最終話 青い花
残酷な表現が出てきます。
皇帝レクサンドが暗殺されたその後のこと。
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『レクサンドの』ベレスティグ帝国は世界から無くなった。
皇帝レクサンドが「死去」したからだ。王妃と、後継の皇太子と次男は処刑された。幼い末王子だけが残された。
実は三男の末王子だけはレクサンドの実子ではない。王妃とその愛人の間に生まれた子だった。
愛人の男は平民で、王も周囲も公認の愛人。
ベレスティグ帝国の宰相は、スハウィンに対して「前皇帝の三男を形だけの皇帝として上に戴き、院政を敷いてそちらの国の摂政にわが国を導いていただきたい。
ベレスティグのような大国が体制崩壊したとなれば各国のパワーバランスが崩れるのは必至。しばらくは皇帝レクサンドの死去は公にせずに、わが国の形は存続させたいが協議させていただきたい」というような内容の書簡を秘密裡に送ってきた。
間諜によれば、ベレスティグ国内でクーデターが起こって皇帝と側近が殺害されたのは確かなようだ。
ベレスティグとスハウィンの二国が一緒になって出来た大国は、他国にも緊張を強いることにもなる。
かくして大国ベレスティグ帝国は、かつての自国の領だったスハウィンの者が実質的な権力を握る傀儡政権として国家運営をしていくこととなった。
『レクサンドの』侵略国家・ベレスティグ帝国は消滅したが、『レクサンド後の』新たなベレスティグ帝国は存続していく。その帝国を実質的に治めるのはスハウィン王国の者だというだけだ。
幼い末王子を担ぎ上げる勢力はもういない。
スハウィンの王、シュマシュザドには同腹の弟がいて既に妃も娶っていたため
その弟夫婦に、ベレスティグを治めてもらう形となった。弟のシュマシュビーは事実上の賢王となり、妃のフレンダはそれを支える良き王妃となるだろう。
新たな王が決まった後、レクサンド体制下で宰相を務めていたマンテナと、騎士団長を務めていたルロースが自刃して亡くなったと、諜報部からの報告が届いた。
それを知ったシュマシュザド王らは、心の中でそっと騎士団長の冥福を祈った。
◆
その後のレクサンドは、監獄の島ルカトラジ島に流されたとも、魔術師の人体実験として長いこと酷使されたとも言われていた。
が
実はあの時執務室にいた治癒師アクリーゾによって構成された、誰も体験したことのないような無間地獄を6回ターンしたあたりで息絶えたのだった。狂うことも許されず、最期まで意識は保ったままで。
当然、レクサンドの魂は天上へは行けない。
あんなにも夢見た大ベレスティグ帝国の皇帝としてベレスティグ正教の廟にも祀られず、永遠に最下層を彷徨う下級の魂となった。もう毛ほどの力もない。
レクサンドの遺体は、魔物の群れに放り込まれ骨すら残らなかった ────。
◆
スハウィン国も、ベレスティグ国も、二度とレクサンドのような暴君が出現しないように隣国と魔術で不可侵の条約を結んだ。破れば神霊からの罰がくだる。
レクサンドの時代は、魔術文書の合意は避けていたのだ。レクサンドには、大ベレスティグ帝国の夢物語があったからだ。
◆
スハウィンの国土もベレスティグの国土も、徐々に復興しつつある。
春、草原には水色の小さな花が一面に咲いている。
この小さな花は、どちらの国にも咲いている。花は、どちらの国かなどと考えずにただ、季節が来ればそこで咲く。
皇帝に最初の一撃を加えたあの女官は、事件の後に毒を煽って自死しているのを部屋で発見された。その手には、青い花の刺繍が入った手巾が握られていた。
手先の器用な息子が、入院中に刺繍して送ってくれたものだ。
女官は、息子のもとへ旅立ったのだ。遺体の脇に立って、死んだ女の冷たい肩をさすりながら、女官長は咽び泣いた。
◆
皇帝への復讐の無間地獄の陣を構成した治癒師のアクリーゾは、仕事の合間に時折神殿に行って戦没者の冥福を祈っている。
(ベレスティグ帝国に咲いた青い花も、スハウィン王国に咲いた青い花も、これからもどうか平和な国土に咲き続けますように。
今回の戦争で天上に昇っていった数万の魂よ、どうか安らかに ────)
ー 完 ー
お読みいただきありがとうございます。
当初、1ページに全文をまとめて投稿したのですが後からサブタイトル付きの9話に変更しました。




