第一話納豆菌を持つ者
「くらえー!C型インフルパンチ!」
そう叫びながら近所の子供はもう一人の子供に向かって、人体菌病毒因子化症候群C型インフルエンザウイルスの能力である身体強化を使ったパンチを繰り出す。
もう一人の子供は、飛んでくるパンチをノルトラB型インフルエンザウイルスの能力防御力強化を使い防ごうとする。
「負けないぞ!B型インフルガード!」
流石にその状況を見かねた俺は、その子供に向かって俺のノルトラ納豆菌の能力である粘着性のある糸のようなものを射出して、その争いを止めた。
「こらこら、良い子がノルトラなんて物騒なもので遊ぶんじゃありません。大人しく納豆でも食って、ゲームで遊んでなさい」
「うあー!かからないはずの納豆菌にかかって、クラスでヤバいって言われた納豆男じゃないかー!逃げろ!」
そう言って子供達は俺から逃げるように帰っていった。
「全く、ノルトラは遊び道具じゃねぇよ。近頃の子供は遊びでノルトラなんて下手したら骨折してしまうもの使うなんて、本当に嘆かわしい」
人体菌病毒因子化症候群とは、一ヶ月前から全人類が罹った病気のことだ。
その症状は罹った病気の元である細菌やウイルスによるが、俺の場合は納豆菌。
なので身体能力・強度強化と粘着性のある糸もどき、納豆糸を体の何処からでも、ほぼ制限なく出せるというもの。この様に罹った細菌やウイルスの特徴ぽいものを使えるようになる。
しかも、罹った細菌やウイルスに対してとてつもなく強い抗体がついて、その病気に一生レベルで罹らないという嬉しいおまけ付き。
というたまにケモミミが生えている人がいたりするが、殆どの人にはデメリットがほぼない病気こと、ノルトラに全人類が罹った事によって、世界は大きく動いた。
俺が今住む日本では、まだ深刻化はしていないが、海外となるとマフィア等の反社会組織が活発に暴れ出しているらしい。
しかも、元々内乱などをしていた地域もその争いは勢い増し、新しい内乱も増えてきている。その他にも国同士が戦争を起こそうとしていたりする為、途轍もなくきな臭くなっていた。
このきな臭過ぎる情勢ではままではいけないということで、世界が一丸となり、凶悪化するマフィアなどに対抗する様々な組織を作っているらしいが、ニュースなどを見る限り、あまり上手くはいっていないらしい。
俺はノルトラを使っていた危ない子供達がいた公園を離れ、本来の目的の場所であるショッピングモールに来ていた。
食品売場に向かっている最中、「あっ。ただの納豆じゃん!」と大きな声で呼んでいる声が聞こえた。
俺を呼んでいるのは誰だと、聞こえた方向に視線をやる。そして、俺の目には俺の友人である八葉和人が手を振っている様子が写った。
「ヤッチ。あんまこういう何処で大きな声で呼ぶのやめてくれないか?」
「あー、すまんすまん。いつも外では見かけないただの納豆さんを見たらつい、テンションが上がっててしまって」
「人を引きこもり型ツチノコか何かだと思ってるのか?それにしても、大の18歳が子供のように大声で呼ぶのは無いだろ」
「次から気をつけるわ。それにしても、ただの納豆さんはこんなショッピングモールに何しに来た訳なんだ?」
「テレビで納豆が健康に良いとかいう、分かりきったことが放送されて近所のスーパーから納豆がマジックみたいに消えたから、わざわざここに来た。俺からも言うが、ヤッチは何をしに来たんだ?」
「俺は久しぶりにアーケードゲームがやりたくなったから来た。いやぁ、ただの納豆はノルトラの影響で納豆を食べると、強い腹痛、強い吐き気がするのに、よくもまぁ、そんなに好きでいられるなぁ……と。納豆に一途すぎない?もう納豆と結婚すればいいと思う」
「結婚か………………それも良いかもな」
「じょ、冗談、……だよな?」
「どう捉えるかは、ヤッチ次第だ」
そう言って、俺はヤッチに向かって手を振りながら食品コーナに向い、目当ての納豆を最後の一個をギリギリ買うことが出来た。
やっぱり、テレビの健康関連のポジキャン効果はかなりエグい。それ限定の食糧難が起こったと錯覚させてくる。
ともあれ目的は達したから、俺は納豆が入ったレジ袋をぶら下げ家まで帰ることにした。
しかし、帰る途中でサングラにジャージのヤンキーに遭遇して、路地裏に連れられてしまった。
「兄ちゃん、金持ってるよね?」
「すまないが、さっき納豆を買ったから一銭も無い」
「嘘つくなよ、兄ちゃん?ちょっとジャンプしてみろよ。逆らったらワイのYellow fevervirus,YFVが火ぃぃ吹くで」
俺はヤンキーの感情を逆撫でしないように、ジャンプする。
その結果、チャリンチリン、と俺の鞄の中に入っていたものが掠れた音がその場に響く。
「兄ちゃん、兄ちゃん、いけねぇぇぇなぁ?嘘つくなんて?でも、ワイは優しいから今から財布の中身全部くれたら許したるよ?ほら、早く出せや」
なんだコイツ、ヤンキーなのに滅茶苦茶ヤクザじゃねぇか。
たが不味いことになった、俺は本当に手持ちがない。すなわち、渡す金が無い。本当だったら、こんな奴は最強の納豆菌パワーでボコボコに出来る。
しかし、今の俺は腹がくっっっっそ痛いから、ここから動けねぇ。どうすれば……。
「どうした?兄ちゃん腹でも痛いのか?」
ああそうだよ、大正解だ!死ぬほど痛いよ。だから、さっとトイレに行かせやがれ!
「何ならワイが取ってやるさかいバック貸せや」
方言ゴッチャじゃねぇか。
そんなしょうもないツッコミを入れているとヤンキーは俺の鞄の中を漁りだし、俺の納豆キーホルダーを取り出す。
「何だ、この悪趣味なキーホルダー?」
………………今、……納豆を侮辱したな?ぶっ殺す!!!
納豆糸を出そうとした瞬間。
一人の女性の声が聞こえた。
「そこのヤンキー!糸縁を離して!」
俺が誰だと思いその声の主の方向を見る。
そこに居たのは俺の幼馴染であり、黒髪ロング黒目の同じ高校に通う同級生の信仁賢花だった。
賢花の頭を見た瞬間、ヤンキーはものすごい形相になった。
「この犬耳は!!!忍び寄る死神だ!こ、殺される!に、逃げねぇと!」
そう言いつつも、脱兎のような速さでヤンキーは何処かに行った。
「大丈夫?糸縁」
「ああ、大丈夫じゃない、今すぐにでもトイレに行かないと爆発する」
「それじゃあ、いってらっしゃい」
賢花のいってらっしゃいを聞きながら俺はコンビニのトイレに駆け込んだ。