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Dear K  作者: 加瀬優妃
7/11

7.25歳の秋(4)

 こうなったら浮気の証拠を探るしかない。

 二階の私の部屋の隣、お父さんの書斎の扉を、腕を組んで睨みつける。


 お母さんはまだ放心状態だった。お父さんと一緒に寝ていた二階に上がれる状態じゃなくて、客間にお布団を敷いた。

 当然ながら、遺品整理できるような状態でもない。だったら怪しいものはその前に私が見つけて、お母さんの目に触れないように隠さないと。


 そんなことを考えて、また腸が煮えくり返る。

 何で私がお父さんの尻拭いをしないといけないのよ。


 どうしてお父さんはお母さんを裏切ったの? そりゃお母さん、お父さんに依存しまくりだったけどさ。ウザかったかもしれないけどさ。

 でも……お父さんだって、幸せそうだったのに。


 一階に音が響かないように、そっと書斎に入る。お母さんを起こさないようにしないと。

 机の引き出しを一通り開ける。鍵がかかっていた一番右上だけはひとまず後回し。その下、さらにその下も探ってみるけど、怪しいものは何も見つからない。

 ペタンと机の前の床に座り込んで、壁いっぱいの本棚を見上げた。


 お父さんは本をたくさん読んでいて、几帳面だから並べる順番もしっかり決まっていた。整理前の本は書斎の机の上に積み上がったまま。

 だけど本棚だけはお母さんにすら触らせなくて

「あー、あの積み上がってる本、片づけちゃいたいのにぃ!」

ってお母さんがよく言ってた。


 そう言えば子供の頃、勝手に書斎に入って本棚から本を引っ張ったらバサバサッと落ちて。その音が面白くていろんな棚から本を落としてたら、お父さんにすごく怒られたっけ。

 あんなに怒られたの、後にも先にもないなあ……。


 そんなことを思い出して涙ぐみそうになるけど、ぶんぶんを首を横に振る。

 今は感傷に浸ってる場合じゃないよね。本棚には本が並んでいるだけだろうけど、一応調べてみようか。


 腰を上げかけて、ふと鍵がかかった引き出しを見つめる。

 お父さんは、大事な物はきっと傍に置いてる。管理したがりのところあるし、自分の手の届くところにおいておかないと安心できないタチだから。

 だから鍵も、ずっと持ち歩いているに違いない。


 書斎の入口付近に置いてあった鞄を開ける。最後の日、お父さんが持っていたいつもの通勤鞄。

 財布、携帯、高血圧の薬。薬が入っている小さな巾着袋に、机の鍵はあった。

 そしてやっぱり、本屋の紙袋は見つからなかった。あの日、本を探したいからって言ってたのに。

 まぁ、口実だったのかな。勿論、探していた本が見つからなかったということもあるだろうけど。


 鍵のかかった引き出しを開ける。すぐに目に飛び込んだのは、預金通帳だった。どうなってるのか気にはなるところだけど、今探したいのはそんな間接的なものじゃない。

 もっと、絶対的な何か――。


「……えっ」


 預金通帳や何冊かのノートを除けると、A5サイズの透明なクリアファイルが現れた。

 挟まれていたのは、長方形に変形折りされた、白い紙。まるで汚さないように、大切な思い出を閉じ込めるように。

 中央に書いてあったのは――『Dear K-san』という文字だった。

 

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