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超次元戦闘スーツ――ステラ別話  作者: 安田けいじ
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戦闘スーツの訓練

 太平洋の深海を、黒い物体が移動していた。人型の破壊兵器で、頭部にレーザー砲を搭載している、ネーロ帝国のロボット、グラースである。頭部が自在に動き全方向が射程に入る為、彼には殆ど死角が無い。


 グラースは、何かに突き動かされるように、海底を一路日本へと向かっていた。両腕を前方に突き出し海底を歩く姿は、巨人のゾンビのようにも見え、不気味だった。ステラに飛行設備を破壊された為、歩いて進撃しているのだ。

 彼は、目標を破壊するまで歩みを止めることは無い。その目標こそ、ステラ達なのである。


 レグルス達は、グラースの位置を特定した後、北海道近海の孤島に趣き新型スーツの性能テストを行った。攻撃、防御ともパワーアップされ、強度もサルガスの本気の攻撃にもびくともしなかった。

 彼らの国の戦闘スーツでは、ステラのスーツが高性能、最強とされていたが、それを上回る、このスーツの存在は、大きな戦力になると二人は喜んだ。


 ユウキの家に帰ったレグルスとサルガスは、グラースの現在位置と、北海道への到達時期は一月後だと話し、新型スーツのテストの様子をステラに伝えた。


「そんなに凄いスーツなら、一番強い人が着る方が戦力アップするんじゃないですか?」


 ユウキが口を出すと、知的なレグルスが、異を唱えた。


「三十日でどこまで操れるか分かりませんが、戦闘経験のないユウキ殿を護る為にも、彼が着るのが最善かと」


「いや戦力を考えると、ユウキ殿の言うようにステラ様か、レグルス様が適任では?」


 サルガスが、判断を求めるようにステラを見た。


「そうね。でも、この人には新型スーツを着てもらうわ。私たちの旧タイプは、これ以上パワーアップできないの?」


「旧タイプの最高出力は、全パワーの八十パーセントに設定されていますので、MAXまで上げましょう。当然、高速で動き過ぎると、身体への負担も大きくなりますから、注意が必要です」


 メカにも詳しいレグルスが説明した。


「じゃあ、お願い」


 ステラは、そう言いながら心配そうな顔のユウキを見た。彼女は、ユウキに対する自分の気持ちが本物だと、はっきり分かっていたのだ。だから、何より彼の事が心配だった。

 一月くらい訓練したところで、実戦経験のないユウキでは、まともな戦いが出来るとは到底思えない、せめて強力な鎧を着せてあげたいと思ったのである。


 次の日から、ユウキの戦闘訓練が始まった。師匠はサルガスである。ユウキとしてはステラの方がよかったのだが、手心を加えすぎるからと却下された。


 スーツは、着る者の体格に合わせて変化し、色も変えられるというので、彼の好きな深いブルーにした。人目につかない孤島を探して、訓練の場所に決めた。


 戦闘スーツは心で制御するため、精神の集中が一番大事となる。飛行訓練では、浮き上がるまでが一苦労だった。浮いたかと思ったら、ドサッと落ちた。十メートル以上から落ちた時は、さすがにユウキも恐怖を感じたが、スーツが衝撃を吸収するのか、大したダメージはなかった。


 浮いては落ち、落ちては飛ぶ、落ちる恐怖に打ち勝つしかないと、ユウキが思い至った時、突然サルガスが彼を小脇に抱えたかと思うと、空高く舞い上がり、一気に、高度二万メートル付近まで上がり、ユウキをポイと投げ捨てたのだ。


 あっという間もなく投げ出されたユウキは、何が起きたのかとパニック状態になってしまった。

 ユウキは、猛スピードで落下してゆく自分と、眼下に見える島の形が見る見るうちに接近して来る恐怖の極限状態にあって、なす術がなかった。懸命に心を落ち着かせようとすればするほど心が乱れるのだ。

