第十七話突き止めた場所
ミラとジェームは、車に乗りパリに向かってかっ飛ばしていた。
「いや、交通ルールに則って運転しろよ!」
「大丈夫!ここは中央分離帯のある一般道だからフランスの法定速度的に110キロは出していい」
車のスピードメーターは120キロを指していた。
「もういい………………お前に法定速度を守った運転ができると思っていた俺が間違っていた」
「そんなこと言って大丈夫?今は犯罪組織バルクの長を取り押さえないといけない緊急事態だよ?仕方ないんだよ、ここで急がなかったら多くの人の命に関わるんだよ?」
「正論言って、まともごっこしているところ大変恐縮だが、運よく助かっただけで銀行に突撃しただろ、俺に運転を代われ」
「いやだ」
「知ってた」
車は加速して、パリのエッフェル塔が見える所まで突っ走る。
「それで、なんで今エッフェル塔に向かっているんだ?」
「ジェームが聞いた電話の内容の通りだったら、犯罪組織バルクの長は厨二病で相当な目立ちたがりだと思う。そしてそんな存在は、ちまちま確実に目立たないところで暗躍するなんてことは、考えられない。つまり、一時期は世界一高い人工物ともされた、フランスで最も有名なエッフェル塔の近くにいるんじゃないかということだよ」
「そうか、そうかも知れないな……………………それで、どんな感じで取り押さえる?」
「現地着いたら、私が酒を飲んで分裂するから三人くらいそっちに渡すから、肉の壁にして犯罪組織バルクの長を見つけたらそっちの能力で無効化して、私は別で行動して各地で暴れている奴を倒してくるから。その他はアドリブでなんとかして」
「了解、久々にハードそうな案件だから、油断するなよ」
「へいへい。分かったわよ、でもそんなに意気込まなくても大丈夫よ、なにせ、酵母菌は最強なんだから」
「それもそうだな。乳酸菌は最強だからな」
その会話から数十分後、エッフェル塔周辺に着いた。
「よし、着いたわよ。ジェーム降りて」
「ミラの暴走運転した車が事故らなかったなんて……………………神に感謝だな」
「私が事故ったことは今と過去を合算しても1回しかないんだけど」
「いや、犯罪組織を潰すときに滅茶苦茶事故ってたじゃねぇか」
「普段と変わらないし、ほっといたら何しでかすかわからない犯罪組織を処分できて、悪い出来事じゃなかったから事故とカウントしないんだよ」
「………………お前の中の交通ルールは安全第一じゃなくて、目的遂行第一だったな」
「何を言っているの?目的を達することこそが物事で一番肝要であると思うんだけれど、そんなことより、行くわよ」
「りょ」
ミラはジェームに数体の分裂体を預けてその場を去った。
(さて、犯罪組織バルクの長がにしても厨二病か、で、あいつはエッフェル塔の近くにいるんじゃないかと言っているが、確かに俺もそう思う。でも、ひとつ見解が違うところがあるな。
大概の場合厨二病は高いところが好き)
ジェームはミラの考察と偏見でまるで最初から分かったような山勘でエッフェル塔の近くにあるビルの中に入っていく。
中に入ると、ジェームが引き連れている全くもって同じ顔のミラの分裂体3体を見て驚く人が現れ、従業員が寄ってくる。
『あの、本日はいかなる用事でしょうか?』
『すまないが、SDМBVFだ。ここに怪しい人物がいると聞いて保護しに来た。時間が惜しいから通してもらうぞ』
そう言って、ジェームはミラの分裂体をボディーガードーのように引き連れて非常階段に向かって走る。
従業員が追ってきたが完全に振り切り、非常階段にたどり着いて登り始める。
5人という人数と急いで登っている為に金属製の非常階段を鳴らす。
鳴らす音を大きくしながら、順調に十階、二十階、三十階と登っていくと、
犯罪組織バルクの構成員の一人があまりの階段の音に急いで降りてきた。
『ビンゴと言ったところか。さて、邪悪なジェントルマンにはどいてもらおうか』
ジェームはどこからともなく刺股を取り出して構える。
『俺のInfluenza D virusで帰ってもらう』
構成員は銃を片手にジェームに向かって来たが、鋭い刺股の突きで腹を的確に突かれた為停止して、ジェームに捕まる。
だが、構成員は1ミリも焦っているようには見えず、むしろ笑って口を開く。
『Influenza D virusの能力発動条件は対象に咳がかかったで部分触れることだ!つまりお前は終わったんだよ!これから、すぐに血反吐を吐くような咳がお前を襲う』
構成員は迫真な声でジェームに自身の能力をひけらかすが、
『うわ、汚ねぇ』
当の本人は一切気に留めることはなかった。
ジェームは自分自身に乳酸菌の能力を使ってInfluenza D virusの効果を無効化する。
そして、ミラの分裂体と共にボコボコにして拘束し、上に上がっていく。
その後Influenza D virusの構成員と似たような取るに足らないノルトラの構成員が現れたが、乳酸菌のノルトラ無効化で難なく登れた。
――
ビルの最上階、空は晴れており平和な時であればピクニック日和であると思うような天気だ。
階層は50階以上、エッフェル塔がとても良く見え、様々なものに余裕がある人間に似合う景色が広がっていた。
ジェームが出てきた階段からちょうど真反対の位置に一人の男がいる。
男はジェームを感知したのかはわからないが、屋上にいる人数が増えた瞬間、咳や嚔をする。
その見た目は限りなく緑に近い黒のロングコートを纏い、下は無難なズボンで、縁が金色の悪趣味なサングラスをかけて下々の様子を見ている。
『ハッハッ。怠惰に生きているだけのこいつらは後数時間で革命の炎を見ることになると思うと、ワクワクが止まらない!』
その言葉を聞いた途端、ジェームの鼓動が早くなり犯罪組織バルクの長に向かって、ミラの分裂体を肉壁にして突撃する。
『させねぇよ!』
しかし、突撃したジェームは犯罪組織バルクの長の半径10メートルに接近した途端、目が眩み、地面に倒れる。
それに連動するようにミラの分裂体も突っ込んでいくが、ジェームの二の舞だ。
(くそ!なぜか体が動かねぇ!ノルトラの影響なら乳酸菌が無効化するはずだ。つまり毒か?………………いやもう、そんなこと考えることができないくらいに頭が……………………)
ジェームは意識を手放した。
『これがちっぽけな制約の恐れをなくしたEnterovirusの力…………!!!素晴らしい!今のは呼吸程度に展開しただけなんだが、ここまでだとは。さて、雑魚は片付けた。抜け殻は放置だ。さて、ここからまた新たな客人が来るかもしれない。革命が終わるまで丁重に眠ってもらうため今は、他の他所の連中に一任しよう』
犯罪組織バルクの長は嗤う。
ところ変わってエッフェル塔の近くにいたミラは分裂体越しに犯罪組織バルクの長を見ていた。
「なるほどね…………………………これは面倒なことになりそうだ」
ミラは相棒の敗北を見て憂う。