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Dear K  作者: 加瀬優妃
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1.15歳の秋

 今日の授業も終わり、ババッと荷物をまとめ、友達との挨拶もそこそこに廊下を駆けだす。

 私が所属する演劇部は、二週間後に控えているコンクールに向けて猛練習中。いやでも力が入っちゃうというもの!

 ……とは言っても、私達1年生は裏方が殆どだけどね。


「……あ」


 体育館に向かう廊下とは別の、三年生の校舎と繋がる渡り廊下。

 サラサラした長い髪を靡かせた色白の美人がポツンと立っていた。演劇部の部長、三年生の三上啓子先輩だ。

 いつも主役級の役を演じる、ザ・ヒロイン。当然ながら、めちゃくちゃモテる。

 でも鼻にかけたところとかなくて、親しみやすくて喋りやすい。全然エラそうにしないし、私達下級生にもとても優しい、素敵な先輩。


 そんな先輩が、珍しく一人でいる。

 これはチャーンス、とばかりに抜き足差し足で近づく。


「せーんぱい!」

「ひゃあっ!」


 ポン、と背中を叩くと、先輩はこっちがびっくりするぐらいの大声上げた。ひらりと先輩の手元から白いものが落ちて、私の足元へ。


「ご、ごめんなさい、先輩。そんなに驚くと思わなくて……」


 慌ててその白いものを拾い上げようとすると、先輩の手の方が先だった。

 さっと私の足元から回収してズボッと制服のポケットに右手を突っ込む。


「いいのよ、ボーっとしてた私が悪いんだから」


 私の方は見ず、やや早口だ。

 何となく、啓子先輩らしくないな、と思った。


 それは、レポート用紙を長方形に変形折りした手紙だった。パッと目に入ったのは、中央に書かれた『Dear K』の文字。

 変形折りも、Dearという言い回しも、女の子同士で手紙を書くときには普通にやっていたこと。

 日常的によく見るものだったから、啓子先輩がそんな手紙を持っていてもそう珍しい事ではないんだけど。どうして慌ててたのかな。


「香澄ちゃん、早いわね。まだ終わって5分も経ってないのに」


 そう言う先輩は、穏やかで優しい、いつもの先輩の顔をしていた。


 あの白い手紙、ひょっとしてラブレター的なものだったのかな。

 ラブレターと言えばちゃんと封筒に入っているものだと思うし、男の子が変形折りするのも変だけど。

 でも、誰かに見られてもいいように女子同士の手紙のやりとりを見て、見様見真似で折ったのかもしれない。

 そして先輩は、そういう手紙だから人に見られたくなかったのかもしれない。

 となると、私は何も見なかったふりをしていつものように元気に明るく振舞うのがいいかも。


「だって今日、初の通し稽古じゃないですか! すっごく楽しみです!」

「香澄ちゃんは照明担当だったわよね」

「はい! 先輩を誰よりも輝かせてみせます!」

「やーだ、うふふ」


 三年生はもう少し遅くなるから慌てなくてもいいのよ、と言い、先輩は渡り廊下の向こうへと歩いて行った。

 啓子先輩は後ろ姿も綺麗だな、とかそんなことを考えながら、私はポーッとその姿を見送った。


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