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Dear K  作者: 加瀬優妃
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5.25歳の秋(2)

 自分の父親が、見知らぬ家の扉の奥へと消えていく。

 これはいったい、何を示しているんだろうか。


 その光景を見た瞬間、頭の中がわやくちゃになった。

 気が付けば、私は何も買わずに家に帰っていた。

 お母さんは私がいない間にすっかり家の掃除を終えていた。とてもじゃないけどお母さんの顔を見ることはできなくて、そのまま自分の部屋に直行した。


 確かお父さんは夜シフトの日だった。だから午後から出かければいいんだけど、

「ちょっと本を探したいから早めに出るよ」

と言って、午前十時ぐらいに出て行ったはず。


 生徒の家庭訪問? だったら、本を探したいから、なんて嘘をつく必要はない。

 本屋で友達にでもたまたま会って、時間があるからと家にお邪魔することになったんだろうか。

 でも違う、お父さんは自分でノブを回してスッと中に入っていった。まるで何回もその扉を開けているかのように、慣れた様子で。


 違う可能性を必死で頭の中で探してみたけれど、見つからなかった。

 これはやっぱり浮気……というやつなんだろうか。

 どうしよう。どうすればいいんだろう。お母さんになんて言えるわけがないし。

 じゃあ、お父さんに聞く? あそこは誰の家?……って。

 無理だよ、言えないよ。


 様子がおかしい私をお母さんが心配して、何度も部屋の扉を叩く。


「どうしたの? 何かあった?」

「お夕飯は何がいい?」

「お風呂は? 何時頃にする?」


 そのたびに「頭が痛いだけ」「何でもいい」「明日の朝入る」と短めの言葉で返す。

 だってお母さんの前で、どんな顔をしていいかわからない。顔を合わせたら根掘り葉掘り聞きたがる。

 そしたら私はきっと、誤魔化せないと思う。


 お母さんは泣く、きっと。絶対に黙っていた方がいい。

 私さえ何も見なかったことにすれば、これからも平穏な毎日が続くはず。


 だけど、そんな見せかけの平穏なんて意味がある?……とも思う。

 だけどだけど、お父さんが裏切ってるって知ったら、お母さんは多分生きていけない。それぐらいお父さんが大好きだから。


 何で行ったことのない道を通っちゃったんだろう。遠くのデパートまで足を伸ばそう、とか思っちゃったんだろう。

 そうすればあんな光景を見ずにすんだのに。

 いやそうじゃない。見た私が悪いわけじゃない。悪いのはお父さんだ。

 ねぇお父さん、何をやってるの? 馬鹿じゃないの?


 布団の中に潜り込み、ずっと蹲っていた。いろいろ考えたはずだけど、何も考えられない時間の方がずっと長かった気がする。


 だけど、その状態は意外な形で打ち切られた。


 午後八時過ぎ。一本の電話が、家の中に鳴り響いた。

 救急隊員の人からの電話だった。お父さんが職場で倒れて、市内の病院に救急搬送された、と。


 お母さんと一緒に急いで病院に向かったけど――お父さんは意識を取り戻すことなく、そのまま息を引き取った。



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