第十九話ペストの本領
『やっと見つけた』
少し曇り空でジェームが倒れている場に、とある者がたどり着いた。
父から受け継いだペストマスクと、探偵服の奇跡のコラボゼーションによって、生まれた特徴的な衣装を纏った者が犯罪組織バルクの長に話しかける。
『お前は…………………………誰だ?』
犯罪組織バルクの長がその姿を見るのは、数年もの前のことである上に、見た時間もたった一瞬出会ったため、全然といってもいいほど記憶にないのも不思議ではない。
『やはり、覚えていないか。別にそんなものは一切気にしていないので構わないが』
吐き捨てるように憎悪がこもった声を吐く。
アルマはノルトラペスト菌を使って、犯罪組織バルクの長の四肢に紫斑を浮かび上がらせる。
『お前誰だったけな。あー、しかし、覚えてるような気がするどこのどいつだったか、まぁ、革命することには変わりは一切ないし、放置で構わないか』
『犯罪組織バルクの長、バルティス。私はお前を殺す』
そう言って、ノルトラペスト菌の能力を第二段階まで移行させて、バルティスの動きを止める。
(ここまで、接近したんだ。あいつの身体情報が揃った、きっと今なら………………!)
アルマはバルティスに必要以上近づかないようにしながら推理を開始する。
その間、バルティスはエンテロウイルスのノルトラは使わず、中二病らしい不敵な笑みでアルマの次の手を待つ。
二人の間で奇妙な空気が流れる。
アルマは推理で大げさな動きをする間に、隠し持っていたピストルに玉を装填する。
一分を超えた辺りでバルティスは暇になって、もういいかと銃を取り出した時、
アルマの推理は通常以上の速さで、答えを導き出して終了した。
(………………よし!分かった!)
『お前のノルトラはEnterovirusだな』
アルマが放った言葉は、バルティスの意表をつくと思ったが、実際にはそんなことはなく飄々としている。
『…………だからなんだ?そんなもので俺を理解したつもりか?』
(ちっ、思ったよりも反応が薄い。まあいい、最悪ノルトラが進行する時間を稼げれば)
『エンテロウイルスの症状は急性上気道炎、ヘルパンギーナ、無菌性髄膜炎、急性脳脊髄炎、急性灰白髄炎、出血性結膜炎など。そこに倒れてる同業者の様なもの達の状態から察するに、お前のノルトラの能力は急性脳脊髄炎型だね』
さっきまで、飄々としていた姿から、少々深刻そうな顔に変化する。
『なるほど、最近の観客は勘ぐりが得意だな』
『つまり、私の推理は当たっていたと?』
銃弾の詰め忘れはないかと確認しながら、アルマは考える。
(私が持っているのはギャングから拝借したMAB PA-15。装填数は15、奇しくも、一発でも多いほうがいいと思い一発も練習に使わずに集めた玉の数も、15。少々心もとない気もするが、今はこれしかない)
アルマは銃を取り出してバルティスに向けて、引き金に指をかける。
『どうだろうな。それでは、ここでショーは終いだ……………………おっと』
バルティスはノルトラを使おうとすると、体が動かないのに気づいた。
『まあ、もう時間は稼げた。それじゃ、さようなら』
アルマは素早く引き金を連続で引く。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15。
一から五発目は、練習をせず慣れないせいか見事に明後日の方向に飛んでく。
六から十発は、かろうじて当たったが、決定打には到底なり得ないところにしか当たらず。
十一から十四発目は、胴体に命中した、が。
(このなにか、違和感のある音だ。ただの布にあったような音じゃない、想定より着弾時になる音小さかった。恐らく分散させている音だ)
まだ仕留めきれてはいないと判断したアルマは急いで、銃をバルティスの頭部に向かって投擲する。
銃はちゃんとバルティスの頭部に命中したが、当たりどころが悪かったのか、少々痛そうにするだけでそれ以上は何もなかった。
『ふふふ、まあ少しは楽しかったぞ。ペスト仮面探偵もどき。だが、お前は出過ぎた、革命を阻止しようとするのであれば、眠ってもらう。冥土の土産だ、私のステージの違うエンテロウイルスの能力を見せてやる』
バルティスが、深く息を吸い込んで何かを吐き出すような動作をする。
『お前の好きにはさせない!』
現在のアルマとバルティスの距離は直線で13メートル。
残された時間は数秒あればラッキーなくらいな微かなもの。
スタンガンを懐から取り出し電源を入れて、姿勢をかがめてバルティスのもとに向かう。
少しでも遅ければ死ぬような覚悟で、スタンガンを構えて走る。
残り10メートル、バルティスが少しのけぞりチャージする。
残り8メートル、口角が引きつったように動く。
残り5メートル――――――――新幹線もかくやという速度を孕んだ嚔が放たれた。
5メートルという距離では、もう体制を崩して無理矢理にでもスタンガンを当てるという芸当も難しい。
だからといって、先程のように投擲するにしても、現在は屈んでいる体制でとても投擲に向いている姿勢とは言えなく。
アルマの考える限りの詰みの状況が揃っていた。
(くそっ、もうどうしょうもない!もう諦めるしかないのか…………)
推理と同じ要領で思考を加速させて、他の案を模索したが駄目で何も思いつかず諦めようとした瞬間。
複数人の人間がアルマの前に肉壁になる形で立つ。
『中二病が、良くも私の使い勝手のいい相棒に手を出してくれたわね』
正体はミラだ。
ミラの分身体はエンテロウイルスの能力をくらい倒れてしまったが、最初の分体を皮切りにどんどん屋上に集まってくる。
そのうちの一人がアルマの下に駆けつける。
『遅くなったわね。そこそこ詳し居場所の特定とこの状態をみる限り戦闘も訓練したらかなりいけるクチかしら。今回の多彩に活躍した功績はもし私達と同じチームになりたいって言うなら、好待遇で引き抜くに値するわ』
言い終えたあと分体の一人もバルティアに向いてピストルを構える。
そして、どこかにいるはずの本体から指令が飛んできて、一斉にピストルの弾丸が飛ぶ。
弾丸は一切ブレることなくバルティアの脇腹に着弾する。
バルティアは防弾チョキを着ているため、あまりダメージを負わなかった。
『防弾チョッキね。ならコレ』
ミラは鈍器がついている刺股を取り出して、一斉に飛びかかり取り押さえようとする。
『ふ、ふ、ふ、これを使うとどんなことになるかわからないが、この高鳴りに変えられるものもなかなかない!やってやる!俺にヤれ!!!ウズ!!!』
バルティアが叫んだ瞬間、どこからともなく数発の注射弾が四方から飛んできて四肢の静脈に命中する。