 地上まで数百メートルの所まで来て、もうだめかと思った瞬間、ユウキの中で何かが弾け、集中力が倍加した。


「行けーッ!!」


 彼は、両手を前へグンと伸ばすと、一気に飛行体制に入り、地上の木々を掠めながら急上昇していったのである。間一髪だった。

 ユウキは、そのまま水平飛行に入ると、ぐんぐんスピードを上げて、音速を超え、更に加速していった。マッハ五を越えても、パワーは五十%しか出ていなかった。


 ユウキが見ているのは、マスクに映る視覚映像である。その端のほうに、スピードが表示されており、既にマッハ六を超えているのが分かった。そして、前方の障害物や地形等が、つぶさに表示されて、安全飛行の様々なサポートがされていたのだ。


 彼は、面白くなって、背面飛行、急降下、急上昇、着地、減速、加速、と思いつくままの事を試みた。

 スピードを出しすぎて海中に突っ込んだり、高速で動きすぎて目が回ったりと、散々な目に遭いながらも、少しづつコツを掴んできた時には、既に夕方近くになっていた。


 

 彼は、そろそろ帰ろうと思ったが、此処が何処で、どう帰ればいいのかが分からない事に気づいた。試しに「現在位置表示」と、言ってみると地図が表示され、日本から五千キロ程の海上だと分かった。言葉にも反応する事が分かったユウキは、


「北海道、マッハ五、自動運転」


 と、指示すると、スーツは勝手に旋回を始め、北海道へと進路を取った。


 その時、自分の遥か上空に誰かいる事にユウキは気づいた。それは、サルガスだった。彼は、上空から、ずっと見守っていてくれたようだ。


 訓練から帰った頃には、すっかり日も落ちていた。


「お帰りなさい」


 ステラが、笑顔で迎えてくれた。食事を済ますと疲れ切って居眠りしているユウキを、

ステラが起こした。


「早くお風呂に入って」


 ユウキは、言われるままに風呂に入り、早めに床に就いた。


 朝になって、全身が痛いと言うユウキの顔を、ステラが覗き込んだ。


「大丈夫?」


「ああ、何とかね」


 ユウキは、笑いながら答えた。訓練は辛かったが、ステラの為にと思えば辛抱できた。



 この日は、シールドの使い方を学んだ。常時シールドを張っていては攻撃できないし、エネルギーの消費も激しい、ここぞと言う時に使うんだと、サルガスから説明を受けた。


 サルガスが、仮装弾を撃ち込んでくるのを、いかに躱し、シールドで防ぐかが課題である。仮装弾が、容赦なく雨のように降ってくる。仮装弾は、当たっても大きなダメージはないが、百発、千発となると徐々に効いてきて、一時間もすると、たまらず尻餅をついてしまった。

 躱すスピードも、シールドを起動するタイミングも遅く、殆ど避けられなかった。


 そんな繰り返しが何時間も続く内、ユウキは、サルガスが仮装弾を打つ瞬間、その拳が一瞬オレンジ色に光る事に気づいたのである。

 サルガスの拳がオレンジ色に光った瞬間にシールドを張ると、ナイスタイミングで防御出来るようになったのだ。


 スーツは心で動く。ユウキが、徐々に心を研ぎ澄ましていくと、スーツの動きは加速し、シールドを使わなくても、仮装弾を避けられるようになっていた。



 訓練は格闘術、エネルギー弾等の撃ち方へと進み、二十日ぐらい経つと、何とかスーツを思い通りに動かせるようになり、サルガスとの戦闘にも、充分付いていけるまでになっていた。


「ユウキ、お前は筋がいい。二十日ほどで、ここまでやれるとは驚きだ」


 サルガスが、マジ顔で言った。


 様子を見に来たステラが、物陰に隠れて見つめていたが、安心したように帰っていった。



 最終日には、レグルスの胸を借りたが、レベルが違いすぎて話にならなかった。この際と、ステラとも戦ってみたが、二人とも体に触る事すらできなかったのだ。少しは自信がついて来たと思っていただけに、ユウキのショックも大きかった。


 最後に、ステラとレグルスの激突を見せられたが、動きが早すぎて、よく見えなかった。上には上がいるもんだとユウキが感心していると、あの二人は軍の中でも最強で、レグルスはステラの戦闘の師匠だと、サルガスが教えてくれた。


 あっという間の二十五日間の訓練が終わった。ユウキにとっては人生の大きな転機ともなる訓練だった。


「本番はこれからよ、気を抜かないで!」


 ステラの言葉に、気を引き締めるユウキだった。


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