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詭弁

時を遡ること5年前。



王国の御前会議。



 【ベレスティグ帝国のレクサンド皇帝は、聖歴898年13月7日、スハウィン東部の親ベレスティグ派が居住する地域メアについて、独立国家として一方的に承認する皇帝令に署名し、自国軍に対して「平和維持」を名目として、軍の部隊を派遣することを指示した】


 帝国に潜入した間諜が得た情報のひとつとして、ベレスティグ帝国のレクサンド皇帝が帝国の民に向けておこなったという演説の内容の音声データがあった。


 それが記録された魔道具と、繋げられた拡音機。そこから聞こえる内容に、王国の面々は皆一様に顔をしかめた。


 ベレスティグ帝国のレクサンド皇帝は在位期間も長くそれなりの年齢だが、独裁国家らしく実年齢も対外的には秘匿されている。ちなみに各国共に、彼が69歳だという調べはついている。諜報員から皇帝まで上り詰めた食えない男、レクサンドのダミ声が、音声記録魔道具から流れてくる。


《 ────問題は非常に深刻だ。スハウィンとメアを巡る情勢は、再び危機的で深刻になっている。

 そしてきょう、わが愛する民に直接呼びかけるのは

 現状を評価するためだけでなく、どのような決定が下されているのか、この方向性で今後どのような展開になり得るかについて、皆の者に知らせるためでもある》


《改めて強調しておく。

 スハウィンは、我々にとって単なる隣国ではない。兄弟国なのだ》


《それは、我々の独自の歴史、文化、精神世界から切り離すことのできない一部分だ。

 同僚や友人、かつての戦友だけでなく、親戚、血縁や家族の絆でつながっている人々など、我々の同志であり、親族でもあるのだ。

 メアに住む人々は、ずっと昔から、自分たちのことをベレスティグ人でありベレスティグ正教徒であると称してきた。

 ピム皇帝の御代にこれらの土地の一部がベレスティグ大帝国に再統合された前も後も、そうだった》


《このことは、基本的に皆の者が知っており、周知の事実であると朕は考えている。

 しかし、現在起きていることを理解し、わがベレスティグ帝国の行動の動機と我々が追求する目標について説明するためには、少なくともこの問題の歴史にひと言触れておく必要がある》


《まず、現代のスハウィン国はすべて古のベレスティグ大帝国によって、過去のベレスティグ連邦によって作られたということから始めたい。このプロセスは、ゾー革命のほぼ直後に始まった。

 ちなみにトヨンシとその仲間たちは、ベレスティグ国自身にとってかなり手荒なやり方で、すなわち、ベレスティグ帝国の歴史的領土の一部を分離、切断することによってそれを行った》


《その後、戦争の前後で、ラツナーはすでに、それまでパズ国、ニア国、ガルー国の領土だったいくつかの土地をベレスティグ連邦に併合し、スハウィン王国に引き渡した。

 その際、ラツナーは、一種の補償として、もともとブツゾブ領だった土地の一部をパズに割譲した》


《その後、ボエディナがなぜかベレスティグ帝国からメア半島を取り上げ、スハウィン王国に与えた。

 実のところ、このようにしてベレスティグ連邦のスハウィン領は形成されたのだ…》


 皇帝の演説音声は、そこでいったん一時停止された。両国間には複雑に絡み合った歴史があった。


「なんだこりゃ 胸クソ悪ぃ…」

「その領、が国になったんだろうがよ」

「勝手なこと言いやがって」

「今まで交わしてきた不可侵の合意ってなんだったんでしょうね」

「ムカつく」


「おい 御前だぞ」

「あ、申し訳…」


「いい、いい、かまわん…わしもそう思っておった」


 スハウィンの王、シュザドは手をひらひらさせて、宰相の言葉を流した。

「ともかく…続きを聞こう」


《……実際最も重要なものは、なぜ古のベレスティグ大帝国の周辺地域で絶え間なく高まっていく民族主義者たちの野心を満たしてやる必要があったのか、ということである。

 恣意的に形成された新たな行政単位である連邦共和国に、広大で、しばしば何の関係もない領土を譲渡する必要があったのだろうか。いや、無い。(強めの声色で)》


《繰り返すが、その時の譲渡で、歴史的なベレスティグの民も一緒に引き渡したのだ。

 しかも、事実上、これらの行政単位には国民国家の地位と形態が与えられていた。

 改めて考えてみると、なぜそのような、最も熱烈な民族主義者たちでさえそれまで夢に見ることもしなかったような気前のよい贈り物をし、しかも統一国家から離脱する権利をかの国に無条件で与える必要など無かった》


《一見、これは全く理解不能な、狂気の沙汰のようだ。しかしそれは一見したところだけの話で、説明はつく。《ここでレクサンド皇帝がテーブルをバン、と叩く音がする》


《ブツゾブとその同盟国が軍事的にも経済的にも極めて苦しい状況にあり、七年大戦の結果はほぼ決まっていた時期に、わが国はトフスク条約の屈辱的な条件を受け入れた。加えて。国内の民族主義者たちからのあらゆる要求、要望に応えようともしていた》


《ベレスティグの国家と国民の歴史的運命の観点から見れば、国家形成におけるトヨンシの原則は、単なる過ちだっただけでなく、俗に言う、過ちよりもはるかに悪かったということだ。

 聖歴677年にベレスティグ連邦が崩壊したあと、そのことが完全に明らかになったのだ 》


「ハッ!!レクサンドの野郎……てめえらに都合のいいことばかり並べやがって」

「起こった出来事を、自国のいいように解釈してますね…」


 そして開戦、5年戦争が始まった ────。

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