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Dear K  作者: 加瀬優妃
6/11

6.25歳の秋(3)

 葬式の日。あれから二日経ったけど、喪主であるお母さんは誰の目から見ても分かるぐらい打ちひしがれていた。

 この二日間、娘である私が代わりに葬儀屋さんの話を聞いて、細かい打合せなんかも黙々とこなした。


 お父さんは浮気していたかもしれない。だけど問い詰める前に死んじゃった。

 いや、私にお父さんを問い詰めることなんてできたかな。

 ああ、苦しい。何が苦しいかもわからないけど、ひたすらもがいてる感じ。


 お父さん、何で死んじゃったの。もっと長く生きててほしかった。

 そんな、純粋に悲しい気持ちで自分の頭をいっぱいにできないことが、苦しくて腹立たしくて。誰にぶつけていいかもわからなくて。

 結局、感情をすべて打ち消して、機械のように動くしかなかった。


 少し頭が冷えてきたのは、葬式の真っ最中だった。

 お父さんの勤務先である予備校の人達がお焼香を始めた。


 もしお父さんが浮気していたとしたら、きっと会社の人だ。

 だって出会いなんてそれぐらいしかないし。真面目なお父さんは、いつも決まった時間に家を出て決まった時間に家に帰って来た。

 あの死んだ日のように、たまに違う時間に出ていったり帰ってきたりするときもあったけど、本当にたまにだった。一カ月に一回程度。


 だとすると、勤務時間から大幅にはみ出ない程度に寄り道してるんだ。

 気持ち悪い。いい年して。

 お父さん、もう55だよ? あと一カ月で定年だった。信じられない。


 相手の女も大概よね。やっぱりお金かな。ウチはお母さんがあまりお金の管理ができないから、お父さんが全部やってたし。浮気相手に使うお金なんて簡単に捻出できちゃう。

 だけど55のオヤジから金を巻き上げるなんて最低よね。


 私の気持ちの持っていく先は、もうお父さんの浮気相手しか無かった。

 お父さんが死んだのは心筋梗塞による心臓発作だから、別に浮気相手が殺した訳じゃない。

 それは分かってるけど、全部の元凶は浮気相手だって、だから絶対に相手を見つけて思い切り罵ってやるんだって。

 そう気持ちをすり替えなければ、立っていられなかった。


 目を皿のようにしながら予備校の人達を一人一人眺める。

 この中にいるに違いない。あの涙でグショグショのおばさんかな? いや、あのおばさんよりお母さんの方がずっと綺麗で可愛い。あり得ない。

 じゃあ、私よりずっと年下に見える女の子かな? いや、違うわね。隣にいる男の人と親し気に話をしているし。

 この真面目そうなアラサーっぽい人かしら。眼鏡をかけて俯きがちだけど、実は若そうだし、かなり綺麗……。


「……っ!」


 びっくりした。思わず声を上げそうになった。

 見たことある顔、とは思ったけど――まさか、こんなところで会うなんて。


 眼鏡のアラサーっぽい女性は、啓子先輩だった。

 高校の演劇部の二つ上の先輩。綺麗で優しくて憧れてた人。


 啓子先輩は私と目が合うと、瞳を潤ませたままゆっくりと会釈した。

 私を見て、驚いた様子はない。私がお父さんの娘だと知っていたようだ。


 その日――何人かそれっぽい人を注意して見ていたけど、お父さんの浮気相手を見つけることはできなかった。

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