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夏の日陰  作者: ねみさん
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第一話

疲れた。ペンを置き、頭上で手を組み背中を伸ばす。壁に目をやると、時計の針は夜中の3時を指していた。もう寝なきゃ。数年前までは肌に気を遣い決まった時刻に寝る努力を惜しまなかったはずなのに、気づけばこんな生活になってしまった。正直もう何も頑張りたくない。こんな時間まで机とにらめっこして、なにか報酬をもらえるわけでもないのに、こんなことをあとどれくらい続ければ私は報われるのだろう。頭痛がする。呼吸が苦しい。ああ、またこれだ。ストレスをためすぎると人は簡単に体を壊す。インターネットやテレビで嫌というほど目にしてきた言葉。自殺という選択肢。少し乱暴にペンを手にして、拳に力を入れる。これを喉に刺してしまえば。誰にだって想像できるその結末は、安易に現実に起こせるようなことではない。食事をとらなくては…。明日もまた朝からバイトがあるし、食事をする時間が惜しい。けれど食事を抜けば、脳みそは簡単に仕事を放棄する。動くのだるいな…。そんな事を考えているうちに気づけばもう30分も経っている。はあ。この30分を睡眠に当てるべきだった。後悔は反省に変わり、ペンを置く。簡単でいいからなにか食べよう。私は立ち上がりキッチンへと向かった。ぱた、と冷蔵庫を開ける。あまりにも質素なその中身に思わずため息が出る。はあ。今日何回目のため息だろう。せめて美味しいものでも食べて元気が出れば良いのだけれど、正直何も食べたくない。空腹を満たすためだけの食事は、あまりにも空虚なものだと知っている。美味しい、という幸せを得るために努力を今までずっと惜しまなかった。手頃な食材から、スーパーでは手に入らないような珍しい食材まで試したし、レシピサイトに張り付き、山程のレシピも試した。そんな努力も虚しく、とうとう今の私が美味しいと思えるものはこの世には存在しなかった。まあ空腹をしのげさえすればいいか。そう思い、冷凍庫から冷凍のうどんを取り出しレンジに入れる。ぴ、ぴっと手慣れた操作で温める。もう片手ではスマホのロックを解除していた。そういえば、ココ数日誰にもメッセージを返せていない。迷惑かけちゃったかもな。そう思いメッセージアプリを開く。期待とは裏腹に、メッセージの通知は2件。体調を崩しドタキャンしてしまったことへの謝罪への返信。そしてもう一件は母からだった。めずらしいな、なんだろ?…チャット欄を開くと、体調を心配するメッセージに加え、帰省を促す内容が書かれていた。帰省…?そうか。もう8月だもの。ほぼ家から出ず、家に引きこもりきりだった私からは季節感が失われ、完全に忘れていたが、日本は今夏真っ盛りだ。ココ数年、忙しすぎて断り続けていた帰省も、たまにはするべきかもしれない。親のありがたみを忘れたわけではないが、親族の集まりは少し気まずくて、いかんせん先延ばしにしてしまいがちだった。気分転換もかねて一度田舎に帰ろう。そう決心し、母へ返信した。「久しぶり!体調はまあまあ。何かあったらすぐ医者にかかるから安心してよ!帰省の件だけど、今年は少し余裕があるから、今のうちにいっちゃおうとおもう!親族のみんなはもういるんだよね?バスとかの予約が取れ次第、また連絡する!」タイピングが終わると、ちょうどピーッピーッとレンジの音がした。うどんを取り出しつゆをかけ、机に運ぶ。きっと誰にも理解されないだろうが、食事を作業として考えれば、そこまで気は重くない。いただきます、と手を合わせ、手早く食事をとる。

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