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第21話 リリィの着ていたローブ、お値段150000ゼニー

 「リリィの採寸をしたい」と言うオーレリアにリリィを預け、俺はエスメラルダ先生の工房を訪れていた。採寸が終わったら店内を案内してくれるらしいので、リリィもきっと退屈せずに済むだろう。なにせ『フランシェ』は女性人気ナンバー1ブランドだ。


 帝都は上空から見れば綺麗な円の形に広がっていて、中央に位置している魔法省を中心に栄えている。となれば当然、円の外側になればなるほど人口密度は低くなっていき地価も下がっていく。工房の倉庫などはよくそういう場所に作られる。エスメラルダ先生の工房もそういった倉庫地域の一角にあった。


 商業通りにあるこじんまりとした店とは違い、こちらはとにかくだだっ広い。10メートルはあるクリスタル・ドラゴンを広げてもまだ余裕があった。


「綺麗に()ったもんだねえ」


 床に横たわったクリスタル・ドラゴンに視線を向けて先生が呟いた。口の中から細い魔法を貫通させた為、傷はほとんどない。完品と言っていいだろう。


「こいつ、口の中は魔法耐性がないんだよ。『魔法使い殺し』ってのは誇大広告だったって訳だ」

「…………口内が弱点だったところで、普通の魔法使いには難しいと思うけどねえ。基本的に魔法の威力は大きさに比例するのは知ってるだろう? 魔力を凝縮させて威力を向上させる『収束魔法陣』なんて学校じゃ教えないのに、一体どこで覚えてくるんだか」

「魔法省で見た魔法書に載ってたんだ。学生時代は魔法省に通ってたからな」


 借金返済のために東へ西へ、ってな。


「────ああ、『ガトリン』を出禁になった件だろう?」

「どうして知ってるんだ?」

「そりゃあ店から学校に連絡が来たからね。お宅の生徒がうちの商品全部ダメにしました、ってさ」

「…………マジか」


 金を肩代わりしてくれたジークリンデがさらっとしていた事もあって、当時は何とも思っていなかったんだが、まさかそんな大事になってたとは。もしかして親にも連絡いってたのかな。近々実家に顔出しに行こうと思っていたし、その時に訊いてみるか。


「それじゃあリリィのローブ、よろしく頼む」


 クリスタル・ドラゴンの引き渡しが終わった以上、もうここに用事はない。長居したら何か面倒事を押し付けられそうでもある。俺は踵を返し、工房から出ようとした。


「ちょいちょい、忘れものさね」

「?」


 先生に呼び止められ振り向くと、クリスタル・ドラゴンの角の先端が放り投げられた。慌ててそれを受け止める。角を折った音が全く聞こえなかったが…………先生もまだまだ現役ということか。


「どうして俺に? 杖も作ってくれるんじゃないのか?」


 話の流れ的に、てっきりそういう事だと思っていたのだが。

 俺の言葉に先生は大きくため息をついた。


「馬鹿言ってんじゃない、こちとらローブ屋だよ。クリスタル・ドラゴンの角なんて扱える訳ないだろう。知り合いの杖職人を紹介してやるから、そこに持って行きな」


 先生が紙に何かを書いて手渡してくる。見れば、住所と紹介文が記載されてあった。『こいつの力になってやってくれ エスメラルダ』そんな文章が殴り書きされている。


 住所は帝都の外れの方だった。今日はリリィを迎えに行かなければいけないし、訪ねるのは明日にするか。俺は先生にお礼を言って工房を後にした。





「ぱぱ! みてみて!」


 フランシェに戻ると、おしゃれ魔法使いになったリリィが駆け寄ってきた。恐らく商品だろう、私服の上に黒いローブを羽織っている。よく見るとそのローブには赤いリボンがいくつか縫い付けられていて、シンプルなのにちゃんと女の子らしい。新しく魔法学校に通う年代の女の子にぴったりなデザインに思えた。流石は女性人気ナンバー1魔法具ブランド。


 リリィは俺の前で立ち止まると、くるっとターンした。ローブが風を受けてふわっと膨らむ。その様子は端的に言って天使だった。


「リリィ、可愛いぞ」

「えへへっ」


 にやけそうになる口元にぎゅっと力を込めて、リリィの頭を撫でる。

 奥の方から店員が歩いてくるのが見えた。


「すいません、リリィちゃん可愛くて。色々着せちゃってます」

「いや、こちらこそ見て貰ってて申し訳ない。リリィ、おねーさんにありがとう言ったか?」

「うん! いっぱいいったよ!」


 リリィはこの短時間で若い女性店員に懐いたらしく、屈託のない笑顔を向けている。店員もリリィの笑顔を見て顔を綻ばせた。


 …………フランシェのローブを着たリリィはとても可愛くて、正直このままローブを買って帰りたい気持ちになりかけもしたが、そういう訳にもいかない。今頃先生が必死にクリスタル・ドラゴンの素材をバラしてくれている。白銀のローブを身に纏ったリリィは、それこそ本当の天使くらい可愛いはずだ。


「────よし、リリィ。そろそろ帰るぞ」

「うん! おねーさん、ばいばい!」

「リリィちゃん、またいつでも来てね」


 リリィからローブを回収した店員が店先まで出て見送ってくれる。


 …………何かあったらフランシェで買い物しよう、と心に決めた瞬間だった。ガトリンは出禁になっているしな。

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ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~

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