト医師の仮面が剥がれ、なにか雰囲気が変わって目を潤ませていたアルマに話しかける。
「アルマ、ところでだが、動けるか?」
「うん、一応は…………」
「そうか。じゃ、もうすぐ賢花が来るから。賢花と一緒に逃げろ」
「嫌だ、父の仇を自分で殺せず。何もできないまま帰るなんて」
「そうだったな。それじゃ、流石に殺すことはできないから。今、一発殴っておけ。大丈夫、お前の殴るところは隠して、証拠は抹消してやるから罪には問われない。思いっきりやれ」
身に纏っていた納豆布一層だけ剥がし、それで辺りを覆う。
「ありがとう、糸縁」
覆い終わったあと、小さな足音と、グパァァァンという何かと何かが、ぶつかった音がした。
…………運動はストレス解消にもってこいだからな。




