表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/113

第97話 ジークリンデ、ちょっと勇気を出す

「それなら──採りに行くか?」

「採りに? 何をだ」


 ある日の晩。

 リビングで、リリィが授業でコーラル・クリスタルを破壊せしめたことをジークリンデに自慢していた時のことだった。


「コーラル・クリスタルだ。いくらお前でも5000万は大金だろう。それに──今となっては私も無関係ではないからな」


 ジークリンデは僅かに頬を赤らめながらそんなことを言い出した。意図が分からず俺は聞き返す。


「無関係じゃない? どういうことだ?」


 今回の責任は確実に俺にあると思うが。


 …………まさか、お金が足りずジークリンデに借りようとしてると思われてるのか?

 流石に学生の頃とは違う。5000万くらい余裕で払えるぞ。


「いや……あのだな……えーっと…………私はお前の……妻、だろう。妻、なんだよな? であるからだな、つまり──」

「ああ、つまり俺の出費はお前の出費でもある、と、そういうことが言いたいのか?」

「そっ、そうだ! ま、まあ別に私が払ってやってもいいんだがっ、こういうのは一応しっかりした方がいいと私は思うんだ! ま、まだ付き合いたてな訳だしな……?」

「なるほど」


 あたふたと手を振りながらジークリンデが説明していることを要約すると、つまるところ「夫婦のお金なんだから5000万の出費は避けろ」ということだった。


 確かに、今や俺の金はジークリンデの金でもある。自分勝手に散財するわけにもいかなくなってしまった。まあ、それで言えば得をするのは圧倒的に俺なわけだが。言うまでもなくジークリンデの実家は超超超お金持ちだ。


「それで採りに行けってわけか。別に構わんが、俺はコーラル・クリスタルがどこで採れるか全く知らんぞ」


 帝国領で採れるのかすら分からない。普通に生活していれば必要になることはないし、その特性上、魔法省に採取クエストが依頼されることも稀だからな。普通にしていればまず壊れない代物なんだ、あれは。


 ジークリンデは眼鏡の縁を触り、意味ありげな視線を俺に向けてくる。頬の赤みは既に引いていた。


「それについては問題ない────私も同行するからだ」

「お前が? 何故?」


 まさかの発言に俺は理解が追いつかない。魔法省長官補佐って、そんな個人的な事情で帝都を離れていいものなのか?


 ハテナマークを浮かべる俺に構わず、ジークリンデは耳元に口を近づけてくる。


「…………これはここだけの話なんだがな。実は魔法省でコーラル・クリスタルを武具に転用出来ないか、という話が出ているんだ」

「コーラル・クリスタルを武具に?」


 武具っていうと門兵が装備しているような剣や槍、盾のことか。確かに魔法を無効化するコーラル・クリスタルを鎧や盾に使えたら対魔法使いの戦闘においてかなり脅威になるだろうが。


「うまくいくのか、それ?」


 だが、そんなことは誰でも思いつく。それなのに未だ実現していないということは、何か問題があるということだろう。例えば……加工が難しいとか、コストがかかり過ぎるとか。重すぎる、ってのもあるな。


「それをこれから調べるんだ。丁度近いうちに帝国領内のコーラル・クリスタル生産地を視察することになっていてな、護衛代わりにお前を連れて行けばいいんじゃないかと思ったんだが……どうだ?」


 ジークリンデの真っ直ぐな視線が眼鏡越しに俺を捉える。その瞳からは何の感情も読み取ることは出来なかったが、恐らくこの件に関しては元々何の感情もないんだろう。俺が断ったところで別の護衛を付けて行くだけの話だ。ただの仕事だからな。


 …………ひょろっちい護衛を付けていくくらいなら俺が行った方がいいか。何か事件に巻き込まれる可能性は低いだろうが、魔法省高官などどこで恨みを買っているか分からないからな。


 となると、俺の答えはひとつだ。


「俺に断る権利などないさ。リリィのことを秘密にして貰う代わりにお前の仕事を手伝う、そういう契約だからな」

「…………そういえばそうだったな。それで、急な話だが来週でも構わないか? 魔法学校の方には魔法省からコーラル・クリスタルを補充すると連絡しておく」

「問題ない。場所はどこなんだ?」

「アネルカ地方だ。そこに大きなコーラル・クリスタルの鉱床がある」

「アネルカ? 聞いたことないな。どの辺りだ?」

「帝都から南東に数百キロ行ったところだ。長旅になるぞ」

「数百キロねえ。何人で行くんだ?」

「お前がいるなら二人で構わないだろう。元々は十人で行く予定だったがな」

「なるほどな。それなら長旅にはならなそうだ」

「何だと?」


 例え千キロあろうと俺の運転なら数時間で着く。改造二輪車のスピードをジークリンデにも味合わせてやるいい機会だな。きっと驚くぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

書籍化が決まったラブコメのリンクです

↓こちらをクリックすると飛ぶことができます↓

ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