地獄
残酷な表現が出てきます。ご注意下さい。
帝国軍がザゴルノ・ズラバフから上陸した段階では宣告から僅か1日しか経っておらず大陸全体に侵攻は認知されてなかった。
はじめに見せしめのように帝国が戦闘機で奇襲をかけたのは、山あいの地方都市クエープトだった。
人々が寝静まった頃、帝国軍の無人戦闘機が数十機来襲。10万人の都市を爆撃した。
知らせを受けて隣の街から駆けつけた救援隊は、峠から見る真っ赤に燃えて崩れていくクエープトの街を前に呆然とした。
クエープトの街には軍事施設など無かった。10万人都市の半数以上の住民が命を落とし、街は瓦礫と化した。
深夜ということもあり、死者の多くは崩れ落ちた建物の下敷きになったり、火災によって命を失くした。
かろうじて生きながらえた者も、大火傷を負ったり四肢のどれかを失ったり、火災時の熱波で喉を焼いたりして悲惨なものだった。「みず…みず~」とうめきながら息絶えていった者、「ママ、パパ、…いたいよう…いたいよう…あつい こわいよう…」と言いながら死んでいった幼な子ら。
抱き合ったままの夫婦と、10代の姉弟の黒焦げの遺体が焼けた瓦礫の下から掘り出された時、その一家の長男坊が膝から崩れ落ちて大声であたりも憚らず泣いた。
鉄製の表札と、場所から、彼の家族だと判断された。
その息子は、もう働いていてその日はたまたま買い出しに隣街へ行き、帰りが深夜になってしまったのだという。
彼ひとりを残して他の家族は死んだ。それを、「命拾い」などとは言えなかった。
そこにいた救助隊の誰もが沈黙した。
地獄が そこにあった。