因果応報
残酷な表現が出てきます。
騎士団長には、隣国スハウィンに嫁いだ娘がいた。
開戦前に呼び寄せるはずがうまくいかず終戦まぎわになってやっと人道回廊が設置された。そのルートで、騎士団長の娘一家はベレスティグ帝国に入国するはずだった。
一度も会ったことのない孫息子も孫娘も、最愛の娘も、その夫も、地雷によって死んだ。
気を失いかけている皇帝を見て
「おっと…出血多量か おい治癒師の旦那、コイツを回復させてくれ」
「はいよ」
部屋の片隅で騎士団長の拷問を見ていた治癒師のおっさんが、ヒョイっとやってきて意識朦朧とした皇帝に向けて杖を一振りする。
治癒の陣が、皇帝の削がれた耳も、首の傷も『はんぶん』ぐらい治す。つまり耳はぶらぶらしていて、首の傷は中途半端に塞いだだけだ。
「痛い痛い痛い痛い痛いいいいい」
意識をクリアに戻して、傷も中途半端に直したからか余計に痛いのだろう。
「うるせえな てめえが何万人殺したと思ってんだこのクサレ暴君が」
治癒師は、脇にあったボロボロの布袋から首を取り出すと、レクサンド皇帝の前にゴトンと置いた。
「ヒイッッ!バ、バサン!!」
それは
開戦以来、レクサンド皇帝の身を暗殺から守ってきた呪術師バサンの変わり果てた姿。
つるりとした禿頭に、魔石のピアスをしたその首はまさしくバサンの首だった。
目をカッと見開いたままの呪術師の首は、切り口の血がまだ半乾きだった。
「停戦監視委員会の高位魔術師の協力で、ようやくコイツを仕留められたんですわ…なあ、レクサンドよ ────、殺されたこどもたちが、お前に何をした?言ってみろよ」
「あ、あいつらは、わしに逆らう属国スハウィンの悪魔どものガキ……んぐッ」
治癒師は、レクサンドの顔面に思いっきり拳を打ち込んだ。聖力を込めて鋳造された鉄製のメリケンサックをはめた手で、である。鼻が折れ歯も折れる。
「属国じゃねえ この、クソ歴史修正主義者が」