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第88話 ヴァイス、指摘される

「ぱぱ、おやすみ〜」

「おやすみ、リリィ」


 リリィがベッドに入ったのを確認し、俺はジークリンデの待つソファに戻った。ジークリンデは既に相当飲んでいるようで、リビングには酒の匂いが充満している。リリィを風呂に入れる前から飲んでいたからもうかれこれ一時間以上飲み続けているはずだが、明日の仕事は大丈夫なんだろうか。


「ヴァイス、おそいぞ!」

「飲み過ぎだバカ」


 顔を真っ赤にして俺を指差すジークリンデを華麗にスルーし隣に座る。持ってきたグラスをテーブルに置くと、ジークリンデはゆらゆらと揺れながら酒をグラスに注いできた。たぷたぷに注がれたグラスを真顔で差し出してくる。


「ヴァイス、お前も飲め」

「何なんだ、一体……?」


 この前も思ったが、コイツあまり酒強くないな……ロレットの酒場に来たら真っ先に潰れるタイプだ。そんなことを思いながらグラスに口を付けると、キツイアルコール臭が口内に広がった。


「うーん……イマイチだな」


 一本1000ゼニーくらいの安酒だったから仕方ない所ではあるが、フロイド家の幻の酒を味わってしまった後だとどうしてもがっかり感は否めない。


「む、私の酒が不味いって言うのか!?」

「騒ぐな酔っ払い。リリィが起きちまうだろ」


 歯を見せてこっちに食って掛かろうとするジークリンデを手で制しながらグラスを空にする。やっぱり不味いなこの酒。


「はあ…………それにしても、大変なことになったものだ……」


 ジークリンデはグラスをテーブルに置くと、がっくりと肩を落とした。気持ちの上げ下げが激しい奴だな。


「先生のことか?」

「そうだ…………あのクラスにはメディチの娘もいる。何も言ってこなければいいが……」


 エンジェルベアのローブの件といい、ワガママなフローレンシア家には魔法省も手を焼いているんだろう。ジークリンデの顔が全てを物語っていた。


 それにあの娘…………名前はレインと言ったか。気の強そうなタイプだったし、席もリリィの隣。衝突しなきゃいいが…………。


「…………いかんな。折角お前と飲んでるんだ、仕事の話は止めにしよう」


 ジークリンデは首を振り、気合を入れ直すように頬を叩いた。俺としてはジークリンデの愚痴を聞いてやってもいい気分だったのだが、本人がそう言うなら拒否する理由もない。


「それなら少し聞きたいことがあるんだ。リリィの教育方針についてなんだが」


 酔っ払い二人でする話でもないが、わざわざ時間を取ってするような話でもなかった。今くらいが丁度いいタイミングだろう。


「リリィちゃんの?」


 ジークリンデの目つきが変わった。そもそもコイツはハイエルフの研究がしたくてここにいる訳だからな、リリィのこととなれば酔いも覚めるか。


「ああ。正直な意見を聞かせて欲しいんだが…………俺、厳しすぎだと思うか?」

「…………は?」

「いや、だから俺の子育てについてだよ。もう少し甘やかした方がいいのかと悩んでいてな」


 ジークリンデは目をすがめ、まじまじと俺の顔を覗き込んでくる。何だその馬鹿を見るような目は。


「ヴァイス…………お前、それは私を笑わせようと言ってるのか?」

「どういうことだ。こっちは真剣に悩んでるんだ」


 意図が分からず困惑する俺を見て、ジークリンデは呆れた様子でグラスに口を付けた。


「言わせて貰うがな…………ヴァイス、お前の子育てはハッキリ言って甘すぎるぞ」

「なんだと……?」


 俺の子育てが甘すぎる……?


「どういう意味だそれは。俺はリリィを相当厳しく育てているつもりだぞ」


 おやつの個数も決めているし、くまたんの世話だってリリィがちゃんとやってくれている。これ以上何を厳しくしろと言うのか。


 それを言ってみたものの、なんとジークリンデは鼻で笑ってきた。


「そんなのは当たり前だ。あのエンジェルベアだってリリィちゃんが飼いたいと言い出したんだろう」

「エンジェルベアじゃなくてくまたんな」


 くまたんって呼ばないとリリィが怒るから気を付けてくれ。


「私がリリィちゃんくらいの歳の頃にはな、日々勉強や習い事に励んでいたぞ」

「それはお前が特殊なだけだ。俺なんてまともに勉強した記憶ないけどな」

「それはお前が特殊なだけだろう」


 そう言ってジークリンデはグラスに残った酒を飲み干す。その口振りからは学生時代の成績で俺に負けた私怨が感じられたが、それくらいは受け止めてやるか。俺さえいなけりゃ間違いなく首席だっただろうからな。


「とにかく、お前の教育ではリリィちゃんが心配だ。宿題も含めて、勉強面は私が管理してやる」

「お、母親らしくなってきたじゃないか」


 呼び方も「ジークリンデお姉ちゃん」に戻っていたし、リリィはまだジークリンデを母親だとは思ってないみたいだからな。ジークリンデにリリィの勉強を見て貰うのはいい案かもしれん。


「そ、そうか……? 私も母親の自覚が出てきたのかもしれないな」


 ジークリンデは俺の言葉に満足げに頷いた。グラスに酒を注ぐと、それを一気に飲み干す。結構飲んでるけど大丈夫なのか……?


 結局それからジークリンデは新しく酒を一本空け、そのままソファに突っ伏すように眠り込んでしまった。何度呼び掛けても起きる気配はない。


「うーん…………ヴァイス…………」

「…………送るか」


 別に泊めても構わないが、まだ夜中って訳でもない。うちのソファよりフロイド家の高級ベッドの方が疲れも取れるだろう。最近お疲れみたいだしな。


 ジークリンデをおぶって外に出ると、夜風が良い感じに酔いを覚ましてくれる。夜の散歩もなかなかいいもんだな。

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ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~

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