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Dear K  作者: 加瀬優妃
3/11

3.17歳の秋

 高校生活最後の演劇コンクール。私達の高校は県代表になり中部大会まで進んだけれど、何の賞も取れなかった。

 これでもう、完全に部活からは引退。明日からは受験勉強まっしぐらだ。


 卒業した先輩たちも見に来てくれて、

「よく頑張ったね」

「私達の代は県代表にもなれなかったもんね」

と励ましてくれたけど、なかなか落ちてしまった気分は上がらない。


 一年前は残念な結果だったけど、二年前、啓子先輩が部長のときは中部大会まで進んだ。そして、啓子先輩が書いた脚本が『創作脚本賞』に選ばれた。

 せめて同じ賞は取りたいよねって、みんなで知恵を絞ったのに。


「……そう言えば、啓子先輩は来てないんですね」


 啓子先輩は地元の大学に進学していた。だから去年は、コンクールだけじゃなく文化祭にも来てくれてたのに。練習中にも一度顔を出してくれて、ジュースを差し入れしてくれたし。

 だけど今年は、一度も啓子先輩を見ていない。


「あー……」


 啓子先輩と同じ代の先輩がちょっと気まずそうな顔をし、隣にいた先輩と顔を見合わせる。


「多分、それどころじゃないんじゃないかな」

「うん、そうだね」

「……何かあったんですか?」


 きっと大っぴらに言える話じゃないんだろうな、と声を潜める。

 他の人には言わないから私には教えてほしい、という気持ちを込めて先輩たちを見つめると

「絶対にここだけの話ね」

とキツめの声で言われた。

 無言でうん、と頷く。


「啓子、いま大学を休学してるらしいのよ」

「え? どうしてですか?」

「うーん……」


 また先輩二人がお互いの顔を見合わせる。


「私達も噂でしか聞いてないんだけどね。どうやら妊娠したらしくて」

「ええっ……」

「しぃーっ!」


 大声を出しそうになって、慌てて両手で自分の口を押える。大きく息を吐いてどうにか心を落ち着けると、ゆるゆると両手をはずした。さっきよりも3ランクぐらいボリュームを下げる。


「いつ、結婚されたんですか?」

「してないと思う。そんな話も聞かないし」

「……見かけた人の話だと、夏頃にはだいぶんお腹が大きかったみたいだから。もう生まれてるんじゃないかな」

「そうなんですか……」

「だから、内緒ね」


 ……ということは、シングルマザーになったっていうこと? 啓子先輩が?

 これは確かにこれ以上深く聞けないや、と思わず口をつぐむ。

 先輩たちもそれ以上は私に説明することなく、他の後輩の方に行ってしまった。


 確かイトコが啓子先輩と同い年で、同じ地元の大学に行っていたはず。

 聞いてみようかな、と一瞬思ったけど、すぐにやめた。


 私は啓子先輩の連絡先は知らなかった。憧れていた先輩だけど、卒業しても連絡を取り合うほどの仲ではなかった。

 そんな私が興味本位で詮索するの、絶対におかしいと思ったから。


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