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第79話 くまたん、懐かしい感覚

「ただいまー」

「! ぱぱおかえりー!」


 帰宅すると、リリィはくまたんと一緒にリビングでお菓子を食べていた。もうすぐ夜ご飯の時間だが今日の所はいいだろう。寝てる間に置いていってしまったしな。


「ぱぱ、それなに?」


 リリィは口にお菓子を付けたまま俺に駆け寄ると、持っていた毛皮の敷物を指差す。もしかしたら自分へのお土産だと思っているのかもしれないな。街に出る度にリリィに何か買っていたし。


「これか? これはくまたんの寝床だ」


 今まではリリィのベッドやリビングのソファで眠っていたくまたんだが、今日からは自分専用の寝床が出来る。…………受け入れてくれればの話だが。


「くまたんのべっど? かしてかして!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるリリィに敷物を渡す。リリィは敷物を受け取ると、体いっぱいに抱えながらリビングを右往左往しだした。きっとどこに設置するのがいいか考えているんだろう。


「よぅし」


 最初は隅っこの方に置こうとしていたリリィだったが、思い直したようにこちらに戻ってくるとソファのすぐ傍に敷物を敷いた。隅の方だと可哀想だと考えたのかもしれない。


「くまたーん、べっどだよー」


 リリィはソファの上でごろんとしていたくまたんを抱きかかえ、敷物の上に移動させる。さて、どうなるか…………。


「…………?」


 敷物の上にぺたんと着地したくまたんは、不思議そうに敷物に顔を近づける。そして、くんくんと鼻を揺らしながら敷物の上を歩き始めた。


「どきどき……」


 リリィは敷物のすぐ傍に座り込んでくまたんを見守っている。リリィはこの敷物がくまたんの親の素材だとは知らないから、単純に寝床を気に入るか気になっているんだろう。


「…………お」


 くまたんの行動に、つい声が出てしまう。


 くまたんはまるで毛繕いをするように毛皮の敷物を舐めまわすと、ゆっくりと目を閉じて丸くなった。それはまるで、親の大きな身体に包まれて眠る子供のようだった。いつものほほんとしているくまたんだが、それでも今はいつも以上にリラックスしているのが分かる。俺の願望がそう見せているだけかもしれないが。


「気に入ってくれたみたいだな」

「くまたん、きもちよさそー……!」


 リリィは敷物の上に侵入し、くまたんの横で寝転んだ。流石に足がはみ出していたが丸くなるとギリギリ収まる。身を寄せ合って丸くなるリリィとくまたんは、大きなエンジェルベアの背中で寝ているようにも見えて、悪くない光景だった。


「ふかふかだ……! りりーもきょーからここでねる!」

「それは流石に風邪ひくぞ」


 まさかまた寝るのかと思ったが流石に眠くはなかったようで、リリィとくまたんは敷物の上でじゃれあい始めた。いつもよりテンションが高いくまたんに襲われてリリィは楽しそうに敷物に倒れ込む。遊び場がソファから敷物の上に移動しただけに見えなくもないが、何にせよくまたんが気に入ってくれて良かった。慣れないことをしたから失敗したらどうしようかと思ったぜ。





 帝都でも有数の名家、フローレンシア家。


 質実剛健なフロイド家とは違い、日々華々しい生活を送っているフローレンシア家は毎日の食事も豪華そのもの。何十人もの人間が座れそうな長テーブルには決して食べきれない量の御馳走が並び、最高級魔石の調度品がそれらを明るく照らしていた。


 そんな中、現当主の娘であるメディチ・フローレンシアは、娘のレイン・フローレンシアに語り掛けた。二人ともテーブルの上の御馳走などとうに見飽きているのか、顔を綻ばせることはない。


「それで、学校はどうなの?」

「どうなのって……まだ初日よママ」


 初日の授業は魔力測定と自己紹介をしたくらいでレイン的には特に言う事が見つからなかった。ただ、聡明なレインはこの少し口煩い母が娘に多大な期待をしていることは理解していたので、何も言わないのは良くないと考えこう続けた。


「そういえば私、雷のてきせいがあったわ。先生と同じだったのよ」

「そう。適性は雷だけ?」


 娘の報告に、メディチは眉一つ動かさない。


「ええ」

「クラスに二属性の適性を持つ子はいた? 例えば…………リリィちゃんはどうだったの?」

「リリィ? 誰だったかしら」

「水色の髪のエルフがいたでしょう」

「ああ、あの子。あの子は…………確か光のてきせいじゃなかったかしら。ママ、あの子がどうしたの?」

「ううん、何でもないけど…………レイン、あの子には絶対負けないでね」

「……? 分かったわ、ママ」


 レインはリリィのことを『年の割に子供っぽい子』だとしか認識しておらず、どうして母が知り合いでもないリリィに拘るのか理解が出来なかった。メディチもメディチで、その理由をレインに伝える気はさらさらないのだった。


 …………まさか、自分が学生時代フラれた相手と『魔法書の虫』だと馬鹿にしていた相手が結婚するなど予想出来る訳もなく。


「…………ヴァイス君、どうしてジークリンデなんかと……」


 メディチのプライドは今、ズタズタなのだった。今更ヴァイスと結婚したいとまでは思わないが、それでも娘の優秀さで負ける訳には絶対にいかない。


 娘の優秀さで勝ること。


 それが傷付いたプライドを修復する唯一の方法なのだから。

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ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~

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まあねえ、たしかに張り合いたくなる気持ちは分かるわ、危ないことするのはやめてね(>人<;)
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