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第64話 リリィ、さわぐ

『売れ残りの奴隷エルフを拾ったので、娘にすることにした』

電撃の新文芸様より、本日2月17日発売となります!


『電撃の新文芸』様の赤い電撃マークと、水色の背表紙が目印です!

コミカライズの情報も帯に載ってます!


買って頂けるととっっっっっても嬉しいです!

よろしくお願い致します!

 帝都の誇るナスターシャ魔法学校は最長で十二年在籍することになる。


 その内訳は下級生六年、中級生三年、上級生三年となっていて、基本的にはその節目節目で担任の先生が変わるのだが、勿論上級生を担当する先生が一番技量を求められる。

 因みに俺やジークリンデ、メディチのクラスの上級生の時の担任はエスメラルダ先生だった。エスメラルダ先生は色々と過激な逸話が多く他のクラスの奴からはハズレ扱いされていたが、実際は俺達のクラスが最も優秀だったからな。教職を辞めたのは魔法学校にとって大きな損失と言っていいだろう。


 そんな訳で下級生を担当する先生はその殆どが魔法省に入ったばかりの新米先生だったりするのだが────だからだろう、教室に入ってきたローブ姿の人物に教室は大きくどよめいた。


「え、あれエスメラルダ先生よね……!? どうして……? というか、見た目変わらなすぎじゃない!?」

「分からん。魔法学校を離れたと聞いていたが」


 正確にはもう一介のローブ職人に過ぎないので先生ではないのだが、とにかく、まさかの人物の登場にメディチが声をあげる。ジークリンデも隅っこの方で驚愕の表情を浮かべていた。魔法学校の人員を把握しているはずのジークリンデがあの様子という事は……エスメラルダ先生、何かやったのか?


 エスメラルダ先生はゆっくりした足取りで教壇に立つと、ぐるりと教室を見渡した。彫りの深い瞳は年老いても猛禽のような威圧感を備えていて、ざわついていた教室が一瞬で静寂に包まれる。言うことを聞かない盛りの子供達すら一睨みで黙らせてしまうとは、意外と下級生担任の適性があるのかもしれない。


「…………」


 エスメラルダ先生の鋭い視線が保護者達を射抜いていく一瞬、目が合った気がしたのは果たして気のせいか。それについて考える前に──教室の前方、子ども達が座っている辺りから静寂を破る声が響いた。


「あっ、ろーぶのおばちゃん!」


 残念ながらその声には聞き覚えがあった。何故ならこの静まり返った教室で一人、元気よくエスメラルダ先生に手を振っているエルフの少女は俺の娘リリィ・フレンベルグだったから。


「リリィ、静かにしろ、リリィ……!」


 小声で注意するも、当然リリィの耳に届く訳がなく。リリィは結局エスメラルダ先生に微笑み返されるまで手を振り続けていた。

 …………学校生活が不安で仕方がない。他の生徒や先生に迷惑を掛ける前に、静かにする特訓をしなければならないな、これは……


「────さて」


 エスメラルダ先生が口を開く。学生時代に戻ったような、不思議な感覚が俺を包んだ。


「私が担任のエスメラルダ・イーゼンバーンだよ。ヒッヒッ、保護者の中には何人か見知った顔があるねえ。まさかお前たちがもう親だなんて……時が経つのは早いもんだよ全く」


 言って、エスメラルダ先生は心底愉快そうに口の端を釣り上げた。



 家に帰って来た時には、既に空は赤色から深い黒色に移り変わろうとしていた。


「私も初耳だったんだ。私が確認した時には別の名前が記載されていたはずだが……」

「ま、先生が何かやったんだろうな。エスメラルダ・イーゼンバーンって名前は帝都じゃ絶大な力を持ってる。自分を無理やり担任にねじ込むなんて朝飯前のはずだ」


 今日一日母親役を務めたジークリンデは自然な流れで俺の家まで付いてきた。はしゃぎ疲れて寝てしまったリリィをベッドに休ませリビングに戻ってくると、ジークリンデは薄っすらと疲労を顔ににじませてソファに深く腰を下ろした。


「ねえ、いいからご飯食べさせなさいよ! アンタたちのせいで私は不審者扱いされたんだからね!」


 そのすぐ傍ではカヤが地団駄を踏んでいる。結局カヤは食事会に参加出来なかったようで、魔法学校の門兵が捕らえていた所を俺たちが帰りに回収したのだった。腹が減っているからか激烈に機嫌が悪そうだ。


「分かった分かった。用意してやるから座って待ってろ」


 冷却庫から適当に食材を見繕い、カヤに振る舞ってやる。卵と肉を調理しただけの簡単なものではあったが、肉に振りかけたロレット特製ツマミ塩の効果もあってかカヤは目の色を変えてがっつき始めた。その様子はまるで何日もまともな物を食べていない遭難者のようだったが……そういえばコイツ、俺が支払ったくまたんお世話代十万ゼニーをもう使い切ったとか言ってたか。


 田舎から帝都にやってきた典型的なお上りさんのようで笑ってしまいそうになるが、果たしてコイツはこれからどうやって生活していくつもりなんだろうか。俺には関係ないことだが、リリィが懐いている以上その辺で野垂れ死なれても困る。あとでジークリンデに話しておくとするか。


 …………ジークリンデといえば。


「…………そうだ。ジークリンデ────あの酒、飲んでみないか?」

「あの酒……?」

「お前の父親が作ってるあの酒だよ。一本うちに残ってるんだ」


 帝都有数の名家フロイド家の家長が秘密裏に作っている、幻の酒。リリィの杖を手に入れるため譲り受けた二本のうちの一本が、うちの冷却庫に眠っている。


「丁度、お前とも飲みたかったしな。グラス用意するから待ってろ」

「あ、ああ……」

「わらひも! わらしも飲むからね!」

「はいはい」


 冷却庫から酒を、棚からツマミ塩とグラスを取って戻ってくると…………緊張した面持ちのジークリンデがじっとこちらを見つめていた。


 …………何を気張ってるんだ、コイツは。

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ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~

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