表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超次元戦闘スーツ――ステラ別話  作者: 安田けいじ
7/31

現れた仲間

 グラースの事件から何週間か経ったある日、ユウキが出勤する為、車のエンジンをかけようとしたが、掛からなかった。やむなく、その日は近くのバス停まで歩く事になり、ステラが途中まで送ってくれた。


 ユウキが思い切ってステラの手を握ると、彼女は嫌がらなかった。


「キスしたい」


 ユウキが調子に乗って言うと、


「えっ、馬鹿を言うな。皆が見ているではないか……」


 彼女は、照れを隠すようにユウキを睨んで、その手を振りほどき、さっさと帰ってしまった。



 その夜、ユウキは残業で遅くなり、夜道を一人で歩いて帰っていた。家まで、あと一息という所まで来ると、街灯が途切れ、月の光だけが頼りとなった。


 誰かに後をつけられているような気配がしたユウキが、小走りに駆け出そうとした、その時である、いきなり、誰かが彼の左腕を掴んだ。


 驚いたユウキが、慌てて振り払おうとしたが、相手の力は半端ではなかった。見ると二メートルはあろうかという大男だった。

 ユウキが振り向きざまに、渾身の右回し蹴りを頭部に放つと、大男は、それをスッと躱し、ユウキの足を掴んで、グイっと投げ上げた。

 ユウキが、その勢いのまま後方に一回転し、着地しながら攻撃態勢を取ろうと顔を上げた時には、大男の巨体が眼前に迫っていた。


(やられる!)そう思った刹那、大男の前に黒い影が立ちはだかった。


 月の光の中で、二つの影が交差して、ドスッ! ドンッ! と、拳が炸裂する鈍い音が響く。すると、大男の方がドスンと倒れ込んだ。


「ユウキ、大丈夫なの?」


 ステラの声が闇に響くと、逃げようとした大男が立ち止まり、何やら口走った。すると、ステラが大男を振り返り「サルガスなの?」と、駆け寄った。


 二人は、訳の分からぬ言葉で何やら話していたが、ステラが荒い息ずかいをしながらユウキに言った。


「彼は私の仲間よ、心配いらないわ」


 その言葉にユウキは、力が抜けたように座り込んでしまった。大男が、すまなかったねというようにユウキの手を取り立ち上がらせた。


 ステラの方を見ると、いつの間に現れたのか、もう一人の男と抱き合って再会を喜んでいた。


「ユウキ、家に来てもらっていいわね?」


 ステラに言われ、ユウキが頷くと、四人は暗い道を彼の家に向かった。



 居間に通し明るい所で見ると、二人とも例のスーツを着ており、身体は頑健で、眼は怖いほどに鋭かった。大きい方はワイルドで、もう一人は知的な雰囲気である。


「日本語を入れたから、言語モードを合わせてみて」


 ステラが促して、二人が腕時計のようなものを操作すると、会話が可能となった。


 彼らは、今まで連絡出来なかったのは、通信機が壊れてしまった為だと説明して、この街へは、グラースのニュースを見て来たのだと話した。


 ステラは、ユウキに彼らを紹介した。大きい方がサルガス、知的な方が隊長のレグルスで、いずれもステラの親衛隊だという。


「この人は、この星でお世話になっているユウキよ」


 ステラに紹介されて、ユウキは二人と握手を交わした。


「ステラ様が、お世話になり有難う御座います」


 レグルスが、頭を下げた。


「とんでもない、私の方こそ、家事をして頂いて助かっています」


「ほう、ステラ様が家事ですか? それに、話し方まで女性らしくなって……」


 レグルスが、訝し気にステラを見た。


「私だって、家事ぐらいできる。そんな目で見るな!」


 ステラが、照れ隠しをするように男言葉になった。


「お二人はどういう関係なんですか?」


 仲の良さそうな二人を見て、サルガスが聞いた。


