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Dear K  作者: 加瀬優妃
2/11

2.16歳の秋

「えーと……? 『傍線部③について、この表現が暗示する「私」の心理として最も適当なものを、次から選べ』。……知らないよ! 適当だからテキトーに選んじゃっていいかなあ、もう!」


 学校から配られた『現代文』のプリントを放り投げ、大袈裟に溜息をつく。

 台所で洗い物をしていた母が「バカねぇ、香澄」と言いながらフフフと笑った。


「なーに? 宿題?」

「うん、週末課題。夏目漱石の『こころ』。期末の範囲なの」

「ああ、お母さんも高校生のときに習ったわね」


 高2になると、学校の勉強も格段に難しくなる。英語とか数学もそうだけど、特に現代文は何だか文章がまわりくどいというか難しくてよくわからない。

 それに、この『こころ』は何か辛気臭いというか……。

 こう言ったら、予備校の国語講師をしているお父さんにめっちゃ叱られたんだけど。


「香澄、よく聞きなさい。この『こゝろ』は夏目漱石の傑作、日本で一番売れている本なんだぞ」

「へー」

「文句を言ってないで、ちゃんと読みなさい」

「だーって、『私』とか『K』とか、登場人物みんな暗いんだもん。ドロドロ三角関係っぽいし」

「暗い、の一言で片づけるんじゃない。いいか? これはそもそも愛憎劇じゃない。教科書で扱われているのは三章仕立ての三章のほんの一部だからそう思うだけで、最初から読めば……」

「あー、ハイハイ」

「聞きなさい、人の話を!」


 お父さんは職業柄、小説の話をすると解説やら考察やらが入ってきてとんでもなく長くなる。

 とてもじゃないけど全部聞いてられないってーの。

 でも確かになあ、教科書の一部分だけ切り取って登場人物を理解しろと言われても、ちょっと無理があるんじゃないかなあ。


 選択肢だから適当に選べばいいんだけど、何となくそういういい加減なことはしたくないな。この辺は、お父さんに似ているかもしれない。

 仕方がない、お父さんが帰ってきたらちょっと聞いてみて……。


「……あれ? お父さん、帰ってくるの遅くない?」


 時計を見ると、もう夜の十一時を回っていた。

 お父さんは予備校勤務だから、授業のコマによって昼シフトと夜シフトがある。だけど夜シフトのときでも十時半には家に帰ってきてるのに。


「何かね、大学入試説明会の準備で遅くなるって連絡があったわ」

「ふうん」


 まぁ、明日の夜にでも聞けばいいか。

 テーブルの上に広げていたプリントをガサガサと折り畳み、次は数学をやろうと問題集とノートを取り出した。

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