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第67話 リリィ、無事に辿り着く

 リリィの初登校は確かに冒険だった。


「〜〜♪」


 拾った木の枝を楽しそうに振りながら舗装された広い道を歩く姿は、さながら大剣で魔物を薙ぎ払う戦士そのもの。今だけは帝都の高級住宅街が魔物の潜む廃都に見えてくる。リリィには魔法使いだけではなく戦士の才能もあるのかもしれない──そう思わせられる木の枝捌きだ。


「んー……?」


 しかし、それはそれとして、分かれ道に直面する度に首を傾げ右往左往する姿は年相応の子供でしかなく、その都度リリィは近くを通りがかった人に「がっこーどっちですか」と聞いて回るから俺は肝を冷やした。知らない人の言うことを聞いちゃダメだと怒るべきなのか、ちゃんと敬語が使えて偉いと褒めるべきなのか。

 とりあえずここまでリリィを導いてくれた道中の人間には心の中で礼を言っておく。


「ごめんください、がっこーどっちですか」

「あら〜可愛いわねえ! 新入生かしら! パパかママは一緒じゃないの?」

「りりー、ぼーけんちゅーです」

「冒険!? 偉いのねえ! 学校はあっちよ、気をつけてね」


 リリィの勇気と行動力、それと近隣の住人の親切心のお陰で無事にリリィは学校の近くまで辿り着いていた。学校に続く道まで出たので歩く生徒の数が急に増える。あとはこの集団に付いて行くだけで学校に辿り着けそうだが、リリィもそれを察したのか、少しホッとした様子でその中に加わった。木の枝はいつ捨てるつもりなんだろうか。


 俺はスピードを上げリリィの隣に並ぶ。

 見回せば俺達の様に親子で登校している奴らもちらほらといて(と言ってもリリィは一人にしか見えないだろうが)その殆どは新入生だ。やはり親と離れるのが不安なのか、寂しそうな様子の子供が多い。それに比べてうちのリリィは木の枝片手に楽しそうにしている。良くも悪くもゼニス育ちというところか。


「ふんふーん♪」


 リリィは勿論俺に気が付く様子もなく、楽しそうに歩を進めている。今リリィの頭の中にあるのは学校生活への希望だけで、きっと俺のことなど全く頭にないんだろう。だがしかし、それが悲しいかと聞かれたら全くそうは思わない。俺もそういう子供だったからだ。


「…………ぱぱ?」

「!?」


 不意にリリィと目が合い俺は飛び跳ねそうになる。リリィは立ち止まり、目をごしごしと擦って俺の方を見る。


 …………見えているはずがない。透明化の魔法は、まだまともに魔法が使えない下級生に見破られるような代物ではないんだ。そうでなければ他国への間諜という危険な任務に用いられるはずがない。


「きのせい……?」


 やはり、見えていない。一瞬ヒヤリとしたが大丈夫そうだ。何もいないことを確かめるために放たれたリリィの木の枝攻撃をジャンプで躱すと、リリィは俺から視線を外し歩き始めた。


「…………」


 ……どうしてリリィに気取られたんだろうか。俺の透明化に綻びがあったとは思えない。今の所、道中で誰かと目が合った認識はないしな。


 考えられるのは、ハイエルフ特有の魔力認識能力か何かが一瞬だけ俺の魔力を捕らえたということだ。それならば寧ろ誇らしい。リリィは立派な魔法使いになる才能を持っているということだからな。


 考え事をしているうちに校門に辿り着く。リリィは門をくぐろうとせず、傍に立っている門兵の前まで歩いていく。


「おじゃまします」


 ……この場合、お邪魔しますは言わなくていいんだぞ。リリィを学校に通わせるにあたり、マナーを一気に詰め込みすぎたのかもしれないな。色々とごっちゃになってしまっているようだ。


「おはよー。かっこいい枝だね」

「けんだよ!」


 リリィに気が付いた門兵が挨拶を返す。剣を褒められたリリィは誇らしそうにそれを掲げ、門兵に示した。門兵はリリィの目線まで腰を落とすと、両手を上げ驚いたようなポーズを取る。


「剣だったのか。もしかするとそれは伝説の剣か何かなのかい?」

「んー……わかんない」

「そうか。しかしそんなにかっこいいんだ。何か有名な剣かもしれないね」

「ほんと!?」

「多分ね。だから、誰かを斬っちゃいけないよ? 大切にするんだ」

「わかった」

 

 リリィは深く頷き、じろじろと枝を眺めながら門をくぐる。


 保護者が入れるのは基本的にここまでだが、俺は門兵に止められることなく無事に学校に入ることが出来た。やはり俺の透明化は正常に働いている。少しでも俺に気が付いたリリィの潜在能力は計り知れないな。


 そして、にわかに楽しみになってくるのはエスメラルダ先生の反応。俺に気が付くようなら安心してリリィを任せられる。


「新入生の皆さんはこっちでーす」


 誘導の先生に従い、俺とリリィは教室まで辿り着いた。

 教室にはもう殆どの生徒が揃っていたが、ぽつぽつと話し声がするだけで基本的には静か。流石にまだ友達グループのようなものは形成されていないらしい。親と離れる不安もあるだろうしな。


「えっと……」


 リリィは悩んだ末に木の枝を教室の隅っこに立て掛け、自分の席に座った。水色の髪のリリィはやはり目立つのか、生徒たちの──特に男子からの視線を集めていた。


「…………」


俺は教室の後ろに陣取りリリィの様子を伺う。リリィのすぐ隣の席に、エンジェルベアの毛皮で出来たローブを身に纏ったあの子がいることだけが気になった。

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ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~

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