第109話 リリィ、はぐれる
「ついたー!」
「あそぼあそぼ!」
「私スライムつかまえたい!」
「こらこら、今日は遊びに来た訳じゃないんだよ。先生の所に集合してくれるかね」
テスト当日。
森に到着した子供たちは蜘蛛の子を散らすように四方八方に駆け出していく。エスメラルダは両手を叩いて子供たちを集めると、テストの説明をし始める。
「ようし、じゃあこれから魔法のテストを始めるからねえ。伝えていた通り二人一組のチーム対抗戦だよ。皆、自分のペアが誰かは覚えているかね?」
子供たちはきょろきょろとお互いを確認しあいそれぞれ集まり始めた。リリィもレインを見つけると、とてとてと傍に寄った。レインはリリィに視線をやることなく、先生の話に耳を傾けている。
「もう一回ルールをおさらいするからね。制限時間はお昼まで、スライムを倒す毎に1ポイントだよ。もし珍しい色のスライムを倒せたら特別ボーナスをあげるからね。危ないから単独行動は禁止、必ずペアで行動するように。当たり前だけど、叩いて倒すのはダメだからね。必ず魔法で倒すように。分かったかい?」
はーい、と元気な声の合唱が森に響き渡る。早く森に突進したい子供たちは、ふくらはぎに力をいれうずうずと忙しない。エスメラルダはそんな子供たちの様子に心のなかで溜息をつきながらも、つい口の端を緩めてしまうのだった。
「それじゃあ早速始めようかね。よーい……スタート!」
「わーい!」
「なにしてあそぶ!?」
「わたしおままごとしたい!」
エスメラルダの合図で、堰を切ったように森に雪崩込む子供たち。レインはリリィを置いて森に入っていく。リリィは自分が置いていかれていることに気が付くと、慌てて背中を追って声を掛ける。
「れいんー!」
「…………何かしら」
振り返らず、足も止めず、口だけを返すレイン。そんなあからさまな拒絶の態度も、けれどリリィには伝わらない。
「れいんあのね、りりーおはなしがあるの」
「話?」
「…………りりー、ぽよぽよたおしたくないの」
◆
「そう、ならあなたは倒さなくていいわ」
リリィの告白は、実はレインにとって予想の範囲内のことだった。そして、それに対する答えも準備していた。
「私達、別こうどうにしましょ? あなたはそのあたりで遊んでいればいいわ」
レインは考えた────どうすれば自分がリリィより優れていると証明出来るのかと。そしてフローレンシア家の情報網を総動員し『森の最深部にスライムキングがいる』という情報を掴んだ時、レインの中には一つのシナリオが浮かんだ。
────スライムキングを討伐すれば、皆私の凄さに気が付くだろう。
その為にはまず、リリィと別行動をする必要がある。リリィと一緒にいては結局二人の力と見做されてしまうからだ。幸いにもリリィは魔物を攻撃するのは嫌だとテストに難色を示していたし、うまくやれば単独行動することが出来るはず。
「さっきせんせーが、いっしょにいなきゃだめって」
「私なら一人でも平気よ。スライムなんかに負けるわけないもの」
「で、でも…………」
「分からない? ハッキリ言って、あなた足手まといなの。一緒にいて足をひっぱられてもこまるのよ。はい、かいさんね」
レインはそう言い捨て、森の奥に駆け出していく。リリィは慌てて追いかけるが────木の根につまずいて転んでしまった。
「れいんまって────わっ!」
どしん、と勢いよく草原の上に倒れ込むリリィ。草がクッションになっていた為怪我はなかったものの、びっくりしてすぐには立ち上がれない。目にはじんわりと涙が浮かぶ。
ごしごしと目を擦って顔を上げると、既にレインの背中は見えなくなっていた。
「うぅ…………れいんおいかけなきゃ…………」
リリィは立ち上がり、レインを追って森の奥に進んでいく。さっきまでは楽しい気持ちに包まれていたのに、今は不安でいっぱいだった。道中でスライムを見つけても全然嬉しくない。鬱蒼とした森の中で、リリィは次第に心細くなっていく。
「れいんー? れいん、どこー…………?」
リリィの声は深い森の奥までは届かない。仮に届いたとしても、レインには返事をする気などさらさらなかったが。
「うう…………なんかこわい…………」
どれほど時間が経っただろうか。
レインの背中を探して必死に歩き続けていると、ちらほら聞こえていた他の子供たちの声もいつの間にか聞こえなくなっていた。歩き疲れたリリィは、大きな木のそばに座り膝を抱え込む。すると、近くを通りがかったスライムがなんだなんだ、と近づいてきた。
「ぽよぽよ…………?」
リリィが手を伸ばすと、スライムが身体を擦り寄せてくる。ひんやりとした身体を優しく撫でていると、スライムは気持ちよさそうに目を細め眠り始めた。
「ぷぷ、ねちゃった」
暫くスライムを撫でていると、いつの間にか不安な気持ちはどこかに吹き飛んでいた。リリィは立ち上がり、再び森の奥に歩き出した。




