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第69話 魔力測定

 『魔力測定』────それはナスターシャ魔法学校に入学した全ての子供が受ける初めての授業。


 自らがどのような魔法使いになるべきかを自覚する機会であり────人によっては夢が断たれる瞬間でもある。自らが持つ魔力の質、適性というものは、残念ながら自分で選ぶことは出来ず、例えば魔法省直属の医療部隊には治癒魔法に適性のある者しか入れないからだ。この学校を首席で卒業した俺でも、最年少で魔法省長官補佐に登り詰めたジークリンデでも、例外はない。


 薄暗い室内の中心には重厚な台座が一つ鎮座し、その上には澄み切った水晶が置かれている。冷却用の魔石は設置されていないはずだが何故か少し肌寒く、その怪しげな雰囲気を感じ取ったのか、移動中は騒がしかった子供達も今は静かに水晶を取り囲んでいた。リリィも不安そうな顔付きできょろきょろと忙しなくしている。


 エスメラルダ先生が水晶の後ろ──子供でも台座に手が届くように設置された小さな段差の反対側だ──に立ち、うっとりと目を細める。釣られるように子供達も水晶に注目している。


「綺麗だろう? これは感魔水晶といってね、手を翳すと自分の魔力がどういったものか分かる代物さ。何かを燃やすのが得意だとか、誰かを癒すのが得意だとかね。必ずしもその道に進む必要はないけれど、自分にどんな才能があるのかを知っておくことはとても大切だからね。精々参考にしてくれると嬉しいねえ」


 言って、先生は水晶に手を翳す────その瞬間、薄暗い室内は水晶から放たれるぼんやりとした黄緑の光で照らされ、子供達がざわめいた。

 感魔水晶は与えられた魔力を増幅し、色と光り方で表現する。黄緑の光は、手を翳した者が雷と風の適性を備えていることを意味し、輪郭のないぼんやりとした光は範囲魔法に秀でていることを示している。重要なのは色の方で、光り方は一つの目安に過ぎない。


 ……それにしても、先生は二元素適性持ちだったのか。流石と言うべきか、意外と言うべきか。実績を考えれば三元素適性持ちでもおかしくないと思っていたが。


 火、水、雷、土、風。

 殆どの魔法使いは、その五大元素どれかの適性を持つ。その他の元素としては治癒魔法等が属する『光』と、呪い等が属する『闇』があるが、これらは特殊元素と呼ばれていて五大元素とは明確な違いが二つある。


 一つ目は、五大魔法は適性がなくても使えるが、特殊魔法は適性がなければ全く使えないということだ。治癒魔法の適性がなければ魔法省の医療部隊に入れない理由はそこにある。


 そして二つ目は、特殊元素の適性はそれのみでは現れないということだ。火の適性ひとつだけを持つ者はいるが、光の適性ひとつだけを持つ者はいない。光や闇の適性は『火・光』のように五大元素と複合して現れる。因みに光の適性はさほど珍しくないが、闇の適性を持つ者は極々稀だ。俺は一人しか知らない。


 殆どの魔法使いは五大元素のうち一つの適性を持つが、稀に二つの適性を持つ者がいる。約千人に一人と言われている二元素適性持ちは、有り体に言えば魔法使いのエリートだ。魔法使いとして名を上げている奴の殆どが二元素適性持ちだと言っていいだろう。そして、稀に三元素以上の適性を持っている奴もいるらしい。数万人に一人と言われていて、俺はてっきりエスメラルダ先生がそれだと思っていた。勘が外れてしまったが。


「見ての通り、私は『雷』と『風』の適性を持っている。二つ持っているのは結構珍しくてね、普通は一色に光るんだ。さあ皆、遠慮せずに手を翳してみるといい。一人ずつ、焦らず、ゆっくりとね」


 先生の言葉に、子供達は水晶の前にばたばたと列を作る。リリィもワクワクした様子でその中程に並んでいた。リリィは他の子供達より少し背が低く埋もれがちだが、水色の髪は薄暗い室内でも目立つから見失うということがない。このクラスは人間以外の種族が少ないようだし余計にな。


「…………」


 先頭に並んでいた活発そうな男の子が、ゆっくりと段差を登る。確か自己紹介ではターナーと名乗っていたか。ターナーは真剣な眼差しで水晶を見つめると、意を決したように手を翳した。


「──赤い光。君は火の魔法が得意みたいだねえ」


 室内を照らす赤い光を見て、先生が告げる。告げられた男の子は大きく腕を上げて喜んだ。


「やった! なんかカッコよさそう!」

「魔法はもう使えるのかい?」

「んーん。お母さんが先生におしえてもらいなさいって」

「そうかい。それじゃあ、これから楽しみだねえ」

「うん!」


 男の子はぴょんと段差を飛び降りると、水晶の近くに移動した。恐らく他の人がどんな適性を持っているのか近くで見たいんだろう。


「次は私のばんね」


 そうこうしているうちに、二番目に並んでいた女の子が堂々とした様子で段差を登った。身に纏ったエンジェルベアの毛皮のローブは権力とワガママの証。頭の両側でくるくると巻いている髪の毛も勝ち気な性格を表しているようだ。確か名前はレイン・フローレンシア。ジークリンデのフロイド家には及ばないものの帝都で強大な権力を持つフローレンシア家の娘で、つまりは俺の元クラスメイト、メディチの娘でもある。


 …………昨日も思ったが、まさか親子で同じクラスになるとはな。魔法省からの依頼でエンジェルベアの毛皮を採りに行った時は「依頼主の子供とリリィが同じクラスになりませんように」と祈ったものだが、元クラスメイトならうまくやれるかもしれない。とりあえず一安心といったところか。


「私はどんなてきせいを持っているかしら」


 レインが躊躇いなく手を翳す。すると水晶は突き刺すような黄色い光を放ち、俺は眩しくてつい目を背けた。

 あの光り方は先生とは逆で、集中魔法が得意なことを意味している。対人戦闘に長けたタイプだ。


「これは雷の魔法がとくいってことかしら」

「当たりだよ。私と一緒だねえ」

「たくさん教えてくださいね、先生」


 レインは優雅に段差を降り、同じ様に水晶の近くで足を止めた。やはり他の人が気になるらしい。


 それからは色とりどりに染め上げられる室内を楽しみながら、時に目を逸らしながら新しい才能達を眺めていると、ついにリリィの順番がやってきた。娘の一大事を前にしてドクンと心臓が大きく跳ねる。先生も思わせぶりな視線をこちらに向けていた。


「んしょ、んしょ……ふう」


 リリィが段差を登る。リリィは段差の上で一息つくと、むむむと水晶を睨みつけて思い切り手を後ろに振りかぶった。そんなに気合を入れなくても大丈夫だぞ。


「むずむず…………たぁーっ!」


 リリィが水晶に渾身の張り手をかます。

 …………頼む、俺と同じ色だけは────()()()だけは出ないでくれ。

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ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~

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