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第107話 レイン、振り回される

 自らが一番優秀なのだと信じて疑ってこなかったレイン・フローレンシアにとって、リリィ・フレンベルグという存在はまさに目の上のたんこぶだった。


 忘れもしない────リリィがコーラル・クリスタルを破壊したあの日から、リリィは教室内において「魔法と言えばリリィ」という確固たる地位を築き上げていた。それはレインが欲しくて欲しくて堪らなかった称号であり、張本人のリリィがそのことを全くありがたがっている様子がないこともレインを激しく刺激した。


 レインは次第に「どうやってリリィを見返すか」ばかり考えるようになり、皮肉なことにそのお陰で魔法の技術は急速に上達していた。今なら私だってコーラル・クリスタルを破壊出来るのに────そう考えて修練室に忍び込んだことすらあった。(その日は調子が悪く壊せなかったが)


 そうしてレインはぷすぷすと煮えきらない日々を過ごし────ついに待ち望んでいた日が訪れた。



「ようし、それじゃあ来週は一学期の成績を決める実技のテストをやろうかね。またあの森に行くよ」


 エスメラルダの言葉に教室が沸き立つ。まだ太陽も昇りきらぬ朝のホームルームのことだった。


「うおおおおおおおおお!」

「やったー! ていとの外にいけるぞ!」

「せんせー、ぽよぽよもつれていっていー?」


 遊び盛りの一年生はピクニック気分のお祭り騒ぎ。テストという言葉は聞こえていなかったのか、それとも言葉の意味が分からないのか、はたまたそんなことお構いなしなのか。ざわざわと騒がしくなる教室の中で────ただ一人、レインだけは目を閉じ小さく頷いた。


(ついにこの時が来たわね…………リリィを倒して私を皆にみとめさせるこの時が)


 削れる睡眠時間は削った。


 読める魔法書は時間の許す限り読んだ。


 あの屈辱の日から今日までの約二ヶ月、出来る努力は全てしてきたとレインは胸を張って言えた。これでまたリリィに負けるようなことがあれば、その時は今まで築き上げてきた自分の中の自信やプライド、その全てが砕けてしまうくらいに。


(実技のテスト…………相手はおそらくスライムね。あの森にはそれくらいしか魔物はいないはず。家に帰ったらスライムに特別効く魔法がないか調べてみましょう)


 レインは早速頭の中でテストに向けての対策を練り始めた。スライムなど今更いちいち気にするほどの相手でもないが、テストの形式次第では足元を掬われる可能性があると考えたのだ。どこまでも可能性を潰していくその慎重さは、実戦において何よりも大切な素質でもある。もしこれが実践ではなく命を懸けた実戦であったなら、最後まで立っているのは間違いなくレインだっただろう。


「こらこら、まだ話は終わってないよ。テストについて詳しく説明するからね」


 エスメラルダは立ち上がり、黒板にテストのルールを板書していく。


『・テスト内容:スライムの討伐』

『・評価方法:数、種類』


(えっと…………たんじゅんにスライムをどれだけ倒せるかってことかしら。種類についてはどれもにたようなものだったはずよね)


 予想通りの内容に、レインは胸中の自信を確かなものにする。この内容であれば間違いなく自分が一番を取れる、と。


 …………のだが。


『・方式:二人一組のチーム対抗戦』


(二人一組ですって…………? 一人ならぜったいに勝てたのに)


 レインは苦虫を噛み潰したような表情で黒板を、そしてエスメラルダを睨みつける。クラスで自分が一番優れていると思っているレインにとって、誰と組まされることになっても足手まといにしか思えなかった。


 そして────そんなレインを更に落胆させる発言がエスメラルダから飛び出す。


「チーム分けはそうさねえ…………席の並びでいいかねえ」


(うそでしょ────!?)


 レインは反射的に隣の席を見やる。

 そこには、最も打ち倒したい相手であるリリィ・フレンベルグが座っているのだった。当のリリィはエスメラルダの話を全く聞いておらず、ペットのぽよぽよに木の実を食べさせている。


「…………ん?」


 リリィは視線を感じ、顔を上げる。きょろきょろと周りを見渡し────レインが自分を見ていることに気が付いた。レインも餌をあげたいのかな、と思ったリリィは机の中からぽよぽよを引っ張り出す。ぽよぽよはびよーっと伸びてリリィの手の中に収まった。


「れいんもさわる?」

「いらないわよ!」


 テストなんて関係ない────リリィの行動がそんなスカした余裕に見えたレインは、声を荒らげて顔を反らした。こうなるともう、リリィの何もかもが気に入らない。


「そっかー。てすとたのしみだねー!」

「…………」


 にへらっと笑うリリィ。今話している相手がテストのパートナーだなどと全く気が付いていない。


(…………一体なんなのよ、このおこちゃまは……!)


 自分は全く相手にされていないのではないか────そんな黒い感情がレインの中に渦巻いていく。


 その疑念はやがて大きな炎に成長し────近い未来、レインの身を焦がすことになる。

 

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ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~

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