「夫婦だ」


「えっ!」


「と、いっても、偽装だがな」


「それで、一年も一緒に暮らして、何もなかったのですか?」


 レグルスが執拗に聞いてくる。


「それは……」


「いえ、私達は、戦いの連続で恋愛すらできないステラ様が、不憫だったのです。貴女に愛する人が出来たなら、どれほど嬉しいか」


 レグルスの慈顔が、ステラを包んだ。


「ありがとうレグルス。ユウキの前で言うのも何だが、私は、地球に落下した時に記憶を無くしてしまったんだ。二人で暮らす内に愛情が芽生えたのは確かなのだが、記憶が戻ってみると、自分の気持ちが分からなくなってしまって……」


 ステラが、ユウキの顔をチラ見しながら言った。


「この世界に、偶然は無いと言いますから、今回の貴方達の不思議な出会いも、きっと意味があるはずです。お二人で良く話し合えば、縺れた糸も解けるかもしれませんよ」


 レグルスの言葉に、ステラとユウキが頷いた。


 宇宙での戦いでは、多くの犠牲者が出たようで、ステラ達は涙ぐんで、早くこの戦いを終わらせなければと誓い合っていた。


 次に、この街に来たロボットの事へと話は変わった。敵の正体は恐らく彼らの艦を襲った新型ロボットのグラースだと意見は一致した。


 サソリ型のロボット、スコーピオンがシールドを破り、もう一体の破壊型ロボット、グラースが、艦内に入って破壊活動を行った為、ステラ達の戦艦は破壊されたのだ。


 彼らの戦闘スーツには、シールドという防御装置がついていて、少々の攻撃ではダメージを受ける事は無いのだが、グラースのビーム砲は、それを超える破壊力があるらしい。


 彼らの話に、ついていけないユウキが心配そうに聞いた。


「そんな敵に、たった三人で勝算はあるんですか?」


「三人? 四人でしょ」


 当然だというように、サルガスが口を挟んだ。


「彼はダメ! 戦闘訓練も受けていない平凡な人よ。巻き込まないで!」


 ステラが、顔色を変えて彼らを牽制した。


「そうは言っても、ユウキ殿は既に抜き差しならぬところまで関わっています。予備のスーツがありますから、いつでも訓練は始められますが、ユウキ殿の気持ちはどうなんですか?」


 レグルスが、鋭い目をユウキに向けた。


「ステラの力になれるなら、やらせてください!」


「ほんとにいいの。戦士になるという事は、命を捨てるという事なのよ」


 ステラが、ユウキの覚悟を見定めるように言った。


「君の為なら、命だって捨てて見せるさ」


「……」


 ステラは、ユウキに危ない事をしてほしくなかった。だが、自分と一緒にいれば、危険は何時やってくるか分からない。スーツが使えるようになれば、最低限の対策になる事は間違いなかった。


「分かったわ。そこまで言うなら、ユウキに戦闘訓練を受けてもらいましょう。それで、スーツはどのタイプなの?」


「もしもの時にと、博士が持たせてくれたニュータイプのものです。私達もまだ性能を確認出来ていませんし、ユウキ殿に合わせ言語の更新も必要ですので、しばらく待って下さい」


 レグルスの話に、ステラは意外な顔をした。


「そんなものが在ったの、知らなかったわ。グラースは、まだ太平洋のどこかに隠れているはず、ともかく準備を急ぎましょう」


 当面、レグルスとサルガスも二階に住むことになり、グラース撃退への準備に入った。

二、三日して彼らは、新型スーツのテストも兼ねて、グラースの探索に出掛けていった。


 ステラも、時間があると戦闘訓練をしてくると、何処かへ出掛けた。グラースやサルガスと戦った時、戦闘能力が減退している事に、気づいたそうだ。


 ユウキも戦闘訓練に備え体力作りを開始していて、それぞれに、戦いへの準備に余念がなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